第6話 お風呂とベッドの気持ちよさには勝てない
「そう言えば、シロ、お風呂はいってないよね?」
夕食後、無事投稿もして明日の分の編集も終わったし、何だかんだずっと寝てなかったからお風呂にはいって今日はちゃんと寝よう。とお風呂をわかしたところでふと気が付いてシロにそう尋ねた。
もちろん私は毎日入っているけど、シロは普通に猫の姿でソファで寝転がっているのでスルーしていた。何も言わないけど、お風呂嫌いなのかな?
「む? そうじゃが、吸血鬼の力があれば体を綺麗に保つなど容易なことよ」
「まあ抱きしめるたびいい匂いだし、汚いとは思ってないけど。でも折角だしお風呂はいらない? 気持ちいいし。吸血鬼は水も大丈夫なんでしょ?」
私が普通に入ってるんだから、種族の問題ではないだろう。めんどくさいと言う人もいるけど、綺麗汚い以前に入ると気持ちいいし疲れもとれると思うんだけど。ていうか毎日お風呂沸かして掃除してるんだし、どうせなら二人入った方がいいしね。
と思ったのだけど、シロは気乗りしないようで仰向けから転がってお尻を突き出すようにして身をよじり、あまり気が進まないように尻尾をゆらした。うーん、なんてプリティなお尻。
「いや、実際には平気なのは間違いないのじゃが、猫の体ではどうも水に対して忌避感があっての」
「そこは普通に人間になろうよ。てかパジャマも買ったのに全然服着てないし」
「ふむ。まあ、それはそうじゃが、あまり作法も知らぬし」
「どうしても嫌ならいいけど、作法とか気になるならはいろうよ。ていうかそんな大したものないけど、体の洗い方くらい教えるって言うか、なんなら背中流すよ?」
「ふぅむ、まあ、汝がそこまで言うなら仕方ないの」
シロはあまり気のりしないような態度だったけど、今日はそう言う気分だし、裸の付き合いをすることでより仲良くなれるかもしれない。
私はシロをそっと抱き上げてお風呂に向かう。脱衣所に入ったところでシロは私の腕から飛び降りて人間になった。
先日プレゼントしてすぐ着てくれた室内着のゆるいズボンと可愛い柄のシャツになった。うむ、中学生らしいきゃぴきゃぴ感のある服装が実に似合っている。落ち着いた振る舞いとのギャップもあって二重丸。
「ていうか、今更だけど服もずっと同じの着てるじゃん。汚いなぁ」
「き、汚くない。失礼なことを言うでないぞ。衣類も情報として分解しているのだから、むしろ新品じゃ」
「そーう? あ、でもご飯の時は人間になってるし。食べこぼしとかあるだろうし。ほら」
確かに普通に着ているみたいに汗をかいたりして汚れる時間は少ない。でも食事の時だけ身につけるエプロンくらいにしか汚れないとしても、匂いとかもあるし、何となく毎日同じ服って気持ち悪いし気付いた以上は変えてもらおう。
「む。まあ、人間の時に汚れたものは、それも情報になるが。しかし食べこぼしておらんし。短時間じゃし。汚くないわ」
「うんうん、そうだね、わかった。でもこれからは毎日着替えようね。その方がおしゃれだから」
「う、うむ……それは構わんが」
普通に汚いなぁと嫌な顔になってしまったせいか怒らせてしまったけど、なだめて説得すると納得してくれた。よかったよかった。
「脱いだ服はこの洗濯機にいれてね。まとめて洗うから」
「これが洗濯機なのか? 向きがおかしいぞ?」
「おかしくないです。ドラム式は横に扉がついているのです。洗濯から乾燥までしてくれる機械は女の子一人暮らしには必須だよ」
と親が言って買ってくれた。実際のところ、外に干したところで別にと思うけど、干さなくていいのめっちゃ楽だし助かる。今となっては吸血鬼的にもベランダにでなくていいの助かる。
「ふーん? よくわからんが」
シロは首を傾げながらも服をぬいでいれていく。特に脱ぐのが恥ずかしいとかって抵抗ではなかったみたいだ。私も脱ぐぜ!
「ていうかシロって小柄だけど、それ以上成長しないの?」
「わらわはこの姿が最も優れている、と言うことよ」
「ん? まあ、すごく可愛いよ」
年代もあって、めっちゃキュートなアイドルって感じだ。髪が白いのがちょっと現実味ないけど、その違和感が逆にとびっきりに元気がいい美少女感を感じさせる。
まあシロの感覚なら今の頑張っても高校生にしか見えない見た目でも十分大人で街をぶらつくのにも困らなかったんだろう。現代に適応してるとは言い難い。
お節介かなと思ったけど、やっぱりシロにはお勉強をしてもらおうかな。落ち着いてから切り出そう。
「まずはシャワーで体を流しまーす。目つぶってね」
「う、うむ」
やや緊張気味のシロをぴかぴかにしてあげる。シロは体を洗うのもくすぐったがっていたけど、最終的には気持ちよさそうにしてくれた。
「ふむ。こうして熱い湯で身を清めるのもよいの。頭を洗うのも心地よい。よし。次はわらわがしてやろう。座るがよい」
「え、いーの? じゃお願い」
なんだかやる気満々だったのでやってもらうことにする。シロは目をつぶっていたからどのボトルを使うかを改めて説明できたし、適量も目で確認してもらえたからちょうどよかったんじゃないかな。
「ふー、極楽極楽」
「なにを言っておるんじゃ。極楽などと、縁起でもない」
「えぇ。どっちかって言うと縁起よくない?」
「むー? 今一若者の感覚はわかりにくいの」
そのビジュアルで若者とかいうのちょっと笑うな。お互いの体を綺麗にしたので湯船につかりながら一息つく。シロは小柄なので私の膝の上にのせる様にすればのびのび入浴できる。
人間の姿のシロを抱っこするのは初めてだけど、お風呂の中だから当然軽いし大したことはない。ただ、なんというか、やっぱり人間なんだなって感じはする。
「シロってお肌つるつるだよね」
「うむ。当然じゃな」
シロは私の声に堂々と頷きながらも、どこか居心地悪そうにお尻をもじもじさせている。猫の時は抱っこされなれているのに人間の時だとそうでもないようで、私の膝の上で所在なさげにしている。
「しんどくない? もたれてくれていいよ?」
「う、うむ」
シロはおずおずと私にもたれてきた。背中が見えていたけど、髪が私の顎にあたる。そこから半端にもたれて頭がふれるだけとか、逆にしんどいでしょ。私はそっとシロのお腹に手を回して腰を引きよせ背中がどーんと当たるように座らせる。
「この方が楽でしょ」
「う、うむ。まあ、そうじゃな」
「シロって遠慮しぃだよね。ほんと、私には気を使わなくていいよ。恩人だし、なにより友達でしょ?」
吸血鬼としての付き合いは短いけど、元々猫として仲良くしていたのだ。空気も合うし、これはもう親友と言ってもいい。
シロは一瞬驚いたみたいだけど、ゆっくり体の力をぬいてもたれてきた。ずっと猫だったみたいに言ってたし、人間の体だと距離感つかみきれてないのかな? 同じ感じでいいのに。
「友達のぉ」
「なんなら親友と言ってもいいけど」
そう言いたかったけど、言ったらさすがにひかれるかな? と思ったのだけど、何やら意味ありげに繰り返されたのでそう追撃する。強く押せば、まあ友達くらいならってなるだろうし。
「汝、ぐいぐい来るよの」
「そんなの知ってるでしょ。シロとどうやって仲良くなったと思ってるの」
シロは呆れたように言ったけど、うんざりしてる感じではないのでいいだろう。
シロをただの猫だと思っていた時だって、なかなか仲良くなれなかった。猫の集会にはいてくれたけど、簡単には撫でさせてくれなくて、ご飯だけ寄越せって言う感じだった。
でも明らかに一番綺麗で可愛いし、他の子と仲良くなって警戒心が薄れている感じだったので仲良くなれるようさり気なく粘着した。初めてシロを見かけてから抱っこできるようになるまでどれだけかかったか。
その関係もあっての今なんだから、シロだって私の性格はわかってるでしょ。
「まぁ、そう言われたらそうじゃが。しかし、ただの猫だったわらわと、今のわらわでは違うじゃろ」
「猫じゃなくて人間となるとそりゃあ違うけど、でも人間の姿も可愛いし、性格も感じてた以上にいい子だし、むしろ前より好きだよ。仲良くしようね」
「ふむ。まぁ……汝の態度次第じゃ」
なんかもったいぶられたけど、ようは私がこのまま仲良くしてればシロも仲良くしてくれるってことか。素直じゃないなぁ。そんなとこも猫っぽくて可愛い!
「うん、ありがとう」
「うむ。そろそろあがるが、よいな? 湯あたりしそうじゃ」
「そう? じゃああがろっか」
最後にシャワーで体を流してからあがる。いつもならこのままお風呂もあらっちゃうけど、シロの体拭いてあげなきゃだから今日は明日の朝洗えばいいか。
「どう? 初お風呂は? 気持ちいいでしょ? このふわふわバスタオルで体拭くのも気持ちよくない? 私好きー」
「ふむぅ。悪くないの」
シロは私にタオルでされるまま、もちもちほっぺも形を変えながら拭いてて、めっちゃかわいい。こうも可愛い女の子が無防備な素顔を見せてくれると、すごく癒される。可愛い。
うちの妹も小さいときは素直で可愛かったよね。3つ下で、私が実家にいた時はちょうど中学生のシロくらいの外見年齢でほんと素直で可愛くて。
「あー、やっぱパジャマも似合うー。かわいー、そーきゅーと」
「そ、そうか。まあ、確かに着心地も悪くはないの」
「でしょ。それじゃあ歯磨き、あ! 待って、もしかしてシロ、今まで歯磨きしてない…?」
「む?」
歯磨きもしてもらった。なんかすーすーするし気持ち悪いって言ってるけど、これはちょっと我慢してもらいたい。その内癖になるから。
あー、いー、と開けてもらって口の中もチェックして、うん、とっても綺麗。ちょっと犬歯が尖ってるけど、私のもそうだからこれが吸血鬼らしさなんだろう。
「じゃ、寝よっか」
「うむ、そうじゃな。では」
「ん? ちょっと待って。どこ行くの?」
「む? 寝るんじゃが?」
一緒に脱衣所を出たシロは、何故かリビング奥の寝室ではなく、ソファに向かおうとする。腕をとって止めると何故か不思議そうにされて、それでようやく気付いた。
私がソファで作業してたから横で寝てる猫のシロに何にも感じてなかったけど、ずっとソファで寝かせてたんだ!
「うわ、ごめん。ていうか普通に、夜寝る時はソファじゃなくてベッドで寝ようよ。使っていいって言わなかった私も悪いけど、言って? 猫の姿だと普通にその辺の気遣い抜けちゃうから。ごめんね」
「んん? いや、別にソファで問題ないが。そもそも、別に毎日しっかり寝る必要もないからの」
「それは実感してるけど、その割にシロって夜も昼もめっちゃ寝るよね」
「まあ、省エネじゃよ」
シロが一日の半分くらい寝ているのはまあ好きで寝ているんだしいいとして。とりあえず夜は布団の方がいいでしょ。猫の体だと体重も軽くて小さいから、ソファでも体が痛くなるってことはないかもだけど。
手を引いて寝室にはいるとシロは抵抗はせずに素直についてくる。
「まあ言ってもね。ベッド一つしかないんだけどね。一緒でいいよね? はい、寝て寝て。枕はこれね」
シロと一緒にベッドに入る。うーむ。思った以上に狭いな。肩がぶつかっている。シングルベッドだし、シロと逆側も壁際ギリギリだ。
とは言え猫になってもらうのもそれはそれで潰れそうだし。まあ多少の窮屈さや寝にくさは吸血鬼なんだし大丈夫でしょ。
「狭くはないか? わらわは別にソファでもよいぞ。屋外で寝るのに比べてずっと寝心地はよいしの」
「ごめんね。余裕ができたら別に寝具買うから、しばらくはこれで我慢して」
「いや、別にわらわは……このままでも、問題ないが」
「そう? まあとりあえず寝てみれば大丈夫かわかるでしょ。お休み、シロ」
「うむ……お休み」
シロは遠慮がちにそう言ってきたけど、そういう訳にはいかない。どうしてもというならじゃんけんでソファかどうか決めるべきだ。
シロはなにやら戸惑っていたようだけど、嫌ではないみたいなのでとにかく今日のところは寝ることにする。
シロの体温がぬくい。季節は秋。空調もきかせているし、吸血鬼になって体が丈夫になっていると思うけど、それでもシロの高めの体温は心地いい。
数日ぶりの睡眠なのもあって狭いとかの不快感じゃなくて心地よさですんなり私は眠りについた。
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