第7話 始まり

 僕は最初からこうも人間不信的な性格をしてたわけじゃない。小さい頃は友達と鬼ごっこしたり、トレカを集めて対戦したり、ゲームを誰が一番早くクリアするか競ったり、仕切り屋でリーダー格の女子に公然と片想いする陽キャをしつこくいじったり、テストの点数を競ったりするごく普通の子だったと思う。普通でないことと言えば、友達の母親に「しっかりしてるねえ、欲しいものある?」と言われサッカーボールが欲しいと言ったら後日1万円近くする新品の5号球をプレゼントされその母親の息子である友達と気まずくなったことくらいだ。そのボールは当時の僕には当然大きすぎたが一万円の重みと友達の冷たい視線をひしひしと感じながら毎日ボールを蹴っていたのを覚えている。そんな普通の僕は、14才にして重大な出来事に直面した。世の中には、誰にもどうしょうもないような悲惨な運命が存在することを知った。


「そのどうしょうもないことを僕がどうにかするよ」

「君は...お前は何者なんだ!」僕は反発した。レイは僕の心をすべて見透かすように話すのに、僕の方からはレイの心が全く読めない。ことすら本当かわからない。レイの話し方に感情の起伏が無いわけではないのに、その情報ではうちに秘めた思惑は一向に曝け出されない。まるで仮面が話しているみたいだ。僕は今その仮面によってこの真っ白な世界に閉じ込められようとしているのかもしれない。ともかくこれは非常事態なんだ。慎重に伺ってる場合じゃない。

「そんな風に感情に振り回されていてはいけないよ」とレイが優しく言う。

「それに愚かな質問をしてもいけない。僕が何者かは君が僕を見て決めることだよ。仮に僕が『君の味方さ』なんて答えたとして、君はそれを鵜呑みにするのかい?」

僕は少し考える。レイの言うことが正しいと思う。

レイは俄に真剣な顔できっぱりと言う。

「語られる事実はいつだってその一面だけだ。今までだってそうだったろう?君はこれからもっと厳しく残酷な世界で生きることになる。そこでは人情や絆なんて当てにならない。君は自分で何事も判断しなくちゃいけない。しかも判断を間違ってはいけないんだ。それに気づかない内は永劫、幻想に欺かれ真偽の分別も失ったまま彷徨うだろう」

 レイが僕の右手を両手で強く掴む。

「『事実はまだ真実でない。』この言葉を憶えておくんだ。迷わないために。」

僕は頷きながら、左手でレイの手を強く握り返す。僕は弱い。僕は強くならなければいけない。もう一度普通になるために!

「そう、その意気だ。ところで名前を聞いてなかったね」

僕は答える。「結城英雄ゆうきヒデオ。もしくは英雄えいゆう

レイは深く頷く。それから、手を離してにこりと笑う。

「最後に一つだけ言おう。これから僕らは霊世ヘブンに行く。その世界のどこかにイデアという宝があり、それを手にすれば君は自由になる」

「え、天国ヘブンに行くの?僕死んだの?」という言葉を心に留めておいて僕は頷く。

「じゃあ行こうか」

レイが立ち上がって手を伸ばすと、扉が現れる。すると途端に僕は吸い込まれて、たちまち意識を失う。

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