【 ピサの斜塔 】


 私たちのアレは、まだふたりが中学の時に、京都への修学旅行先のお土産屋さんで買ったもの――。



「ああ~、この猫ちゃんのちっちゃなぬいぐるみ、かわいい~♪」

「ん? そうか?」


「ねぇ、ミント! これ、お揃いで買おう♪ にゃん♪」



 ――それが、今、私の鞄に付いているこの猫のバッグチャーム。

 まだ、ふたりが今より仲の良かった頃にお揃いで買った、色違いの小さな猫のぬいぐるみ。


 手がかわいく丸められ、頬っぺた辺りでグーの形をしている。お耳もおひげも肉球もちゃんとある。

 彼がパステルブルーで、私がパステルピンク。


 ふたりは一緒に鞄に付けて、彼のぐ自転車の後ろへ乗り、毎日同じ中学へ一緒に通った。


 でも、今は違う。


「……であり、一時期『ピサの斜塔』は、5.5度も傾いてしまったそうだ」


 世界史の先生が言う通り、ピサの斜塔のように少しずつ傾いた私たちの関係。

 変わってしまったのは、ミントか、私か……。


『ツン、ツン……』


 また今日も、右隣に座っているミントが、私のこの二の腕をシャープペンシルでツンツンしてくる。


「やめろ」


 私は小さな声で、顔を伏せてミントに冷たく言う。

 前は、これが嬉しかったはずなのに。


 ミントがツンツンする度、体に電気が走る。顔も火照ってしまう。

 でも、今はこれが逆に辛い。


 未だに、体に電気は走ってしまうのに……。



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