第13話 悪霊

※表記にブレがあった部分を次のように修正しました。

・「悪霊ハンター」「亡霊ハンター」→「悪霊ハンター」に統一

・「保安庁対亡霊部」はそのまま

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 病気が分かって症状も出始めたぐらいから、周りのものが異常にくっきり見えるようになった。視野が広くなったというか。まあ、やることが無かったからってのもあるんだが、僕には世界がまるで変わってしまったようだった。ぼやけていた世界と違ってあまりにも圧迫感がある。声にならなくても忙しなく言葉が聴こえてくる。進め、止まるな、と。そして精神的にある到達点に達した。

 人間に善も悪もない。人が愚かか、尊いかを決めるのは想像力だ。自分自身から抜け出し、世界全体を俯瞰し、個々に入り込む想像力。数々の不幸を見ていると「幸せとは何か」がわかってくる。本当の幸せを探す。人類全員が幸せになれる方法を考える。それは、行動に移せば即ち救済。持てる者も持たざる者も、被害者も加害者も、不運に見舞われた者もそれを笑う者も、誰彼構わず救う新しいヒーロー。それこそが僕の追い求めていたヒーロー像なんだと。

 しかし、僕の中に巣食う否定主義者が言う。

『救済なんて無いって、お前はそんな強い存在じゃないって(笑) 今までに苦しんでるお前を救った者がいたか?ww 両親でさえ、だけはお前を見限ったじゃないか(爆笑)』

 病気を治せる的なこと言われて、レイに言われるがまま霊世に入ってきたけど、僕がここにいる意味はちゃんとある気がする。そう強く信じる。僕の仮説が正しければ、僕がここに来たのは、必然的なことなんだ。


 悪霊ハンターの試験(のようなもの)が始まった。そしてたった今深刻な問題に直面している。

「卍(°0°)卍ウオエアアアアーーーッ!」

俺は今、牛の被り物をした8本足の肉塊的化け物×5に追われ、運動会以来の超全力回転バタバタ走法で地獄の鬼ごっこを繰り広げている。さっき足の親指を小さい岩にぶつけて捥げそうなくらい痛い!芝生代わりに突起が形成されゴツゴツした地面に対して、使い古して衰弱したスニーカーは最早防衛機能を持たない。走り過ぎて脚が痺れて感覚もない。もしかして血出てる?いや、今足元見ちゃいけない!後ろも見るな!ただ走れ!後ろを...

「@(°O°)@イヤアアアアーーーッ」

ボコンッ。

後ろで鈍い音がした。あれ、地面が動いて...頭クラクラするなあ...

バタッ。


「まるで才能ねえな、お前」

槍司の声。呆れを隠さない声。

「そんなことないっす!最初は怖くて当然でっすよ!元気出して!」

唯一俺を励ましてくれるのは、悪霊狩りの依頼を集めてハンターに提供している『ホロポリス』の副所長のリン。童顔で背も小さい。黒髪は自然に後ろに流していて小顔をふんわりと囲っている。かわいい。もっとおめかしすればアイドルなれると思う。話し方の印象は14歳くらいの子供という感じだが、亡霊狩り関係の仕事に正式に就くには20歳を超えている必要があると聞いた。年上から"っす"口調で話されるのは少し変な感じがある。

「そんな甘やかしちゃ駄目だよ、姉さん。こんな根性無しは一回奈落に突き落とさないと」

辛辣な言葉をかけてくるのが、リンの弟のルシャルフ。こっちは大人びて背が高く色白で、いわゆる美形だ。髪は金髪のロングヘアーをオールバック、ブランドもののいかにも高そうな白コート、サファイアらしき宝石のネックレス。俺が少しでも姉にお近づきになろうとするなら斬り捨てたろという気配を醸し出そうと努力しているように見える。時々キッって感じで俺を見てくる。キッて感じ。

 俺は今霊世のファミレスにいる。別に人に聞いたわけじゃないが、俺の知ってるファミレスとほぼ同じだからそう言ったまでだ。気になるところと言えば、メニューがハンバーグのセットとステーキのセットしかないことと、食器が念動力で運ばれることと、店員がみんな髪青いことくらいだ。食欲が失せない色にした方が良いと思うがなあ。

「まだここに来たばっからだから俺が特別に教えてやるけどよお、姉さんはなあ、てめえらが学校で「せいかつ」の授業やってた時から悪霊を狩りまくって、今じゃ悪霊狩りの最高顧問なんだぜ!敬語を使えよ敬語を」

『ホロポリス』は保安庁に対亡霊部が出来る前からあり、リンとルシャルフの父が初めて悪霊による殺人を未然に防ぎ捕らえた事をきっかけに、悪霊ハンターの拠点として活動している。対亡霊部は霊国政府に属している正式な組織だが、規定として『ホロポリスの所員を顧問とし、任務にあたる際はその指示に従うこと』というものがある。

「もう、そういうこと言わないでって。あたしは面白い仲間が増えてうれしいっすよ!槍司くんも優しくしてあげなきゃだめっすよ?」

「ハッ...俺はむしろ優しくし過ぎてないか心配だけどね」

「おっ珍しく気が合うな、もっさりスカシ」

「フンッ...」

「フ...もっさり...」

「あ?何か言ったか」

「すいませんでした」

そんな感じで俺たちがコントを繰り広げてる間に、リンが小ちゃめのリュックサックをごそごそして、何かミサンガみたいなものを出した。

「はいっヒデオくん、これからよろしく!」

よく見たら紋章が入ったバッチがくっ付いている。そういや槍司やアリスも似たバッチを付けてたような。

「あっ、姉さん...こいつまだ合格してないんだから...」

「あっ...でもまあ、合格祈願ってことで!」

可愛い。マジ天使。マジ卍。

「有難う御座います、有難う御座います」

槍司は汚いものを見るような目で見、リンは苦笑い、ルシャルフは満足気。

 6人用のテーブルで俺が窓際に座ったところ槍司が一席分空けて座っている。明らかに避けられている。俺の向かいにリン、そしてルシャルフがリンに半分寄りかかるようにして座っている。そして俺が少し手を伸ばしたりするとすぐに反応してシュッと手を伸ばしてくる。リンのハンバーグを盗らせないためか。何だ、俺が人のもの勝手に食べる人種だと思われてるのか?

 しかし、あれだけ走ったからかステーキが美味い、肉汁の旨みが沁みるねえ〜。プラスマジキンキンに冷えたコーラ!マジ生きてて良かった。

 俺が感慨に浸っていると、槍司はいつの間に食べ終わっていて、

「じゃあ俺らはそろそろ続きを始めるか」

と言って席を離れかけた。

「えっ俺のステーキ来てからまだ3分しか経ってないんすけど」

「別に来なくてもいいぞ。よく考えてみりゃ、雑魚悪霊を前にして逃げ回ってるやつにチャンスあげるなんて勿体無いよなぁ。俺もすぐ後に任務入ってるからなあ」


〜ヒデオの記憶〜

槍司:おら、試験はじめんぞ!

俺:試験って何のだよ!

槍司:悪霊と戦う試験にきまってんだろ!おら〜

俺:うわ〜何かちっさい妖怪だ〜

槍司:この槍で目玉突いてみろ〜

俺:うえ〜大丈夫なのか?う〜よし!せーの!

(ドスッ!プクービキビキビキ!グオエェェェェー!)

俺:化け物じゃねーか!うわーーーー...


「いや、普通逃げるだろ!理不尽だぞ!」

「へえ、過去に入ってきた奴らはみんな武器渡したらちゃんと仕留めてきたけどな、お前には無理か」

くそっ。何も言い返せねえ。

「まあ俺も鬼じゃないし、そんな無理強いするつもりは」

「やるよ!くそった...お願いします、先輩!」

「おう、それでいい」

槍司は一瞬満足そうに笑みを浮かべ、足早に出口に向かった。俺も続いた。

「応援してるっす!」

「あれ、お会計は...」



 俺たちは町を離れて、ハルヴィコンという廃村の山の麓に来た。

「この山の中腹にある空き小屋の周りを、大きなハンマーを持った青白い子供が鼻歌を歌いながら徘徊していると情報が入った。行方不明者も出ている。悪霊の可能性が高い。」

「え、それを俺が?実戦ってこと?」

「そうだ。まあ死にそうだったら俺が助けてやる。この世界では脳と心臓さえやられなければ臓器引きずり出されても死なねえから」

「なんて恐ろしい...」

「まあ、気負うな。あと一つアドバイスだが、お前が持ってるその札は悪霊に。」

あのお守りの紙切れのことだろう。これが唯の紙切れじゃないことは、死んだじいちゃんからさんざん聞かされた。しかし、使

 山道を進んでいると、鼻歌が聞こえてきた。それは力んで重く、音も不快に外れていた。小屋が見えてくると、歌が聞こえた。

「命を捨てられた哀れな子は〜♪

くだもの見つけたよ〜♪」

全身の毛が逆立つのを感じた。心臓の音がやけにうるさい。目も背けずにはいられない。足は、他の誰かのものになったみたいにうまく動かない。

「呼吸を整えろ。相手は大きくないぜ」

「わ、わかってるさ。」

槍司が肩を組んで、深呼吸を促した。前を向く勇気は湧いてきた。依然手足は震えている。

「槍を持て、おれの霊力が篭っている。10歩進んだところで霊は正面に現れる。いいな?」

俺は頷く。

「よし、行ってこい」

そして槍司に押し出されて、俺は鼻歌のする方へ歩いて行った。

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