最終話 誘拐の真実

 その建物は恐らく築年数は10年以上は経っているはずのマンションである。管理人は常駐しており、もちろんオートロック。そのため、誘拐犯のアジトに辿り着くためには正攻法の入り方しかない。偶然、通りすがりの住人を装ってオートロックを突破することは難しい。そこで、私は誘拐犯が待つであろう部屋番号のボタンを押した。数秒待つと、無言でオートロックの扉が開いた。当然、誘拐犯は私の存在を認識しているだろう。本格的に誘拐犯の待つマンションに入った私はエレベーターに乗った。10と書かれたボタンを押す。ちなみにこのマンションは10階建てだ。

 

 そのため、誘拐犯はマンションに数室しかないペントハウスに住んでいるのだ。何とも腹立たしい。私は賃貸アパートで息子と2人暮らしをしているのに。若干の高所恐怖症を抱える私は緊張しながらも、何としても息子を奪還する責任感を帯びて、誘拐犯が待つ部屋に到着した。そして、人差し指でインターフォンのボタンを押した。「ピンポーン」といつもの音がした。「ガチャリ」と扉が開いた。


 そこに現れたのは私の息子である。開口一番、私は息子に聞いた。「大丈夫だったか?」と。すると息子はいつもの口調で「うん。」と。その後、息子の背後から大きな人影が現れた。その正体はもちろん、私の前妻にあたる女性であった。実はなぜ私が誘拐犯のアジトへ身軽な服装で行き、最初から息子が待つ場所がわかったのか説明しよう。


 以前、説明した通り、私はバツ1である。もちろん、彼女もバツ1だ。親権は私にあるのだ。その理由は彼女は芸能界で忙しいため、子どもの面倒を見ることができないからだ。。今回、なぜ私たちが離婚したかは秘密にしておく。結論から説明すると親権は私にある。そして、子どもと離れて暮らす親には面会交流権を持つ。


 そのため、今日は面会交流権を行使する月に1度の面会の日であったのだ。仕事から帰って来た時には今日がその日であると忘れていた。そのため彼女を「誘拐犯」だと見立ててしまった。この日は月に1回彼女が息子に会えると同時に私も彼女と会うことで久しぶりの「家族」を味わえるのであった。


 元々は「悪役」の私と「ヒーロー」の彼女が出会いの始まりであった。その関係は時間が経過することで、「悪役」と「ヒーロー」の境目はあいまいになったのだ。今でも職業病から「戦隊ヒーロー」風味の振る舞いは抜けない。例えば、置手紙のあたりだ。そして、彼女を「誘拐犯」だとみなしてシミュレーションをする癖とか。しかし、家族が集まったいま、そんなことは水に流す。私は彼女が待つリビングへと向かい、一息つくことにした。

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バツ1子持ちの悪役 阿部健太朗 @KentaroAbe

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