第10話 シロは可愛い
「占いコーナー人気だけど、こうなると他のコーナーも欲しいよね。じゃんけんとかどう?」
買い物を終えて家に帰り、片づけて昼食をとっておやつのグミにはまだちょっと早い。と言うだらけたくなる時間帯、ツブヤイターの更新や、シロちゃん可愛いですね、何歳ですか。などの質問に返事をしつつそうシロに提案する。
人間バージョンも続けていくけど、朝のコーナーはこうなれば猫バージョンで決まりだ。作ってる私も可愛くて癒されるしね。
「じゃんけんは、あの札を使えばそりゃあできるじゃろうが。占いはの、毎日変わるのじゃからわかるぞ? しかしじゃんけんを毎日して面白いかの?」
「まあ毎日じゃなくても、週に一度のじゃんけんコーナーとかなら。その時は金曜日かな。花の金曜日、じゃんけんで勝って運気をあつめて土日を迎えるか、負けて不運を使い切り安心して土日を迎えるか、なんてふうにしたらよくない?」
さすがに日曜日は丸パクリだし避けるとして、憂鬱な金曜日にちょっと和んでもらえたら嬉しいしね。
私のインスピレーション元のある提案に、シロは感心したように顔を洗っていたのをやめて私を見上げた。
「汝はそう言う、うまいこと考えるの」
「毎週じゃんけんするって言うのはすでにあるアイデアだから褒められても、えへへ、どういたしまして。としか言えないけど」
「? そうか」
きょとんとしながら頷かれた。シロは猫の姿をずっとしていたからやっぱりその姿が一番落ち着くのか、ご飯を食べ終わったり必要ない時はすぐに猫になっている。
「グミ食べる時のも折角だし動画とろっか」
「うむ。よかろう」
「それまでに別の動画の編集しちゃうね」
「うむうむ。汝はほんに、働き者じゃのぉ。感心じゃ」
「いやぁ、それほどでもあるけどね。可愛いシロの動画だから、やる気でるんだよ」
そのためにわざわざ申告したけど、ちゃんと褒めてくれるシロ優しい。やる気出る。理想の上司。
猫シロのは短いしパターンが決まってるから編集はそんなに時間がかからないから、まとめて撮影してすでにストックはある。昨日撮影した人間シロの初めての炒飯作り動画の編集にとりかかることにする。
人間シロの動画は今のところ、お料理するのと食べるの、ピアノ練習の三本立てだ。
猫の状態で弾いたのが面白かったらしく、あの後部屋の隅に立てかけて放置しているのをちらちら見ていたので私から提案してすることになった。私も中学入る時習い事はやめちゃったし、それから趣味で弾くくらいだったけど吸血鬼の体は前より指先の動きもいいし教えている側をして罵倒されるほどではない。
シロは長年猫だったからか、人間状態だとちょっと不器用なところがあるんだけど、当然のように習得が早いのでこの動画もそこそこ見てもらえている。
ちなみにお礼動画もバズ後に視聴増えて、ちゃーる以外にもおもちゃとかシロへの貢ぎ物はあったから、そっちにもお礼動画はとっていて評判がいい。今のところ動画投稿は順調だ。
まあ、正直に言うと猫動画と人間動画の再生数の差はえげつないけどね。猫のシロをもっと見たいとかってコメントも多いし。もちろん、人間のは求めてないんだよカスとかブスなどと言う心無かったり見当違いはなはだしいコメントをしてくるような人は即ブロックである。
「……」
テロップをいれたり長さの調整したりしながら、パソコンの隣のコップをとろうとしてふとシロの尻尾が揺れているのが視界に入ってきた。
シロがテレビを見る時、ソファに寝転がるとよく見えないのでクッションを常駐させているのだけど、気分でテーブルに乗ったりソファの背中に乗ったりしている。
今はテーブルの気分のようなのだけど、テーブルのふちから落ちた尻尾がゆっくり小さくゆらゆらしている。
シロはテレビを見るのは結構好きみたいだ。テレビができてからは飼いネコではなくてものんびりした隙のあるご家庭に入り込んでお年寄りと一緒に見たりしていたらしい。
だからパソコンも最初はテレビのすごい版みたいに理解してたし。まあ、動画も流れるし間違ってないっちゃないよね。
可愛いので尻尾を揺らしているところのアップからカメラをあげて、ちょこんと座っているお尻、後姿になって熱心に刑事ドラマを見ているシロ、そして前に回り込んで一瞬だけちらっと目が合うけどすぐにテレビの方に視線をやる姿を撮影する。短めだけどシロの可愛さは十分だ。
「シロ、後姿からもとったけど、これも軽く投稿してもいい?」
「んー? よいぞ」
一応シロが見えるよう顔の斜め前にスマホをだして見せながら言ったのだけど、シロは顔を動かさないまま最後まで再生される前に快諾してくれた。
猫の姿だけど一応、お尻うつしてるのはいいかな? と思ったけどそこは見ただろうしいいか。と言うか考えたら裸なんだし、さすがに猫の姿で写して駄目な角度や姿はないか。
短い動画なのでそのままスマホでツブヤイターの方に投稿する。SNSのフォローをしてもらうのも宣伝では重要だもんね。
途端にいいねが付くのをうんうんと頷きながら見る。フォロワー数もチャンネル登録数も順調そのものだ。
もちろん、いい反応ばかりではない。猫シロの可愛さで売りつつ人間もすると言う中途半端なスタンスや、そもそも急にバズったのも目障りなのか、悪口とかもめっちゃ言われている。
朝設置したばかりのマロマロでシロの年齢を聞かれたやつにちゃんと真面目に、長生きな吸血鬼なので詳しい年齢を忘れちゃったみたいですが、1000年は生きてるみたいです。って答えたんだけど、まだ答えて30分もたってないのにぼろくそなコメントが付いている。
設定つまんねぇんだよ。滑ってんのわかれよ。とかさぁ、もちろんブロックするけど、ちらっと見ると捨てアカっぽい。アカウント作ってまで悪口言ってくるとか、暇なんだなぁ。可哀想。そしてそこまでするほど猫のシロのファンとか、やっぱりシロって魔性の可愛さだよね。
気分がいいわけはないけど、まあ人気が出ればアンチもでるものって聞いたことある気がする。どんなふうにしても文句言う人はいるんだしね。
それに少ないけど人間の動画も評価されて、どっちも可愛いって言うコメントももらえたりするしね。シロは可愛いんだから、悪口に気を遣う必要はないでしょ。
猫のシロが見たい人の為にタイトルに【猫】って入れて区別してるし、ちゃんとサムネでわかりやすくしている。これ以上に文句を言う人は無視していいでしょ。こういうのが見たいとかリクエストはいいとして、投稿するななんて指図されるのはおかしいもんね。
あとDMに卑猥なことを言ってくるひとは当然即ブロックだ。ちょっと話題になるとすぐ変な人もグレードアップするから、やっぱりネットってすごいなーとは思う。
とりあえず変なのは全部ブロックしておけば問題ないでしょ。念のため、話題になったのは嬉しいけど、変わったコメントもいっぱい来てる。全部ブロックするけど、もし善意で送ってくれた人がいたとしても、言い方とか変なこと言っちゃったかなって反省してね。とつぶやいておく。
あれ、それにも上から目線かよとか来た。だから反省をしろと。何故か草を生やしてるコメントもあるけど、いいねついてるから私は変なこと言ってないよね?
「んー、やはりこういうわかりやすい話はいいの。最後がちゃんと解決するから、見ていて気持ちがよい」
「あ、終わったんだ。んー、じゃあ三時のおやつにしよっか」
「うむ!」
ぬーんと可愛く伸びをしてからシロは元気に返事をしてソファに飛び降りると同時に人型になった。
「編集の方はよいのか?」
「シロのおやつタイムを撮影するのもお仕事だよ」
「ならよいが。飲み物はわらわがいれてやろう。珈琲でよいのかの?」
「お願いします」
珈琲をいれると言っても、普通にペットボトルのやつだ。豆からいれるほどこだわりもない。濃縮されてるやつを牛乳で割って飲むのが好きなのだ。
シロは机にちゃんと持ってきてから入れてくれる。とぷとぷと注いでくれる様子は真剣で、可愛い。一生懸命な女の子ってかわいいよね。応援したくなる。
猫動画はともかく、人間動画はシロだけじゃなくて私も主役のつもりだけど、どうしてもシロへのコメントの方が多いのはもう仕方ないよね。だって可愛いもん。
「シロは人間バージョンも可愛いよね」
「! お、驚かせるでない。こぼれたらどうするんじゃ」
一瞬肩をびくつかせるほど驚かれてしまい、猫だったら尻尾立ってるなってくらいの目つきで怒られてしまった。
「え、ごめん。ありがとう。でもそんな驚かなくても。人間の姿だった時は褒められてたでしょ?」
入れ終わって満足げに私の前にだしてくれたのを受け取ってお礼を言いつつ首をかしげる。ずっと猫として生きてきたとは聞いてるけど、人の姿の方が便利な時もつかわなかったのかな? 猫は吸血鬼として難易度が高いみたいな感じっぽいし、生まれた時とか人の姿で生まれたと思うんだけど。
「まあ、身内からはそうじゃが……。ごくまれに、人の姿をみせることもあったが、わらわのような真っ白な見た目は奇異じゃからな。恐がられるのが普通じゃよ」
「えっ! あー、でもそう言う発想も、昔ならおかしくないのか。今は全然受け入れられるからね。動画のコメントも可愛いっていっぱい来てるし、シロは可愛いんだよっ」
一瞬びっくりしたけど、でも目が青いからアルビノってわけではないけど、髪が白なのは外国でも珍しいし、日本に来たらなおさらそうなのかな?
白人を鬼と呼んだ時代もあるんだし、特に日本では黒髪じゃないと奇異にみられるのは多少は仕方ないのかな。こんなに可愛いのにとは思うけど、時代によって可愛さの基準も変わるしね。でも悲しいことだ。
シロが自虐したり悲しい気持ちにならないよう、私はシロに近寄って抱き着く。シロは自分用にも牛乳をいれだしていたので、ゆっくりとはいえ抱き着いた私に動きをとめて一瞬咎めるような顔を向けたけど、すぐに諦めたように牛乳を程よい量までそそぎながら相槌をうった。
「うぅむ、まあ、テレビではたまにカラフルな髪の人間が出てきておるし、時代の変化と言うことなのかの」
「そうそう。今はもう隠さなくてもいいからね! 一緒に日の光の下を歩こうね!」
「死ぬんじゃが。まあ、言いたいことはわかるが」
とりあえずこの後グミは美味しくいただきました。
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