第8話 配信のアイデアと身分証について

「お! さっそくコメントきたよ!」


 昨日の夜八時に投稿しておいたのは、ホットケーキ動画と、猫のシロといっぱい遊んだ中でも絵を描いた紙を使ってじゃんけんをするのが我ながら神発明で可愛かったのでじゃんけんシーンの二つを投稿しておいた。

 反応は上々だ。お昼の倍とまではいかず、チャンネル登録数は5件しか増えてないけど、動画のいいね数は確実に増えていて、賢い可愛いとコメントは激増した。

 やっぱりね。シロの可愛さは世界取れると思ってた。とどや顔になりたいところだけど、ホットケーキの動画の方はもっと猫のシロちゃんを見せろなどという心ないコメントがあった。

 いやね、猫でつっておいて人間ばっかだとそう言うの言われるかもとは思ったよ? だから急ぎでじゃんけんもつくったのに。猫のシロも投稿してるのに、そんな言う必要ある? 美少女二人組のほんわか動画だぞ?

 まあそれをいさめるコメントもあったから許してやるけど。


「うーん、朝の動画はどうしよう。猫シロ動画はある程度ストックあるし、とりあえず朝は猫でいくか」


 夜の方が落ち着いて見れるかなとも思ったけど、猫動画の方が短めだし、慌ただしい朝でも見れるか。


「ふむ。朝は猫、夜は人間で行くのか?」

「とりあえずそれで、あー、毎日朝八時に猫動画投稿! その他思いつく限り投稿! って感じでぼやかしておこうか」


 猫の方は最悪新ネタが無くても可愛ければいいけど、人間の方はただ美少女なだけだから、ネタがないと毎日難しいかもだしね。

 動画プロフィールやツブヤイターのアカウントにもそれで書いておこう。猫のシロの魅力を伝えたいので毎日朝の八時にシロの動画を投稿することにしました。


『チャンネル運営や方針についてもまだまだ手探り中ですが、可愛さにだけは自信があります。シロのことも、ついでに私も可愛がってください。』と予防線も張ってと。


 本当はこう、広告? の為にも他のいろんな人とSNSで繋がったりした方がいいんだろうけど、そもそも動画の方向性が猫と人間の二本柱って仲間見つけるの難しいし。元々私自身が動画見る方でもないから、誰が流行ってるとか知らないしなぁ。

 下手につながるとしがらみとか、そもそもファンの人からしたら有象無象が群がってきたって感じで不愉快だろうし。まあ、行き当たりばったりでいこう。


 今のところフォローしてくれていて、何かしら動画について呟いたりしてくれてる人はフォロバもしてるし。動画どころか何にも呟いてない人とか、全然関係ないえっち系はもちろん無視する。

 あとDMでいきなりナンパとかしてる人はブロックと。やっぱ美少女で売ってるからね。スキャンダルはNGなのだ。それも呟いておこう。


『DMでお声がけしてくださるのは嬉しいですが、親しくないのにオフのお誘をされたり、お話の通じない方はブロックさせていただきますのであしからずご了承ください』


 うーん、固いかな? 動画の雰囲気にはあってないような。でも不特定多数に見られるわけだし、動画は興味を持ってみてもらうし言葉が固いと空気も変わるけど、文字はニュアンス伝わらないし、丁寧な方がいいよね?


 とりあえずこれでOKということにしよう。


「よし。これで朝の分はおわったー。ちゃーるも届くだろうし楽しみだね」

「そうじゃな。しかし、これから毎日となると内容を考えるのも大変ではないか?」


 食休みをしているシロは朝から人間の姿だったけど、ご馳走様と同時に猫になって私の隣にきた。なのでそっと抱っこして膝の上にのせると、抵抗せずごろりと転がりながらそう上目遣いに心配してくれた。


「まあそうだね。試しに始めたとはいっても、これも仕事だからね。毎日朝に飽きずに見たくなる猫動画のネタ……占い、とか? あ、ちょっと待って、私、天才かもしれない」

「ん? どうしたんじゃ?」


 思いついてしまった。朝の番組とかで毎日あって飽きずにチェックするものと言えば、占いだ。コーナー的にテーマを決めて今日のにゃんこ、みたいにすれば同じような内容でも飽きずに楽しめるじゃん。

 普通の猫なら無理だけど、じゃんけんみたいに色々カードを作ってそれを猫のシロが順番に選んで占います。みたいな形にすれば可能だし、猫じゃないって言われるほどでもないかつめちゃ賢可愛いし話題になるでしょこれ。


「占いのぉ。占い師に可愛がられたこともあることはあるが、わらわがしたことはないぞ」

「大丈夫大丈夫。適当でいいから。猫のシロが偶然選んだ占いですってフリでガチの内容求めてる人いないから。そうだなぁ。星座、だと数が多すぎてシロが選ぶのも大変だし、血液型でいいか。その中で今日のラッキーさんとアンラッキーさん、ラッキーアイテム、は種類多いか。ラッキーカラーだ。うん。これで完璧」

「色も種類は多いじゃろ」

「うーん、12色とか? 多いなぁ。赤、青、黄色、緑、白、黒……ん? 他に思いつかないし6色でよくない?」

「えぇ……まあ、汝がよいならよいが」

「シロってなんでも肯定してくれるよね。懐深くて好き」


 あとピンクとか黄緑とか? 全部混ぜた色になるから、もう赤系、とかでいいや。どうせ厳密な占いが求められるわけでもない。


「よーし、じゃあ早速カードを作ろう。って言っても、昨日のじゃんけんで家にあった段ボール使い切っちゃったし、上にはったルーズリーフも罫線あってその場しのぎ感すごいし、ちゃんとしたカード欲しいよね」


 うーん、こう、猫の爪で簡単に折れたりしないような。あ、紙は普通ので百均とかにある透明なケースに入れればいいのか。これだ。


「よーし、あとで買い物に行こう」

「ちゃーるが届くのではなかったか?」

「あ、そうだった。うーん、じゃあシロ、お留守番頼んでもいい? 応対できる?」

「ベルがなれば出ればいいだけじゃろ?」

「あとサインを求められるから、あ、そうそう。あのさ、シロ。よかったらなんだけど、身分証作るのに挑戦してみない?」

「は?」


 すっかり提案するのを忘れていたけれど、身分証をつくったほうがいいと思いついていたのだった。


 私には妹がいる。実家にいて地元の国立大学に入っている。最近はちょっと疎遠だけど、賢くて自慢の妹だ。

 まだ免許をとっていないはずなので、妹の健康保険を借りてシロが妹を名乗って原付免許をとってしまえば、シロの写真付き免許証と言う身分証ができる。と思いついたのだ。


「うーん? それは、違法ではないか? それに汝の妹に迷惑がかかるのではないか?」

「違法だけど、そんなこと気にしてたら仕方なくない?」


 今はあるけど、私の身分証だって百年後も使ってたらおかしくなるから、どこかで何か考えないといけないし。


「そもそもそんなに簡単に他人のもので身分証がつくれるのか?」

「保険証と住民票持ってれば本人って見てもらえるし、実家のところじゃないと受験できないけど、試験自体は学科だけだし内容も難しくないはず。まあ多少の文字もかけるようになってもらって、多少は勉強もしてもらうけど」


 私は原付免許はスキップして教習所に通って車の免許をとったので、原付免許の取り方は昨日ぐぐったところなんだけど、そんなに難しくはないはずだ。事前に乗れなくてもいいし。

 ただ内容が簡単とはいえ、そもそもシロは信号のルールも知ってるか怪しいと言うことに今気付いたので、普通の高校生が受験するよりは勉強するかもだけど。


 本人確認がゆるい気がしないでもないけど、健康保険証と本籍地のかかれた住民票を用意するって普通本人か家族じゃないと無理だもんね。


「勉強、のぉ」

「気が進まない? 一人で外出する時とかも、身分証あったら大丈夫だと思うし、持ってて損はないと思うけど」

「ううむ……汝の妹も大丈夫なら、では、挑戦してみるかの」

「そうこなくっちゃ!」


 読むだけじゃなくて文字をかけるにこしたことはないし、運転できるようになるのも損にはならないもんね。何より、一人で外出できないなんて息苦しいもんね。人間社会で過ごすにはやっぱり必要だよ。もちろん妹も免許とるだろうからずっとは無理だけど、最初の更新までは使えるだろうし。

 本当は私の身分証を使えればいいんだけど、さすがに一緒にいる時にだせないしね。私の家を出るって言うなら、パスポートを渡すとかもできなくないんだけど。私はどうせ最初に作ったっきり使ってなくて海外に行く予定もないし。


 そうだ。今のうちに妹に連絡しておこう。


「あ、もしもし? 葵ちゃん?」

「なに……? こんな朝から」

「えぇ? もう八時半だけど、まだ寝てたの?」


 授業はまだだろうし、ちょうど連絡するのにいい時間かと思ったのだけど、電話の向こうからは不機嫌そうな明らかに寝ぼけた声が返ってきた。


「うるさいなぁ。今日は一時間目ないからいいの。それで何?」

「あ、あのね。その……今度、ちょっと野暮用で葵ちゃんの健康保険証を借りたいから、ちょっと送ってくれないかなって思うんだけど」

「はぁ? 健康保険証? ……何に使うの?」

「あー、あのね。えーっと……内緒」

「は?」


 あ、あれ? 駄目か? なんかめちゃくちゃ怪しんでるな。赤の他人ならまだしも、悪用するわけないんだし、普通に貸してくれるものだとばかり。でもこれ、説明してしまうともし発覚した時に本人グルと思われるより言わないほうがいいよね。

 おや? もしかしてこれは無理の有る計画だったのかな? めちゃくちゃ名案だと思ったのだけど。


「…………わかった。でも私もずっとないと困るから、今度の、11月の連休、いや、冬休みにおくるね。それでいい?」

「あ、全然大丈夫! むしろ今すぐでも困るから、本当にありがとー。助かるよ!」


 よかった! 私と妹の絆は本物だった。ちょっと怪しまれたけど、ちゃんと信頼関係があるから貸してくれることになった。確かに急に体調壊したりしたら必要だから、長期間の貸し借りは厳しいもんね。


 妹としばし雑談をしてから通話をきり、シロに声をかける。


「と言う訳で、あと二か月半くらいか。年明けに返すから。その時に試験ね」

「……いや、めちゃくちゃ難しいのではないか? わらわ、文字を書く練習からするんじゃぞ?」

「言っても基本は選択肢だし、文字とか住所とか書けたら十分だし。文字自体はわかってるんだから、最悪ひらがなだけでも問題ないし」

「う、うむ」

「駄目なら何回でも挑戦すればいいし」

「まあ、了解した」


 あ、その前に申請書書いて予約するのと住民票ださなきゃだから、年末実家行かなきゃ。ちょっとめんどくさいな。どうせ年越しは実家に帰ってこいって言われるし、早めの役所が空いてる日から帰るか。シロは、連れて帰りたいけど、猫としては無理だよね。

 シロが良ければ人間としてでもいいんだけど、制限あるし逆に窮屈かも? まあそれはその時決めればいいか。それまでにシロ一人で完全に家を任せられて本人がめんどくさいって言うなら留守番してもらってもいいしね。


「身分証できたらスマホの契約もできるし、それまでにお金稼げるよう、動画も頑張ろうね!」

「うーむ、まあ、ほどほどにの」


 シロは相変わらずやる気がなさそうだったけど、普通にスマホで自分から免許の勉強内容をググり始めたのでやる気っぽい。

 よーし、私は動画撮影用のカードつくろ!

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