第5話 美味しいご飯を食べたいよね
「このようにふわふわした食べ物は初めて食べるが、最近はこういうものが多いのかの?」
ホットケーキをご機嫌に食べ終わったシロは動画編集する私の横で機嫌よさそうにそう尋ねてくる。
「そうだね、パンケーキとかはやってるよ。ていうかシロって基本的に猫ですごしてたってことは、あんまり人間の食べ物食べてなかったんだよね」
「うむ。白米はあるが、昨日食べたバーガーやうどんも食べたことはなかったの」
猫まんま的なことか。昨日は朝はいつも同じバタートースト、昼は出先のハンバーガーに夜はうどんで済ませたから、実質食事らしい食事をしてない状況だよね。
私自身、料理できなくはないけどめんどくさいから一人暮らし生活で簡単なものしか作らない習慣になってるからなぁ。
人間らしい食生活を味合わせてあげよう! と意気込んだものの、なんもしてないな。
まあおいおいだろう。今のところ、普通に私の適当な自炊でも美味しい美味しいって言ってくれてるし。あ、そうだ。目新しい料理ならそれを人間生活にうといシロに初めて食べさせました動画はいいかも!
うん。人間バージョンのネタもほしいし、いいかもね。
「じゃあこれからいろいろ美味しいもの食べていこうね。動画もとれば一石二鳥だし、スマホも私が触ってない時自由にしていいし、食べたい物とか調べてもいいし、何か気になることあったらリクエストしてね」
「……うむ。しかし、動画サイトはおすすめがどんどんでてくるからよいが、文字を入力する仕方がよくわからんのじゃ」
シロはソファにおきっぱにしてた私のスマホをとんとんして起動させた。肉球タッチでもちゃんと反応するのすごいよね。これも撮影したいけど、スマホ使ってるから撮影できない。
カメラあったほうがいいよね。料理の撮影するのも、いちいちスマホを固定したり外したりするの結構めんどかったし。
一通り説明したのでどこがなにかはだいたいわかるシロが検索窓をタッチすると、文字入力画面になる。
「あー、音声入力もできるけど、ひらがなでも検索できるから、五十音順知ってたら入力できると思うけど」
「ごじゅうおんとはなんじゃ?」
書けないけど読めるって言ってたし、普通に使いたい文字を選ぶだけならできるのでは? と思ったら五十音がわからないから、どれを押したら何がでてくるかわからなくて文字が入力できないのか。
「ああ、えーっと、いろはにほへとって言って、あいうえおを全部覚えられるように一覧にしてるのあるでしょ? それの並びをかえたやつ」
「いろはにほへと、は何となく聞いたことがあるの。ふむ。一覧があって、それにあわせて文字が並んでいて、入力しやすくなっておるということか」
「そそ。ひらがな書かれてるのタッチしてみて。同じ字がでてくるでしょ? そのまま書きたい字の方にスライドしたらできるよ」
シロは言われるままタッチしたりしてさっそく試しながら、ほうほうと感心したように頷いている。
「なるほどの。他のも組み合わせを覚えれば、ひらがなを入力するのはそのままできると言うことか」
「そういうこと。シロって猫生活だから知識少ないだけで、普通に頭いいよね」
「うむ。当然じゃ。吸血鬼じゃぞ」
シロは顔をあげてどや顔している。可愛すぎる。猫のどや顔可愛い。思わず手が出て撫でてしまう。シロは心地よさそうに目を細めている。あー、可愛い。
「そっかぁ。あ、それって私も吸血鬼になって頭よくなったってこと?」
「む……それは知らん」
「じゃあ吸血鬼じゃなくてシロが頭いいだけじゃん。もー、賢くて可愛くて天才じゃーん。好き」
「……」
シロは照れているのか、何故か黙って俯いた。いや、スマホ操作に戻ってるから普通にめんどくさくなったのかな? そういう気まぐれなとこも猫っぽくて、可愛い。
抱っこしたいけど、スマホ触ってるし遠慮した方がいいよね。
「んー。終わったーっ」
「そうか、御苦労じゃったな」
私は集中して動画の編集に取り掛かった。ホットケーキ動画は今までのより時間がかかったけど、夕方までになんとか終わった。あとは良い時間に投稿するだけだ。
「朝は通学の7時から8時くらいにしておいたけど、夜は何時がいいだろ。帰宅する時? 晩御飯の8時とかかな?」
シロは途中からスマホに飽きて丸まっていたけど、起きてはいたみたいであくび交じりに声をかけてくれたのでそう聞いてみる。
「よいのではないか? 12時間毎とかなら、汝も忘れにくいじゃろ」
「そうだね。じゃあ朝八時と夜八時で。うーん、でも猫動画が夜の方がいいかなぁ。まあ、全部試してみるか」
「他にも動画をとるのか?」
「そうだね。何をするかネタだししよっか。シロはなにかしたいのある?」
「うむ。そうじゃの。汝のスマホでわらわも猫動画を色々見てみたのじゃが、新しい玩具であそんでいるとか、びっくりさせたところとか、変な格好をしているとか、本当に普段そのままとはちと違う感じのものが目立った印象じゃったの。そう言うのがよいのではないか?」
「うーん、そうなんだけどさ。でもこう、やっぱシロって本当の猫じゃないし」
なんといえばいいのか、悩む。
シロは確かに可愛い猫だけどやっぱこう会話できる知性があるんだし、ほんとの猫みたいにビックリしたりはしないだろう。本当に吸血鬼だとばれたらめんどくさそうだし、そもそもこういうのはやらせ上等ではあるけど、なんかちょっと違う気がする。
そもそもずっと撮影しててたまたま気を抜いたのを切り貼りするのも窮屈だろうし、わざと変なところを撮影っていうのも、シロの可愛いところをみてもらうのはいいけど、お馬鹿なことして可愛いみたいなのはちょっと、本当の猫ならいいけどシロに対してやったら笑い者にするみたいな感じになっちゃわない?
私と一緒に配信者である大道芸人になるのはオッケーしてくれたけど、一方的にいじっていくみたいなのは全然話が変わってくる。芸は芸でもお笑い芸人的と言うか、ドッキリとかって別物だし。
本当の猫なら事前におもちゃの説明したって伝わらなくてびっくりするだろうし、プライバシーとかないから失敗した動画をみんなに見せても全然可愛い自慢としてありなのだけど、シロはそうじゃない。
そうだ。シロには人権があるんだし、いくら本人がいいって言ってやらせでわざとやってて、見てくれた人も猫だと思ってただ可愛い和む癒されると思ったとして、私にとってはシロはただの猫じゃないし、なんか嫌なのだ。
シロのことは元々大好きな子だったけど、今のシロはもう私にとってただの猫じゃない。命の恩人で、でもそれだけじゃなくて、何を言っても優しく受け止めてくれて、それでいてノリがよくて話していて楽しいし、人としての中身も好きだ。
一緒にご飯を食べて美味しいって言ってくれるだけでも、何だか家族のようなぬくもりを勝手にだけど感じてる。触れ合うと温かくて、まだ三日だけど顔をあげるといつでもそこにいてくれて、人間の時と違うことにふいに不安になる時も私の心を安心させてくれる。
先輩である吸血鬼で可愛い猫だからだけじゃなくて、頼りになる大事な人として一緒にいて、一緒に楽しんでほしいんだ。だからこそ、動画の中だけでも軽んじてるようなことはしたくない。
「えっと、つまり、シロは猫だけど、吸血鬼だし、こう、私と一緒にふざけるのはいいけど、シロ一人にやらせるのは嫌なんだ。道化になるなら、一緒じゃないと駄目でしょ」
つまりとか言ったけど全然まとまらないし、伝わってる気がしない。ううん。私いつも脊髄反射でしゃべってるから、全然いい言い方とかでてこない。でもシロは頭いいし、伝わらないかな?
「……ふむ。汝がそう言うならそうすればいいじゃろう」
気持ちを伝えようと目と目を合わせ顔も猫のシロにちゃんと近づけたのに、圧が強すぎたのか顔をそらして毛づくろいしてから軽く同意された。
あんまり伝わってないなこれ。でもまあ、家族っていっても否定されなかったから、何にもなければ一緒にいてくれる予定でいてくれるっぽいのは確認できたし、動画の方針が一致してるならいいか。
「そうじゃな、では汝と一緒に遊んでいる動画はどうじゃ? 鬼ごっこや花一匁、かくれんぼなどなら人間同士でもするじゃろう?」
「あ! それめっちゃいいアイデア! そうか、かくれんぼとかだるまさんが転んだとかなら撮影もしやすいし、ルールを理解してる賢いシロの可愛さをアピールもできるね! 天才!」
花一匁はルール私が知らないし、そもそも二人でできるものではないからスルーするけど、そう言う体を使う素朴な遊び自体はすごくいいよね!
「うむ。では早速やってみようではないか」
「ノリノリだね! やろう!」
シロといっぱい遊んだ。
鬼ごっこはさすがに室内でして苦情が来たら困るのでできなかったけど、室内でできる色んな遊びをした。
「じゃんけんと言うのも、自分がやるのは初めてじゃが意外と白熱するものじゃな」
「楽しいでしょ。他には、手遊びとかは? ねぇ、人間になって手遊びもしようよ」
「手遊びとは、あ、歌いながら手を合わせるようなやつか?」
「それもしよっか!」
シロは猫の生活に満足しているみたいに言っていたけど、人間でしかできない遊びもノリノリではしゃいで一緒に遊んでくれたので、私もひさしぶりに熱中して楽しめた。
こういうの私すごい好きだけど、大人になるとあんまりみんな付き合ってくれないんだよね。暇だねってなっても、精々しりとりくらいしかやってくれないんだよね。しかも中々決着つかないとうやむやにされるし。
シロ、付き合いめっちゃよくて楽しい。猫の時からなんとなく懐いてくれるしめっちゃかわいくて、相性いいのかも、なんてうぬぼれてた。でもこうして話ができる様になると、思ってた以上に相性いいよね。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ夕食の時間ではないか?」
「あ、そうだね。じゃあ晩御飯つくるけど、シロ」
「なんじゃ?」
「めっちゃ楽しかった! また付き合ってね」
「……うむ。まあ、わらわもそこそこ楽しかったからの。よいぞ」
「やったー。えへへ。ありがと、シロ。晩御飯何食べたい?」
「ふむ。魚はどうじゃ? 人間の体で魚を食べたことがないからの。気になっておった」
「あー、さすがに魚はないから、お肉で。魚は明日買いに行こう。うーん、じゃあ、焼きそばでいい?」
「よかろう」
質問しておいて勝手に決めると言う妹だったらブーイング間違いなしのことをしたのに、普通に頷いてくれた。シロ優しい。こういう器の大きいとこほんと好き。
行き当たりばったりの勢いではじまった二人暮らしだけど、シロとの生活、毎日思ってた以上に楽しいなぁ。吸血鬼になってよかった。あとはお金さえ稼げばOKだね!
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