第3話 きゅーけちゅチャンネル始動!

 きゅーけちゅチャンネル。

 吸血鬼とちゅーちゅー血をすうぞ。をかけたナイスで可愛い名前だ。他とダブってないし。それはいいのだけど、名前しか決まってない。

 とりあえず生配信形式でやるのが気楽でよさそうだけど、どのサイトでするのがいいか。ゆーつべが最大手なのは間違いないけど、投げ銭をもらおうとすると登録者数1000人以上、一年以内の再生時間が4000時間以上じゃないといけない。広告収入もそうだし、これは数年かかっても無理な場合がある。

 お金を儲けることを目的と考えると、最初から投げ銭をもらえるのがいいよね。と思って調べてるけど、思った以上に種類多いな。目についた奴をググると、最初から投げ銭できる、というかそれ目的のやつはかなりの割合を持っていかれるっぽいな。10%とか、一万円投げてもらっても千円しかはいらないとか厳しいな。


「うーん、どうしよー」

「にゃーんじゃぁ? にゅにゅにゅ」


 と家に帰って色々と配信者について悩み煮詰まり、家に帰るなり猫になっていたシロを膝の上にひっぱりあげ撫でながら気分転換する。

 寝ぼけ眼のシロは目元をくしくししながら仰向きに見上げてくる。あー、可愛い。たまらん。


「あっ、ひらめいたっ」

「んー?」


 そうだ、大事なことを忘れていた。私は一人ではなかったのだ。そう、私にはシロがいるのだ。

 猫! こんなに強いコンテンツはない! 私もみんなも大好き猫ちゃん! そして美少女。よし。やっぱ最大手でいこ。他のは利用したことないから治安と言うか、個人情報のせるのもこわいし。


 これだ。でもまあ毎日猫ってのも芸がないし、折角だし吸血鬼ってのはオープンにして、そう言う設定ですって感じにしたほうが面白いかも。何らかの売りが必要だよね。

 ヴァーチャルじゃないけど、そう言うのだと歌ったりゲームしたり雑談したりするんでしょ? 知ってる。流行ってるしゲームキャラの企画ものとか、おすすめにでてきた歌ってるのは見たことある。

 ゲームは無理。子供のころ好きだったけど下手くそなのわかってるし。歌はまあ、おいおい? ん? できること雑談だけ?


 待て待て、ほんとに猫しかないことになってしまう。それでもシロが賢いし媚び媚びで台本作ったら稼げそうだけど、シロにだけ頼りきるのも情けない話だし。

 なにかしらコンセプトを元にしないと、雑談って言っても難しいよね。世界征服しにきましたとか、コミュ障をなおすとか。

 リアルに言うと生活費を稼ぐためです! だけど絶対受けないよね。吸血鬼の存在を人々に認めさせあがめさせるための布教活動とか? お、悪くない気もするぞ。あとまだ人間生活に慣れてない吸血鬼を人間社会にならしていく、とか?


「うーん、よし。台本書いてみよ」

「んにゃぁ」


 私はシロを撫でながら、パソコンでコンセプトや設定、動画撮影の流れなどをまとめていった。

 撮影してみないとわからないこともあるだろうけど、しゃべることとかある程度段取り決めないとグダグダになっちゃうだろうし、段どりは大事だよね。私は旅行の時にもちゃんと予定表を作るタイプだ。


 夜までかかって設定や台本をしあげた。


 こういうのは毎日するのが大事なんでしょ? 知ってる。ライブかなって思ってたけど、短めの動画の方が見やすいみたいだし、なれるまでぐだぐだしちゃうよりは動画の方がいいよね。

 再生時間を稼ぐのもそのほうがいいし、生配信してあとから編集とかだと、時間追われてるっぽくて大変だし、編集なれるまではいいでしょ。


 吸血鬼は数日寝なくても平気ということなので、やる気にあふれている今のうちにさっそく撮影していこう。


「なんじゃ? これは」

「台本だよ。これから一緒に配信していこう」

「配信?」


 ネットについて疎いみたいなので、とりあえずどういうものか見せて説明することにした。考えたら猫役と吸血鬼役と重要な主演なんだしちゃんと出演交渉からしないとね。


「ふーむ? 要するに個人でテレビ放送をして、それを見たものから投げ銭をもらうということか。大道芸人のネット版みたいなことじゃな」

「シロはかしこいなぁ。一緒にやってくれる? もちろん編集とかめんどくさいことは私が頑張るから」

「そう言うのが得意なのかの」

「一応、経験はあるよ」


 家族ムービーをつくったくらいだし、ソフトも無料のだけど、切って貼ってちょっと文字いれるくらいならできるし、まあとりあえず大丈夫でしょ。パソコン操作自体苦手じゃないし、疑問点があればぐぐればいい。無理そうなら説明書つき有料ソフトを買えばいい


「と言うわけで、さっそくこの通りにはじめていこうよ!」

「ふぅむ。まあ、わらわとしても家に住むのは思ったより快適じゃったし、協力してやるとするかの」


 ややもったいぶった話し方なものの、態度は普通にご機嫌で手伝ってくれるようで、用意した台本の冊子を読み始める。はー、そう言うちょっとつれないところも、猫の姿だと可愛いー。

 あー、猫の姿で冊子読んでるのも可愛い。テレビとパソコンで動画見るのはまだ見てるだけって感じだったから、わかりやすく普通の猫がしない動きしてるとめちゃくちゃ可愛い。うちの子天才って気になってくる。はー、可愛い。これはバズる予感しかしない。


「ふむ。注釈が多いが、実際に話す言葉はかなり少ないの。短い動画になるようじゃが、よいのか? 他の動画では一時間とか、なんなら三時間とか長いものもあるようじゃが」

「そう言うのは歌とか、なんかテーマ決まってるやつじゃない? まずは自己紹介動画で、それから短くて手を出しやすいものをたくさん投稿するんだよ!」

「ふーむ? 汝が詳しいならよいが」


 どや顔で説をかましたことで識者のように言われてしまった。これはまずい。猫のシロが入ればほぼ勝てると思うけど、失敗した時の為にちゃんと予防線をはらなくては。


「あ、私もそんな詳しくないんだけどね? でも、自分が見る立場だと詳しくない人の長時間動画とか絶対見ないじゃん?」

「まあ、確かにの。わらわも試しに見てみたが、短いのは最後まで見てみたが、長いのは途中でやめたしの」

「そう言うことなんだよ、多分」


 よし。これで失敗しても私の威厳が損なわれることはないだろう。

 と言う訳で、シロの頭に台本も入った事だし、さっそく動画をとっていこう!








『はじめましてー、こーんにーちわー! きゅーけちゅチャンネルへようこそ! このチャンネルでは、新米吸血鬼の私、アカと』


 美少女が意気揚々と挨拶をしてから向かって右側にいる白髪の美少女に手を向けて順番を変わる。向けられた少女はこほんとわざとらしく咳ばらいをしてから胸をはって口を開く。


『先輩吸血鬼であり、可愛い猫であるわらわ、シロの二人による、人間界での日常を記録するためのものじゃ』

『この間まで私は人間だったんだけど、うっかり死にかけたところをこのシロに助けてもらって吸血鬼になったんだよね、ありがとね、シロ』

『うむ。それはよいが、台本をいきなり無視しておるぞ』


 かるくハグをしながらお礼を言うアカに、シロは鷹揚に頷いてからジト目になる。


『ちょっとシロ、台本とか言っちゃ駄目でしょ』

『む、もしかしてちゃんと本番なのかの?』


 シロの頬をつんつんして注意するアカに、シロは慌てたようにカメラ目線になる。そんなシロにアカはニコニコしながら両手をひろげて解放する。


『本番中でーす。はい、猫バージョンになってくださーい』

『テンション高いのぉ』


 やや呆れつつもシロはやれやれと言わんばかりの顔で一旦右側にはけ、すぐに白猫がアカの胸元に飛び込むようにフレームインしてくる。


『にゃーん』

『シロー、はい、これがシロの猫バージョンです。可愛いねぇ! こんな感じの設定です。シロがどっちのバージョンも可愛いのは現実でーす』

『また台本にないことを』


 抱っこしたシロを撫でながらも話すアカに、猫のシロは猫のままなのに呆れ顔なのが伝わる表情で応える。

 ここやっぱ可愛すぎるな。


『喋れても猫ちゃんは可愛いね。あっと、そうそう。吸血鬼になって日差しが苦手になったことで、前の職場をやめざるをえませんでした。なので無職です。シロのご飯代の為にも、みんなチャンネル登録とかよろしくね! 欲しい物リストも登録してます!』

『欲しい物リストと言うのはまだよくわからんが、差し入れを指名できると言うことなんじゃよな?』

『そんな感じ。ちゃんと猫シロ用ちゃーるもいれておいたから』

『おお、あれか。猫の体にはとても美味なんじゃよなぁ。わらわからもひとつよろしく頼む』


 そう言ってシロがぺこりと画面に向かって頭を下げる。

 ここが究極に可愛い。


『よろしくお願いします! ということで自己紹介でした。他の動画も見てね。またねー』


 アカが笑顔でしめて動画は終わった。

 撮影して文字いれやBGMとか編集も終えて二人で見てみたのだ。。ちなみにアカは私の本名茜からとって、シロと色でそろえた。アカとシロ、うーん、クロの方が馴染みがいい気もするけど、クロと呼ばれてすぐ返事できる自信ないしね。


「うーむ、こうしてみると、何と言うか、自分の姿を客観的に見るのは気恥ずかしいの」

「まあね。私の場合は変わったところだから実感ないし、むしろこんな美少女かって気分いいけど。ていうか声もちょっとよくなってない? めっちゃ調子いい時の声っていうか」

「基本は汝のままなんじゃが、まあ、そうじゃな」


 吸血鬼って常に体調が最高潮ということなのかな? まあ声はあんまり変わってないほうが、家族に連絡する時にうたがわれたら困るからいいんだけど。

 とにかく動画だ。ちょっとチープな気もするけど、凝った編集があれば人気ってわけでもないし、こんなものだろう。


「時間も5分以下だし、最初のにしたら見やすいかなって自画自賛なんだけど、どう?」

「ちと短すぎる気もするが。これだけでは寂しくないか?」

「うーん、まあ、あと何個か用意して一気に投稿しておけばいいんじゃない? あ、新着欄とかあるのかな? だったら人が見るような時間帯にすればいいのかな? あとツブヤイターアカウントも作って、リストは概要欄に張っておけばいいかな?」

「わらわにはわからんが、まあ駄目ならまた直していけばよいじゃろ」


 シロは付き合いはいいけどどーんと冷静にかまえてくれているから、なんかこう、安心感あるよね。

 勢いで始めようとしてるし正直簡単に成功するものでもないけど、まあ今のところ費用もかかってないし、わりと楽しいから遊び感覚で気楽にやってみればいいよね。


「そうだね。まずはやってみる! と言う訳で、猫動画からとろう。一番ファンがつきそうだしね」

「また今から台本を書くのか?」

「まあ、猫動画の場合は、可愛い猫ちゃんの可愛い姿がのっていればいいから、台本はいいでしょ。まずはちゃーるを食べる姿とか、猫じゃらしで遊ぶとことかで」

「それは面白いのかのぉ?」

「可愛いは正義だよ」


 と言う訳で、シロがご飯を食べているところ、拾ってきたガチの猫じゃらしで遊んでいるところ、遊んでる途中で眠くなって仰向けで寝ているところ、の三本セットで投稿することにした。

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