第6話 予感

(このインタビューはフィクションです。実在の人物・事件とは一切関係ありません)


 〇〇新聞記者によるXX市在住の猟師へのインタビュー記事(19XX年8月XX日)

-事件が起きたのは何時ごろでしたか。

「もう日がとっぷり暮れちまって、おいらも寝てたくらいだから、20時は過ぎてるだろね。そん時は妙に外が騒がしいでね、猿やらよだかの鳴き声がうるさくって起きちまっただよ。こんなのは30年に一度も無かったがよ。」

-事件の様子を改めて話してもらえますか。

「うん、まずおいらが起きたらよ、ケンちゃん(注:猟犬の愛称)が居なくなってただよ。おかしなことが起きたらいつもケンちゃんが起こしにくるんけどな、おいらを。変だあと思って表に見に行ったらよ、まあっ白い着物着たちっちゃい男の子がよ、ケンちゃんを連れて行こうとしてただよ。髪まで真っ白で、多分知らん子だったよ、なぜか顔は見たことある気がすんだがね。9つくらいのかわいい子だったがね、ここら辺の子じゃあないだろね。おいらはその子に言っただべ、「どうしたね、こんな遅くに」って。そしたら急に走って逃げるだわ、ケンちゃんもついて行って、すごく速ぐてね、(山の頂上の方を指差しながら)こっちの、森の奥にずうっと行って、追っかけとったら急に止まってな。そしたらそこに数えきれぬくらい犬がおって。野良犬じゃないべ、体がきれいだし毛並みもいいし(両の掌で上下に囲むようにしながら)こんぐらいのちいっちゃいワンコもおったよ、そしたらその子供がよ、いきなりパァーンて、大きく手ぇ叩いたと思ったら、犬がみんなばたばた倒れだしてねえ。んで驚いてるうちにその子がいなくなっちまって、とにかく慌てたね。その後は山を降って知らせようとしたら警察とば会って、この事話して、ケンちゃんや犬達は病院に連って行かれたげど、みんな無事らしいべ。(猟犬の方に微笑みながら)なあ、よし。」

-その事件の前日になにか変わったことはなかったですか。

「うーん...そういやこの山に鳥居があんだが、でっかい台車みてえなの引いた人らが、街から来て取っ払ってたべ、そんで山の神様が怒っちまったかもしれねぇな。またとにかくおいらを怪しむのは勘弁だべ。」

(記事には初老の男性が元気な様子の甲斐犬を抱いている写真が添えられている。しかし男性の笑顔は引きつっている)

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