【 涙空 】


 ここでずっと泣いていた。

 涙が枯れるなんて、誰が言ったんだろう。


 いつの間にか、西の空がオレンジ色に染まっている。

 雲は、今日もその空の色を少しだけ濁す。



 ――大学受験当日。

 私は昨日のミントとのことで、全く受験に集中できなかった。

 問題用紙を見ても、なぜか涙が溢れてくる。


 ポトリ、ポトリと答案用紙に涙が染み込んだ。

 頭の中には、何も残っていないかのように、ただ真っ白。

 もう、合格はできないだろう。


 試験会場を出ると、自分のスマホの電源を入れる。

 すると、おびただしい数の連絡が入っていた。


 その一つを開いてみる。

 そこには目を疑うようなメッセーが残されていた。


『ミントが交通事故に遭って、重症らしい……』


「えっ? う、うそ……。昨日、歩道橋の上で……」


 その時、私の頭の中に、昨日のミントとのやり取りが蘇ってきた。


(「捨てたんだよね。私たちの大切な思い出を……」)


(「アズ……?」)


(「もう! こんなものなんていらない!」)


 あの時、私の鞄に付いていた猫のバッグチャーム。

 あれを私は、歩道橋の上から空に向かって投げ捨てた。


 あの後で聞こえてきた救急車のサイレン。

 それが、まさかミント……?


「う、うそ……。うそだよね……。わ、私が、私がミントを……?」


 私の足は、自然に駆け出していた……。



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