【 大切な思い出 】
大学受験の前日。
私は最後の受験勉強をするために塾へ向かっていた。
その途中、道路の向こう側へ渡るために、いつもの歩道橋を上って行く。
階段を上りきったところで、向こう側から歩いてくる人影に気付いた。
背の高いブラウンの髪に染めた、鼻がシュッとしたイケメン。
そう、彼、ミントだ。
「よう、アズ。これから受験勉強か?」
「ええ、そうよ。勉強しなきゃ、合格できないから……」
私は下を向きながら、彼とのあいさつもそこそこに、足早にその場を立ち去ろうとする。
すると、擦れ違い様に、ミントが私の持っている『アレ』に気付いた……。
「あっ、アズ。それ、まだ持ってたのか?」
思わず私の足が止まる。
そう、この鞄に付いている猫のバッグチャーム。
「そうよ、悪い……?」
「い、いや、そうじゃないけどさ。まだ、持ってるんだって思ってさ……」
ミントの鞄をチラリと見た。
彼の鞄には、アレが付いていない……。
私はそのことに、急に腹が立ってきた。
「ミントは付けてないんだ……」
「あ、ああ、今日は付けてないな……」
「今日は? 笑わせないでよ、いつもでしょ。捨てたんだよね。私たちの大切な思い出を……」
「アズ……?」
「もう! こんなものなんていらない!」
私はそう言って、鞄に付いている猫のバッグチャームを引き千切ると、歩道橋の上から、この曇り空へと放り投げた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます