【 割れた壷 】

 その出来事は、本当に突然やってきた……。


「にゃ~」


『ガシャーン!』


「あっ!」


 次の日、僕の目の前で、お祖父ちゃんが大切にしていた形見ともいえる大きなつぼが割れる事件があった。


 大人たちが、壷の割れる大きな音で玄関先に次々と集まってくる。


 割ったのは、僕じゃない。


「お、お前、なんてことをしてくれたんだ! 大事なお祖父ちゃんの壷を!」


 大人たちは、なぜか僕が割ったんだろうと言う。


「ぼ、僕、割ってないよ!」

「お前しかいないだろ! この壷の前にいたお前しか!」


「僕じゃない! 信じて!」


 確かに、猫が壷を倒すのを見たんだ。

 怒られながら、願いごとを書いたばかりの青色の短冊を左手に強く握り締める。

 短冊は、僕の拳の中で、もうクシャクシャだ。


 結局、大人たちは、僕の言うことを信じてはくれなかった。


 涙が止まらない。

 壊れた蛇口じゃぐちのように、ポロポロと止めなく出てくる。


 かず姉も、そんな僕のことを黙って見ている。


(違うんだ、信じて欲しい。かず姉だけは……)


 左手で流れてくる涙を拭うと、僕は咄嗟とっさに家を飛び出した。



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