第29話 クリスマス当日

「はーい、メリークリスマース」

「メリークリスマース」


 ぱぁん、とクラッカーがはじける。普段使わないクラッカーを使うと言うだけでとてもテンションがあがる。

 昨日二人で設置したクリスマスツリーもばっちり画面に入っているし、今日は完璧なクリスマスの入りであることを確信した。

 まあいっつも完璧ですけどね!


 《メリークリスマス!》 ¥1000

 《メリクリ!!》 ¥500

 《ついに聖夜ですね!》


「ついにクリスマスだねぇ。言っても当日ではないけど。当日だと平日になっちゃうし、それだとさすがに予定があって見れない人多いだろうしね」

「そんなに皆、日付にこだわっておるのか? だいたい同じ月ならイベントをしてもいいじゃろ」

「私も同感だけど、世の中にはたとえ平日の忙しい日でも当日にこだわる人もいるんだよ」


 そのおかげで一日遅れなだけで安売りされてるスイーツが食べられたりするので、世の中うまくできてるものだ。えへへ。来週はケーキ食べ放題だ。吸血鬼は太らない。そんな素敵スペックなのだ。


 《右に同じ》

 《クリスマスなんて飾りです 偉い人にはわからんのです》

 《日付にこだわるのはお子様の証》

 《さすが〝本物″は違うね》


「ふっふっふー。最近視聴者さん優しい人ばっかりだね。うんうん。いいことだよ。みんなありがと。好きー」


 流れるコメントはいずれもいい反応ばかりだ。最初はアンチも結構目立ってたけど、最近はずいぶん治安が良くなったようで安心してシロと放送できるね。いいことだ。

 私はみんなに笑顔でお礼を言う。


 《告白されたやったー》

 《守りたい、この笑顔》 ¥2525

 《お前がBANしたんじゃい》

 《可愛いけど独裁者なんだよなぁ》


 なんか一部不穏な発言もあるけど、下ネタとかひどい悪意がないのでBANできない。最近、視聴者さんも距離感覚えてきたな。


「さて、じゃあそろそろクリスマスらしく、ケーキを食べていこうか!」

「そうじゃな。当日の楽しみと言うことでわらわは見せてもらえなかったが、そう言うだけの何かすごいものを用意したんじゃろうな?」

「もっちろん! きっとシロったら飛び上がって喜ぶよ!」


 にやっと笑って言うシロに笑顔で返すと、シロは何故か呆れたように肩をすくめた。


 《アカのハードル自分でめちゃくちゃあげるスタイル、正直好き》 ¥1000

 《リスクを好むのは陽キャなんだよなぁ》

 《夕飯飛ばしてケーキ、これが若さか》


 と言う訳でケーキを冷蔵庫からとってくる。箱をドーンと置くと、シロはおお、と素直に驚いてくれた。リボンをといて、いつでもひらける様にしてシロを見る。


「随分大きい箱じゃな。いくつ買ったんじゃ?」

「ふふふ、シロさん、驚いてくださいね? いくよ!」


 じゃーん! と蓋を開けると、シロはぴんと毛を逆立てて驚いてくれた。


「な、なんと! なんじゃこれは!? 四角いぞ!? それに大きいし、しかも、なんじゃこの、わらわは!? 店の者に無理を言ったのではなかろうな?」

「いやいや、普通にこういうオーダー商品も売ってるんです。箱の時点でも大きいけど、こうやってみるとすごいね。30センチ50センチくらいだけど、実物のインパクトすごいよね」


 特大ケーキ、しかも中央には白猫のシロの姿がリアルに絵で描かれている。おまけに砂糖でつくられた白猫も数体飾ってもらっている。

 ちょっと写真撮っておこう。わー、横から見ても迫力すごい。


 《これはすご》

 《期待させるだけある》

 《やべーな》

 《本気の猫愛を感じる》 ¥5000


「さ、シロ。ケーキ入刀だよ! どこから食べよう。うーん、無難に端っこから食べようか」

「どこでもよいぞ。あ、その白猫が食べたいぞ」


 《同族食いで草》

 《シロがシロを食べる!? 解釈違いですぞ》


「ギャラリーうるさいでーす」


 四隅の白猫を食べられるように切り取る。ちなみに四体いて全部ポーズが違う。お金の力って最高!

 シロの前に出すと、シロはすでにフォークを持ってわくわくしている。うちのシロ可愛すぎるな。二人分並べて、早速実食だ!


「んー! 美味しい!」

「うむ! この猫は……! 固いんじゃな。ふむ。これも美味しいの!」


 めちゃくちゃ美味しい。甘すぎず、入っている果物も酸味がしっかりしていくらでも食べられそう!

 二人で一つ分食べて、二つ目をお代わりして食べながら視聴者さんにも話を振ることにする。


「そう言えば結構視聴者さん増えたけど、そろそろ視聴者さんの名前決めたりしてもいいのかな? 初めてすぐだとさ、ちょっと人もいないのに自意識過剰とか思われるけど、そろそろいいよね?」

「うむ? そう言うのもあるのか」

「だって視聴者さんってずっと呼ぶの長いし、こうやってやり取りするならあったほうがいいんじゃないかな。えーっと、そう、ファンネーム」


 Vの人とかは最初に決めてるんだよね、知ってる。あとタグとかも決めてたけど、それはもう普通にチャンネル名とか私の名前でつぶやいてくれてるからいいよね。


 《アカでもそう言う遠慮する気持ちあったんだな》

 《意外》

 《ギャップ萌え狙ってんのか?》

 《気遣いできて偉い》 ¥300


「失礼すぎる。私だって遠慮することあるもんね? シロ?」

「んん? まあ、そうじゃな。そう言うところがないわけではないの」


 シロへの抱っこやちゅーとかちゃんと段階踏んでお願いしてるし、全然遠慮がちだもんね。シロなら知ってるもんね? と思ったけど目をそらされてしまった。一応肯定してくれてるけど。


 《自他ともに認める稀なの草》


「と、とにかく、ファンネーム。私たちが赤と白だから、色がいいかな?」

「悪くはないが、青色、などと呼びかけるのか?」

「うーん。視聴者さんはどう思う?」


 《色にちなんだ呼び名かぁ、結構むずくね》

 《灰人とかw》

 《黒子は?》

 《百合を見守ると言う意味とかけてボーダーとかしゃれてね? 俺天才》


「んん! 黒子いいかも! わかりやすいし呼びやすい! 黒子さんに決定!」

「黒子と言えば歌舞伎などから裏方と言う意味じゃぞ。客に向かって黒子など失礼ではないか?」

「じゃあ視聴者さんに決めてもらおう。全員一致は多分無理だし、過半数なら決まりってことで、うーん、これはツブヤイターで決めよっか。見やすいし、生放送見てない人の意見無視できないしね。猫動画しか見ないってひとは、そもそも猫の視聴者さんとは基本会話ないしね。今呟いておくから、みんなよろしくねー」


 と言う訳でこれでちょっと前から気になってたことも解決したところで、ケーキも三きれめに突入する。これでようやく半分だ。

 お腹いっぱいになってきたけど、消化しようと意識すればいけそう。傷んじゃっても食べられるけど、やっぱり気分はよくないし、このまま食べちゃおう。


 《地味にえげつない量ケーキ食ってるなwww》

 《お菓子は別腹、二人とも女の子だかんね》

 《いっぱい食べる女の子は可愛い》 ¥5000

 《女の子? ボブは訝しんだ》


「女の子でーす。食べ終わるまで、せっかくだしみんなにクリスマスプレゼントと言うか、なにかリクエスト募ろうかな。新しくまろまろでくださーい」


 その後、まろまろの希望により、視聴者さんが言ってほしいセリフを言ったり、シロとあーんしあったり、カメラにウインクしたりしながらケーキを食べきった。

 結構時間かかったけど、二人とも美味しくいただけた。嫌食いすぎ、さすがにデブwwwみたいなコメントきたけど、今回だけは許そう。私も人ごとならこの大きさ一気に食べるのはさすがにそう思うから。


「さて、えんもたけなわ、とうとうメインイベント、私とシロのプレゼント交換でーす。どんどんぱふぱふー」

「う、うむ。そうじゃな」

「じゃあ早速私」

「いや! ここはわらわから行かせてもらおう!」


 手を叩いてだらけてきた空気を入れ替えてから、早速机の下に隠しておいた紙袋を取り出そうとすると、シロが挙手しながら立ち上がって主張したのでびっくりしてしまう。


 《やる気満々で可愛い》 ¥300

 《見切れてるの可愛い》 ¥500


 視聴者さんはびっくりしてないみたいだからいいか。シロに目を向け、手も向けて促す。


「じゃあどうぞ? ていうか急にどうしたの? めちゃくちゃ自信出してきたね」

「やめんか! 自信がないから先行するんじゃ。汝は絶対にわらわを喜ばせる自信があるんじゃろ? わらわはあまりない。じゃから先にするんじゃ」

「えぇ、まあいいけど」


 自信ないからなのか。妙に必至だけど、べつにそんな気にすることないんだけど。とりあえず喜ぶ準備しておこう。


「こ、これじゃ」


 シロは私にそっと机の下から包装された四角い箱を取り出す。いつになく緊張していて、とっても可愛いのだけど、なんだか私もつられて緊張しちゃいそうだ。


「ありがとう、開けるね?」

「あ、あとでもよいが」

「いや、生放送だし、その前提でやってたよね。よっぽど恥ずかしいならやめるけど」

「そ、そうではない。よい、開けるがよい。覚悟はできておる」


 シロ、めちゃくちゃ真剣な顔してる。いつもゆるめのほんわかやさしい空気感だったので、なんかそれだけでちょっと私もドキドキすると言うか、すごい緊張してしまう。

 でもだめ! いつも通りじゃないと、シロが余計に緊張しちゃう!


「よーし、じゃあ開けます。デュラララララララララ、じゃーん、おおお!」


 包装を丁寧にといたのでちょっと間の抜けた感じになってしまったけど、私は無事シロのプレゼントに驚けた。


「なにこれかわいー!」


 中から取り出したぬいぐるみを抱っこする。シロと同じ白猫の可愛いぬいぐるみで、めちゃくちゃ可愛い。ちょっとゆるい感じの表情がいつものシロに似ているし、私好みだ!


「えー、どうしたのこれ! めっちゃ予想外なんですけど!」

「う、うむ。汝はあまりこう言ったぬいぐるみをもっておらんし、子供じゃし猫も好きじゃから、こう言うの好きかと思っての」


 なんか理由はいまいちピンとこないけど、でも可愛いから嬉しい! 実家ではいい顔されなかったし、こっちに来てからは本物の猫がいるから特にぬいぐるみの必要性なかったけど、ぬいぐるみが嫌いな女子はいません!


「ありがとうシロ! 自分ではこういうの可愛すぎるし、買うって発想がなかったから嬉しい! それに何より、シロが私の事見て、私が好きな物を選んでくれたの、本当に嬉しい! ありがとう! 愛してる!」


 お礼を言いながら、赤くなって照れていき顔をそらすシロが可愛すぎてたまらず、ぬいぐるみを抱いたままシロに抱き着いてぎゅーっとして愛を叫んだ。

 シロは抵抗せずに私の肩をたたいて反応してくれる。力をゆるめると、シロはちょっと呆れて眉尻をさげながらも赤くなった可愛らしい顔ではにかんだ。


「そ、そんなに大きな声をだすでない。その……気に入ったなら、なによりじゃ」


 きっとコメントも流れているだろうけど、今だけはシロの思いだけに純粋に喜びたくて、私は生放送のことを忘れてもう一度シロをぎゅっとした。

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