【 家出 】

 僕は何も考えずに、家を出て走った。

 行く宛てなんてない。

 ここに知り合いの家なんてない。かず姉の家だけだ。


 とにかく走った。

 涙を拭いながら……。


 田んぼの畦道あぜみちを抜け、小さな橋を渡る。

 舗装された道から、深い森へと入り、お地蔵さんのある分かれ道に出る。


 そこを舗装されていない砂利道の方へと走ってゆく。

 この道は、よくかず姉と一緒に冒険へ出掛けた道だ。


 大きな木で覆われた日の光があまり入らない場所。

 徐々に辺りが暗くなってくる。


『ゴロゴロゴロ……』


 ポツリポツリと雨も降り出した。


 その道をしばらく行くと、右手に小さな川があり、川辺に岩でできた人ふたりほど入れるくぼみがある。


 そこで、よくかず姉と遊んだ記憶があった。

 その窪みに着いた頃には、辺りは土砂降りの雨となっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 僕はその窪みで雨をしのいだ。

 そこから上を見上げると、空も僕に怒っているようだった。


『ゴロゴロ……、ビシャーーンッ!!』


 凄い閃光せんこうが辺りを包み込んで、一瞬白くなる。


『ザァーーーーッ!』


 空が怒り狂い、いつの間にか僕は、ここから身動きが取れなくなっていた。



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