第2話 私、配信者になる!(思い付き)
シロに感謝を伝えた私は、とりあえず色々と整理した。なんとあの事故から丸一日たった夜で、私は普通にバイトをぶっちしてしまっていた。
顔も変わってしまっているし、バイト中掃除などで外にでることもある。そんなときに日傘をさすことはできないので、申し訳ないがそのままやめさせてもらうことにする。
今までが真面目な勤務態度だったので昨日サボったのも急病と思われていた為、これ幸いとすみません、実はそうで。親にも怒られて実家に帰ることになり、急で申し訳ないけど。と言うことで辞めさせてもらった。
バイト自体は在学中からずっとしていて就職したら辞めると卒業時に宣言していたのもあり、あっさりと許してくれた。ごめんね、店長。春からの新人も使えるようになってたから許して。
「ふー、とりあえずバイト探さなきゃ」
「ふむ。そうじゃな。まあ吸血鬼の能力を開花させて最低限のネズミにでもなれれば、わらわのように野生で生きていくことも可能じゃし、そう焦ることはないじゃろ」
「ん!? え? 今までどこに住んでたの?」
「普通に野良猫として生きておったぞ」
えぇ……。驚愕の事実。飼い猫だと思ってたシロ、野良吸血鬼だった。吸血鬼の力で綺麗なだけだった。
ちなみに名前も昔はあったけど随分呼ばれてないし、シロでいいとのことだった。呼び慣れてたから助かるけど、シロ、尊大な態度のわりにめっちゃフットワーク軽くてほんとに優しい。
「これからは一緒にここで人間らしく暮らそうね!」
「む。まあ、屋根はあるに越したことはないが」
とりあえず夜なので晩御飯を食べることにした。昨日夕食を食べてから事故っているとは言え、普通に丸一日食べていないのだ。お腹へった。
「ふぅふぅ。人間として人間のご飯を食べるのは久しぶりじゃが、なかなか悪くないの」
適当につくった炒飯を食べながら、私の味覚もいつも通りだし、シロもちょっと猫舌だけど普通に食べている。体に合わせて味覚がかわるのかな? ご飯はそう気をつかなわなくてよさそうで安心だ。
ただスプーンを握りこぶしで持ってるのだけ気になるから、もうちょい親しくなったら直してもらおう。
「そう言えば血は吸わなくても大丈夫なの?」
それはそれとして気持ちも落ち着いてきたので気が付いたことから質問していくことにする。
血を摂取するとすごく効率よく栄養を摂取できる。コップ一杯で二週間以上平気になるらしい。それはすごい。でも普通に好みがあって誰の血でもいいわけでもないし、ご飯を食べても平気だし、飲まないと辛いと言うこともないらしい。
元々吸血鬼は燃費がいいので、人間と同じ食事で少ない量でも体を維持するには十分らしい。血を飲まなくてもいいのは助かる。用意するの大変そうだし。思ってた吸血鬼と違うけど、楽そうな分にはいいだろう。
「でもちょっと気になるかも。ちょっとだけ血、飲んでもいい?」
「まだ下手そうじゃし嫌じゃ。吸血鬼としての力が馴染んだらの」
「えー」
すぐ傷が治ったけど、まだ馴染んでいる途中なのか。うーん。変な感じだ。
夕食を食べ終わるとシロはぽんっと白猫モードになった。小さい方が燃費も少ないし、なれているからこの姿が気楽らしい。いい。最高。
「シロー、やっぱり猫のシロは最強に可愛いよ! もちろん人も可愛いけどね。んー、可愛い可愛い」
「ふふん。当然じゃ」
シロは抱っこすると満更でもなさそうに喉をならして私の手を受け入れてくれた。
あー、可愛い。吸血鬼だし、年上だったし、恩人だけど、あんまりかしこまらずに今まで通り猫として可愛がっていく方向で問題ないみたいだ。
シロの猫姿みたら反射的に猫かわいがりするようになっているから、ほんと助かる。猫で基本暮らしていたみたいだし、猫扱いされるのも好きなのかもね。
「そう言えばシロ、人間の時の服は魔法か何かでつくってるの?」
「そう言うファンタジーなものではない。普通に人間の姿で着た服を猫になる時にデータとして一時的に片づけているだけじゃ」
「よくわからないけど、実物が必要ってことね。じゃあ明日、シロの人間用の服買いに行こうか」
「む? お金もないのに無理をする必要はないぞ」
「いやないけど、まあ今月のお給料もあるし、3カ月くらいなら生活できるくらいはあるから大丈夫。もちろん猫の姿が可愛いけど、ご飯食べる時とか、お出かけは人間の姿のほうがいいでしょ?」
「……まあ、汝がよいならよいが」
気遣ってくれるのは嬉しいけど、シロもどこか行く予定があるわけじゃないみたいだし、可能ならずっと一緒にいたいからね。居心地のいい環境をつくらなきゃ。
なんせシロならこのペット不可物件でも一緒に暮らせるし、実質猫を飼うのと同義。さらにかしこくて猫専用の設備投資も必要ないし、そもそもビジュアルも最高に好みのかわいこちゃんだし、これ以上の理想の子はいない。他所様の子だと思って諦めてたけど、ほんとはシロ飼いたかったんだよね。あらゆる意味でのがしたくない。
なんか不老で長生きらしいし、何にも言わなくても数十年単位で一緒にいてくれそうだし。さらっとその前提で生活すればいいでしょ。
「シロのこともっと知りたいな。何歳なの?」
「うーむ。そうじゃな。詳しくは覚えておらん。この国に来たのは皆が着物を着ておった時期で、その頃から猫は人気でわらわは皆に可愛がられておったものよ」
吸血鬼になるためだけど実質一晩寝ていたのもあって、全く眠気もなかった。その為二人でソファでだらだらしながらいろんな話をした。
私のことも話したけど、シロの方が興味深い話が多くてついつい突っ込んで聞いてしまったけど、嫌な顔せず教えてくれた。
着物と言うと百年くらいかな? と思ったらどうも平安時代っぽい。それ以前に大陸から来たとは、シロって何年生き……まあ、どうでもいいか。
「テレビとかはわかるんだ?」
「馬鹿にするでないぞ。わらわほどの美猫になると引く手あまたじゃからな。家に入り込むなど容易いことよ」
「なるほど? でもスマホとか、実際に触ったことはないでしょ?」
「まあさすがにの。電話も、わらわがかける先もないからの」
「ふむふむ」
電話か……うーん、でも携帯電話はさすがに、働くようになってからでいいでしょ。
「パソコンとか好きに使ってもいいよ。文字も普通にわかるんだよね?」
「うむ。読むくらいなら問題ない」
「ん? え? 書けないってこと?」
「当然じゃろ。猫が文字を書く必要があるとでも思っておるのか?」
平安時代に入ってきてずっと猫だったなら、そうなのかな? まあ読めるなら、いいか。いいか?
「毎日猫としてどんな感じで過ごしてるの?」
「どんなと言われてものぉ。基本的に普通にお昼寝したり、散歩したりじゃよ」
「とりあえず合鍵つくるのと、お散歩用の靴も買おうか。なんかしたいこととか欲しい物あったら言ってね。あ、食べ物で好きな物とはあるの?」
「基本的に猫の生活で足りないものもなかったからの。まあ、気持ちはありがたくいただいておこう。食べ物のぉ。あまり思い浮かばんの。あ、今の炒飯とやらはうまかったぞ。味がこくて」
「もしかしてずっと猫用の食事しかしてこなかった感じ?」
「? 当たり前じゃろう?」
人間のもの食べれるし、味覚もそれで問題ないのに、ずっと猫のエサって、味うすかったり生臭いやつってことか。と言うか、私があげてたおやつとか結構匂いするやつだし。これからいい食生活を提供してあげたい。
そんな感じで色々と日が昇るまでお話した。
○
「危なかったね」
「うむ。しかしいくらわらわが可愛いからと言って、少女に見えるなどと失礼なやつじゃの」
「うーん」
いや、普通に少女には見えるのだけど。どう見ても中学生。高めに見積もっても高校生だ。昼間から連れ歩けば警察に声をかけられるくらい想定しておくべきだった。
とは言え私もいたし、私の身分証を出して何とかなったけど、シロの身分証欲しいな。
幸い警察に声をかけられたけどすでに衣類も食料も買っている。また見つからないよう、大通りをさけてさっさと帰ろう。
「おっ、可愛いじゃん。お姉さんたち、ちょっと俺らと遊んでよ」
「ん? え? ナンパ?」
「そうそう。話は早いじゃん」
え? ナンパされた? ……は! そうか。鏡見ている時以外目に入らないし、そもそも普段熱心に鏡見ないから忘れてたけど、私美人になったんだった!
ちょっと裏道にはいったことでいきなり柄のわるいチンピラ崩れに声をかけられた。がっつり私の顔を見ながらなので一瞬混乱してしまった。そうか。思わず声をかけてしまうくらい可愛いのか、私。すまんな、罪な美貌で。
「ん? てか、たちって、この子も誘ってる?」
「もち、かわいーよね。美人姉妹?」
「は? ロリコンじゃん。死んでほしい。近寄らないでください。死ね」
そもそもこんな大荷物持ってる人間に声をかけてくる時点で頭悪いと思ってたけど、やばいやつだった。当たり障りなくさっさと退散しよう。
「は? 女だと思って調子に」
「さわっ、えっ?」
「いっ、てええ!?」
「お、おい大丈夫か!?」
むっとした男が手を前に出してきたので思わずその手を払うと、ものすごい勢いで男が一回転して転んだ。ぽかーんとしてる間に男二人は肩を貸しあいながら逃げていった。
「え……?」
「吸血鬼は力が強いとか、常識じゃろ?」
シロを振り向くと、つまらなさそうにそう言われた。弱いとは思ってなかったけど、まだ力馴染んでないって言われたし、そもそも強いってそう言う、物理的な力なの?
「えぇ? でも、あの、今の今まで物壊したりしなかったよ?」
「汝は鍛えていれば常に物を壊すと思っておるのか? 力を入れようとしなければ力はでない。当然の事じゃ」
「はぁ」
確かにそうだけども。ボディビルダーの人が使うたびにスマホ壊してたら大変だけども。
「あ、でも力が強いなら仕事も。うーん、でもなぁ」
日傘があれば日中でも問題ない、と言うことで家を出る前に多少日光について確認している。衣類越しなら直射日光も、先日までよりはきついな。真夏かってくらいで耐えられる。
素肌だとガチで火が触れたくらい熱ってなる。一瞬だと火傷まではしないけど、普通に出歩くのは難しい。日焼け止めをぬるとトースターに入ってるくらいのじりじり焼かれてる感じ。髪が生えてる頭もそのくらいで、耐えられなくもないけど長時間は無理。ていうか日焼け止めすごいな。
なので強力な日焼け止めを厚めにぬってつばの大きい帽子をかぶってれば、上をむいたり反射が当たらない限りは無難に出歩くことはできる。
でもさすがにそういう帽子かぶって働くのはないだろう。あ、倉庫の中での荷物運びなら行けるかも? いいかも。折角吸血鬼になったんだし、それを生かして……
「あ!」
そうだ。私、吸血鬼になったんだ。そう、美人(吸血鬼)に!
さっきのは変なのに絡まれたんだけど、でもそれも美貌あってのことだ。私は今こんなに可愛いのだから、それを利用すればいい!
「なんじゃ?」
「決めたよ、シロ、私、配信者になる!」
「背信者……? え……? あの、わらわ、あまり道義にもとる行為はせぬほうが良いかと思うんじゃが」
「ん? よくわかんないけど、私も迷惑系はしないから安心して!」
とりあえず帰ってやり方調べよ!
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