第11話 儚い夢
俺は中世ヨーロッパの宿屋みたいな小屋に到着した。二階建てで中は見た目通り狭い。
「いらッシャイませ」受付らしい初老の男が言った。あいさつがぎこちないのは、痩せ気味の腹を押さえているかららしい。そもそもいらっしゃいで合ってたっけ?
「保安庁対亡霊部のアリス・セイレーン隊長の招集で参りました!」俺は槍司に教わった文句を言った。
「はい、存じております。お嬢様は二階にいらっしゃいます」そう言って初老の男は階段へ案内した。後をついて行くと二階の廊下に上がり、それは不思議なことに外から見たよりも遥かに広かった。これも霊能力によるものなのか?
それにしても俺は今からお嬢様に会うらしい!この世界の雰囲気があまりにも現実世界に似ていたもので異世界に来た気があまりしなかったが(そもそも名前からしてここを異世界と呼ぶべきでは無い気がしているが)、強くて美しい異世界的美少女が有難くちゃんと存在するとなれば、6年男子校のこの俺がこのチャンスを逃す理由がない!
そんなこと考えながら長い廊下を歩いていたら、受付の男が『第二駐屯室』の前で立ち止まり、扉をノックした。ガラにもなく緊張していると、まもなく扉を開けて出てきたのは...召使いらしき青年だった。
「ヒデオ様ですね。どうぞ中へ。お嬢様がお待ちでいらっしゃいます。」
俺は思わず気が抜けたように息を吐いていたが、頬を軽く叩いて、唾を飲み込んで部屋に入った。頬を叩いた時召使いと受付がちらっとこっちを見た。よせ、彼女の親に挨拶しに来た彼氏じゃないんだ。ハハ。
入っていくと、応接室のような空間、にしても豪華だ。シャンデリア、ゴシック様式のテーブル、紅茶ポット、クッション素材の大きな椅子、そしてそこに優雅に座る金髪の美少女!目が合った瞬間、俺の上に雷が落ちた!
明るくも深いシーブルーの瞳。少し高くも目立ちすぎない鼻。ほんのり赤みがかった頬。唇は自然に紅く顔の輪郭はややシャープで、違和感なく可愛らしさと美しさを共存させている。薄いグレーと淡く濃い青のワンピースに紺色のコートを軽く重ね着していても分かる細身。太ももに重ねた白い手に汚れは一切なく、純粋に美しい。右手の人差し指にルビーの指輪。袖から出た腕を見れば肌は透き通って、柔らかそうな肉質。裾の下の黄土色の革ブーツ...。
とりあえずアイサツ。愛刺ツ。
頭を真っ白にしていると、美少女が立ち上がって言った。
「初めまして、わたくしが悪霊ハンターのアリスです。どうぞよろしく」
はっきりとした高く美しい声!
「よ、よろひくおねぃしゃす!」
陰キャが男子校に2年以上も在籍していると女子に対する免疫がすっかり落ちてしまうのである。
アリスはクスッと笑った。口に手を添えると顔立ちの良さが一層際立つ。
「レイから話は聞いてるわ、悪霊に取り憑かれて、それを祓うために来たんでしょう?可哀想に...」
するといきなりアリスが俺の手を両手で掴んできた!顔、近い、近い!
「さあ、目を閉じて...」
顔が熱くなってくる。俺は目を閉じた。
ドガッシャン。気づいたら俺は壁に突っ伏していた。体が痛い。車と衝突したらこんな感じかもしれないと思うくらい痛い。メッキが取れ割れたティーカップが落ちている。アリスが高笑いしている。さっきの優しい声とは一転して、悪魔みたいな声が聞こえる。
「ホッント可哀想にッ!フハッハッハ!何寝てんだよ起きろボサボサ芋野郎!ハッハ!」
なるほど...性格最悪だ。とんでもないドSだ。夜の店のムチ打ち嬢もびっくりだ。
アリスが俺の髪の毛を引っ張って奥の部屋へ投げ出した。今度は優しい声だ。
「ごめんねえ、アタシってばついつい弱い人間いじめたくなるの〜☆ お願いなんだけどお、コロボール100個作ってくれるぅ?あとでごほうびのチュウしてあげるから♡」
なんて飄々としてるんだ!コロボールってなんだ!片手で人間吹っ飛ばしやがって、頭皮剥がれそうでつっこんでる余裕ないが!あーイタイィィィィィ!
ドア閉められたし。受付が去り際堂々と笑いやがった。腹抑えてたのはこれ見るの楽しみにしてたってことか。腹立つなあ〜。
なんか眠くなって来た。たいして走ってないのにすげー疲れてる。何かやる事あったかな。うーん。よし、寝るか。 Zzz・・・
僕は森の中にいた。いつも窓から見えた森だ。舗装された道を歩いて来たはずだったが、左右後ろを振り返ってみてもそれは見つからない。表情のない不気味な木の群れがいるだけだ。見られている気がする。一斉に。自分は実は巨大な動物の胃袋の中にいて、もうすぐ地面が崩れてその下の胃液に落下するということを考える。その生物は僕が広大な酸の海でもがいていることには全く気づかないが、僕は確実にその生物の栄養になって、同じ被害を受ける者を増やす動力になってしまう...
こつ、こつ、と足音がする。地面に耳を当てて縋る様に聞くと、何かがこちらにゆっくり近づいてくる。明らかに僕に迫ってくる! 規則正しく堂々としたリズムで!
それはきっと「運命」だ。変化を齎す使者だ。僕は助けを求めて、足音のする方へ走り出す。生物がそれに気付いたのか、胃袋は大きく唸り出した。僕は中に浮く。木々が僕を縛り付ける!地面が崩れる!
カチ、カチ、カチ...
ドガアァァァン...
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