第23話 不遜
振り向き様のアリスの表情は、怒っているというより、単に驚いたという感じだった。
「へえ〜」
お?意外と受けて立ってくれそうだ。
「背中に土がつくまでの勝負!俺が勝ったらこの修行終わり!どうだ?」
「なるほど、あたしの訓練に何か文句でもあるみたいだねぇ」
やべ、やっぱりキレてる。
俺の打算はこうだ。
俺がアリスに勝負を挑んで、負けたら俺が再起不能になるから帰らざるを得ない。勝てば、条件を呑むとも呑まずとも、アリスが倒れてる隙に逃げればヨシ。師範が何かの事情で戦えない時、力不足な弟子が退却するのは筋通ってるものな。薄情?このバケモンに俺の容赦が必要だとでも?むしろ無事逃げ切れるかの方が憂慮すべき事項ですよ。まあ要するに、一刻も早くこの魑魅魍魎跋扈する山から逃げ出したいということだな。
そんで?もちろん痛いのはやだ、再起不能になんてされたくないから、勝算もちゃんと持ってきた。上手くいけば、このバケモンすら凌げるかもしれないくらいの秘策を。
「いや、そうではなくてですねぇ......えーとほら、これから俺も戦力になるわけだし、俺の手の内知ってた方が良いじゃない?」
「今のところそんな必要なさそうだけどなぁ?」
「そ、それは、わかんないかもしれないかも、ねえ?とりあえずお手合わせ願いたいかも〜というわけかもしれないかも」
「カモカモうるせぇ!」
早速大剣がすっ飛んできた。相変わらず動きが速すぎて予備動作をとらえられそうに無いが、空気を察してどうにか避けられた。木が次々倒れる音。ヒヤッヒヤッ。
「そういやお前、あたしの空手見たこと無いんだったな?いい機会だから、しっかり目ぇ開いて、よぅく見とけよ」
カラテ?
パァン。
これは拳を突き出す音だった。当たってはない、距離が開いてたから。しかし風圧ですっ飛ばされた。
「ほら、背中に土つくぞ?」
ハッ。自分で提案しといて忘れてた。さっきから攻撃が強烈すぎたせいだよ。空中で仰向けになりかけたが、地面につく前に何とか腕でブレーキ。痛ッテエ、小石がめり込んで血がァァァ〜。肩も外れソォォ〜。くそ、超練空とか紫電とか以前におかしくないか!?
「ほら、後ろに
ヒェェェ〜。何が悪魔的プランだよォォ〜。これじゃ悪魔に遊ばれてるだけじゃんかよォォ〜。
アリスがすぐさま追いついて、顎にエルボー、尻に蹴り上げ(もはや空手とは?)、俺は再び虚空に放り出された。しかし、その間に俺はすでに秘策を繰り出した。
俺は霊槍を持っていたのだ。それは今どこにあるか?
結城家の御守りはただの呪符じゃない。そこには、あいつが宿っている。
シュウゥゥゥ......
「なっ、なんだこれぁッ」
霊槍が矛先を向けてアリスの背後に迫る。アリスは左の前腕で矛先を横から裏に叩き、槍はアリスの背中すれすれに通り過ぎた。それは骸骨鳥を突き刺し、消した。
その隙に俺が着地。空中の身動きの取り方など分からない故、ダンゴムシ姿勢で落下した。とりあえず頭は打たずに済んだ。痛いが。
そのままの格好で横目でアリスの方を見る。よく見ると槍に黒い煙のようなものがついて回っている。いや、煙というより、
それは俺の形をしていた。
「おい、ヒデオ......」
「お、おれしらねぇもん〜(°ε°;;)ピュゥ~」
「ッチッッッ」
特大舌打ち。完全ニキレチャッタァ。いや、それを出したのは俺だけど、どうなるのかは俺にもわからないんだ、本当に。
一つ知ってるのは、それは俺より遥かに強く、性格が悪いということだ。
『そう殺気立つなって』
幻影は気怠そうに口を開いた。幻影は形こそ俺にそっくりだが、霊槍を片手に堂々とした佇まい、そして悪霊に似た禍々しい瘴気。
『ビデオとは幼い頃から仲良しでな、一緒によく遊んでたもんな〜』
おいおい。俺に話をふるなって。
「ハッ。お前が誰の何だろうと」
アリスは、先程彼方にぶん投げた大剣を紫色の霊気で手元に引き寄せつつ言った。
「悪霊は消すだけだ」
『はぁ、どいつもこいつも俺を悪霊悪霊って......』
その刹那、アリスは紫電で幻影の目の前に姿を現し、斬りかかった。
幻影は、その縦斬りをくらったかのように見えたが、剣の左右に煙のように分かれていた。
『まあちと似てるのは認めるが、俺は悪霊じゃない。レイも槍司も俺の正体を知っている』
幻影は、アリスの繰り出す高速の斬撃を悉く避ける。いや、煙のように掴みどころのない幻影をアリスが斬りあぐねていた、と言うべきだろう。アリスの表情に余裕がないのがわかる。
『ただの手合わせだろ?まあ、見て行ってよ。俺の力を』
幻影は全身から黒い霊気を放って、アリスを跳ね除けると、槍投げのような構えをとった。黒い霊気が急速に槍に集まり、それは背後の竹林を枯れさせながら、視界を覆うほど巨大化し......、
「おい!いつまでうずくまってんだ!」
「あのぉ......」
そして俺はまだダンゴ虫。
「体に力が入らないんすよヴッッ」
アリスに超弩級の蹴りを入れられ、そこで俺は意識を失ってしまった。
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