【 失くした宝物 】


「ミントのバカーーーーッ!」


 私は走った。

 走って、走って、走り続けた。

 もう、ミントと同じ大学なんて行けない。


 涙が止まらない。

 どうしてか自分でも分からない。

 もう、ミントのことなんか好きでも何でもないはずなのに……。


 どうして、涙が零れて来るの?

 どうして……?


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 走り疲れて気付くと、あの場所へ来ていた。

 中学の頃、ミントといつも学校の帰りに寄った場所。


 ミントの漕ぐ自転車の後ろに乗り、毎日のようにここに来て、ふたりでおしゃべりをしたこの場所。

 夕日が綺麗な小さな川沿いの土手。

 いつも自転車をここに停めて、コンクリートでできた階段の上から3段目にふたりで仲良く腰掛けた。


 あの頃は、ふたりとも嫌なことなんて何一つなかった。

 ずっと一緒にいても全然退屈じゃない。

 肩が触れ合うだけで、キュンとしたし、いつも冗談を言い合って、ここで笑ってた。

 楽しかったし、嬉しかったし、笑顔しかなかった。

 時間も忘れて、いつまでも暗くなるまで、いっぱい、いっぱい、お話をした。


 それなのに……。


「うぅうぅぅ……」


 出てくるのは、ミントとのことばかり。

 思い出すのは、ミントとの楽しかったことばかり……。


『ピーポー、ピーポー、ピーポー……』


 遠くの方から、救急車の悲しいサイレンが、今の私の感情と同じように、この川沿いの土手に響いていた。



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