【 願いごと 】

 スイカを食べ終わると、お祖母ちゃんが部屋の奥にある棚の引き出しから、何やら色取り取りの紙切れを持ってきた。


「ボクちゃん、明日は七夕たなばただから、この短冊たんざくに願いごとを書いてみるかい?」

「願いごと?」


「ああ、願いごとだよ。この短冊に、お願いごとを書いて、笹に飾ると願いが叶うんだよ」

「ふ~ん」

「私も書く、お祖母ちゃん!」


 かず姉は、嬉しそうに黄色の短冊をお祖母ちゃんから受け取ると、持ってきたペンで願いごとを書き始めた。

 僕も青色の短冊を受け取ったが、何を書こうか悩んでいた。


 かず姉は、さっさと書き終え、その黄色の短冊を嬉しそうに眺めている。


「かず姉は、何を書いたの?」

「べーっ! ボクちゃんには、見せないよぉ~だ!」


 かず姉は、イタズラ顔で舌を出しながら、黄色の短冊を僕に見えないように、そのふくよかな胸に隠した。


 僕はかず姉みたいに、すぐには願いごとが思い浮かばない。


「お祖母ちゃん、僕、明日までに考えておく」

「そうかい。じゃあ、ゆっくり明日までに書いておくれ」


 お祖母ちゃんは、顔にいっぱいシワを寄せながら、やさしく僕に微笑ほほえんだ。



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