第9話 反響
「うっわ! シロ! シロ見てこれ!」
「む? なんじゃ?」
シロが毎日朝に血液型占いを始めてから数日。バズった。
朝ごはんを終えてからスマホを手にとったところ、めちゃくちゃバズってることにようやく気付いた。昨日までもいい調子だったけれど明らかに一気に登録者数が増えたし、SNSのツブヤイターアカウントもめちゃくちゃフォローされてる。コメントと再生数もすごい。これは完全にバズったと言っても許されるレベル。
元が短い動画なのでさすがにまだお金稼ぎ解禁されるレベルではないけど、これは毎日続けていれば確実に時間の問題だ。
今日の~と言うノリなので過去の分までさかのぼって見る人は少ないだろうけど、その分毎日確実に見てもらえるのは大きい。ちゃんと手抜きせず、動画の冒頭でその日の日付を言って別に撮影したりした成果が出ている!
「ふむ。人数が増えているの。よかったの」
「うん! やっぱりこー、努力が結ばれた感じで嬉しいよー。もちろんシロの可愛さあってのものだけどね。ははー、シロ様仏様」
「まあ、汝も頑張っておるよ。わらわではそのようにしてお金を稼ぐなどと言う発想もないからの」
スマホを覗き込んだシロはあまり驚いた様子はないけど、ぺろぺろと自分の肉球をなめながらもそう私のことも褒めてくれた。優しい……。そして可愛い。好き。
シロの背中を撫でながらDMもチェックしていく。フォロバして、可愛いとかお褒めの言葉には全部いいねして、と。さすがに数が多いので全部にありがとうは言いきれない。変なのはブロックしてー、と
「あ、そう言えばマロマロに登録するの忘れてた」
SNSと連携して匿名でメッセージを送れるらしいマロマロってやつもなんかみんな使ってるんだよね。これは変なメッセージも来ないらしいから、使っておかないと。
ツブヤイターでそのままログインして登録になるのか。便利。で、そのままつぶやくだけ、と。うむ。かんたーん。全然実感ないけど。すごい。
あ、でもちゃんとこの画面で受信箱を確認しないと来てることわからないな。登録してるメールは普段チェックしないアドレスだから気を付けないと。
「……」
「あ、シロ興味ある?」
「……うむ」
ソファにうつぶせに寝転がって他の人の質問とか答えを見ていると、シロがぎゅぎゅっと胸の下に割り込んで顎の下に頭を擦りつけながら画面をのぞき込むように入ってきた。
ふわふわして気持ちよくて可愛い。スマホよく見えなくなったけど、何も言えない。
「のう、ところで身分証なんじゃが、やはり年末までにはちと厳しいと思うんじゃ……」
「ん? いや、そんなことないと思うけど、だから何回でもチャレンジすればいいんだし。そんな気負わなくていいよ?」
「そうは言ってくれるが……その、実はの、問題文を読むことはできるんじゃが、よく意味がわからなくての」
「んー? どしたの?」
シロは私がパソコンを使っている時はぽちぽちとネットの問題集を見て勉強していたみたいだったし、必要なら使ってねと筆記用具とかも用意して置いておいたけど使ってないし、提案してから何にも言ってこないから順調なのかと。
「例えばなんじゃが、えっと、何か問題を出してみてくれんかの?」
「ちょっと待ってね。えっと、お気に入りに入れてたこのサイトだよね。えー、じゃあ第一問、交差する道路の方が道幅が広かったが、こちらの方が左方車なので先に進行した。○か×か」
「さほうしゃとはなんじゃ? と言うか読み方も、さほうしゃで合っておるのか?」
「え、あー、さほうしゃ、で合ってると思います? まあまあ読み方はどうでもいいんだよ。答えが合ってれば。こういうのは問題ある程度決まってるから、全部やってこの答えは○か×かってざっと覚えれば大丈夫だよ」
「……本気で言っておるのか? かなり問題数は多いと思うが」
「えー? 言っても百くらい覚えたらだいたい同じようなものでしょ」
スマホをぽちぽちして、シロが見てた学習サイトを開いて一問目を表示させる。
「うーん。例えばこれだと、交差点はセンターラインって言う真ん中の線が続いてたり、道が太い方が優先して先に通れるんだけど、同じくらいの太さで白線とか標識で見分けられない時は、自分から見て左からくる車が優先って覚えておけば、なんか左方車はよくわからないけど、左が優先だから○ってわかるよね?」
「う、ううむ。まあ、その事前知識があればの。やはりこう、そう言ったルールが一覧で見える何かがあれば助かるのじゃが」
考えたら左が優先ってことは知らなくても、一回この問題解いたら覚えられるって思ってたけど、センターラインとか基本どっちが優先とかも知らないと全然意味が分からないって感じなのかな? もしかしてそもそもどっちが優先とか考えたことないのかも、猫だし?
えー、でもどうしよう。私の時は教習所だったからわかりやすかったけど、教えるとなるとどうすればいいのか。原付だけなら勉強しなくてもいけるいける、みたいなこと聞いたことあるから、多分簡単で大丈夫でしょ、と思ったんだけど。
車の免許もそんな難しくなかったけど、やっぱ教科書あったからって言うのは大きいよね。
「じゃあ、私と一緒に勉強しようか。それで分からないとこあったら聞いてくれたら答えるし、シロはその都度それをメモして。そうしたらシロ専用の辞書ができるし、文字の練習にもなるよね」
まだ字の練習はしてないっぽいけど、多分書いた方が覚えやすいし、二人で声に出しあった方が分かりやすいもんね。
「む。よいのか? 汝は動画編集で忙しいじゃろ」
「そんなことないよ。楽しいし念のため早め早めにしてるだけだし。じゃあ明日から、午前中は一緒に勉強するのはどう?」
あんまり詰め込んでも仕方ないし、朝ゆっくりしてから2時間くらいすればいいんじゃないかな。
まあ、あんまりのんびりしてたら先に妹に免許とられちゃうかもだけど。前あった時は実家にいれば必要ないし、そんな急いでとるつもりないって言ってたし、まあ文字の勉強も交通ルールの勉強も無駄にはならないし、ね?
ちなみに今日は買い出しに行く予定なのでなしで。今日の朝の投稿も終えて、こちらも早くも再生数は上がってきている。
「汝がよいなら……お願いしよう」
「うん。おっけ。そろそろ買い物いこっか」
「ん。そうじゃな」
シロは私の下から抜けだしてソファから飛び降りる。その途中で一瞬黒い何かが出てきてよく見えなくなったと思ったらすぐに人間になる。
シロもちゃんと人間らしいルーティーンを覚えてくれて、お風呂にはいったら寝間着になって、朝起きたら服を着替えるので、ちゃんと今も普通の服装だ。
ちなみに夜、寝る前は人間なのに朝起きたら猫になっている。毎日なのでやっぱり狭い? と聞くと否定してこのままで問題ないって言ってくれるけど、どうなんだろ。
単純に猫の方が寝やすいならその方がいいけど、狭いならベッドを買った方がいいのかな。でもお金の問題以上にスペースの問題もあるし、猫になることで問題なく気持ちよく寝れているなら、このままでもいいはいいのかな? もうちょい様子見よ。
日焼け止めをしっかりぬって、二人ともしっかり長袖で日差し対策をする。UVカットの衣類だとより快適なことに気付いたので、めちゃくちゃ日焼けしたくない人みたいな服装になるのは仕方ない。さすがに手袋とかはしないけど。
「しかし、日焼け止めが効果があるとは、長く生きてもわからないものじゃな」
「まあ昔はなかっただろうしね。猫だと日焼け止めも日傘もできないから、日中は人間の方が動きやすいまであるんじゃない?」
「そうじゃな。今までは日中はずっと寝ていたからの。日差しの下に出るのはまだなれないが、悪い気分ではないのじゃ」
「なら私も嬉しいよ」
前の生活よりしんどいって思われてたら私もしんどいしね。猫の生活も気楽でそれはそれで楽しいんだろうけど、人の生活だっていいと思うんだよね。
今日でシロとお買い物に行くのは三回目だ。まだ慣れないのだろう。猫では入れなかっただろうお店の中とかは興味深そうにきょろきょろしていて、とっても可愛い。
「ねぇ」
「んー? なんじゃあ?」
「何か食べたい物ある?」
「んー、そうじゃなぁ。わらわ、グミって食べたことないんじゃが」
なるほど。食事とかで考えていたのだけど、猫だと人間のお菓子食べないもんね。私が自分で買うお菓子ってポテチ系ばっかりだから家になかったし。
「じゃあ、なんでも好きなお菓子選んできなよ。あ、いくつでもってわけにはいかないから、んー。2つね。その間に私、食材とか見ておくから」
「む、よいのか?」
「よいですよ」
小さな駄菓子ならいっぱい選んでもいいけど、ファミリーの袋菓子とかなら抱えるほど持ってこられても困るので数を限定させてもらったけど、シロは嬉しそうに目を輝かせている。
はぐれないようにと今までの買い物はずっと一緒だったし、シロが何にも言わないから必要なものばっかり見てたけど、そんなにお菓子に興味あったのか。早く気付いてあげればよかった。
「んー、と」
シロが嬉しそうに足早にお菓子コーナーに向かったのを確認してから、私は私で買い物を続ける。お魚が好きと思ってたけど、それは猫の時みたいで人間の時はむしろお肉の方がテンションあがってるっぽいよね。
私も好きだから魚も買うけど、日持ちする干物にしよう。冷凍庫につっこんだらめっちゃ持つのにいつでも美味しいんだよね。
お肉は冷凍にしちゃうと使い勝手悪いんだよね。魚は冷凍のままグリルで焼けるけど、お肉は解凍しないと調理しにくいし。
あ、そうだ。今日は唐揚げにしようかな。揚げ物ってやる気のある時しかできないし、冷凍のもまだシロに食べさせてないし。唐揚げのおいしさを伝えなきゃ。
そうと決まれば胸肉を、三枚。たっぷり揚げて、明日も食べられるようにしよう。シロは人間バージョンでもそこまで食べないから、三枚あれば十分だろう。
「まだここにおったのか」
「あ、シロ。早いね。もうお菓子決めたの? 何にしたの?」
カートを押していると足早にやってきたシロが軽くぶつかるようにカートの側面に手をついて、お菓子を持ちながら見上げてきた。
私の質問にシロは手の中のお菓子をじゃーんと見せてくれる。
「うむ。わらわもとても迷ったのじゃが、ここはたくさんシリーズを出していて無難に人気そうな果実のやつにしたのじゃ。帰ったら一緒に食べようと思うんじゃが、嫌いな味ではないな?」
「ありがとう。好きな味だよ」
好きな味だ。まあ、グミの中でもグレープとオレンジと言う、嫌いな人いる? というくらい、申告通り無難すぎるチョイスなので当たり前な気もするけど。
シロって吸血鬼と言うトリッキーな種族なわりに、めちゃくちゃ保守的と言うか、冒険心ないよね。その穏やかな性格から猫生活をずっと続けてきたんだろうし、私のやること基本OKしてくれる優しさなんだろうけど。
でも私としては、めちゃくちゃ新しい味を教えたくなるなぁ。へへへ。
「そっかそっか。じゃあ私も二つグミ買おうかな。食べ比べしようね」
「うむ。よかろう」
と言ってももちろん、いきなりまずいものを食べさせてグミ嫌いになっては大変なので、まずは無難にパウダーがついてるのと、ぷちっとする触感のにしておこう。
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