【 ボクちゃん 】

「お母さ~ん、ボクちゃんたち来たよ~」


 走りながら、玄関先で叔母おばさんに大きな声でそう伝える。


「あらそう~、意外に早かったのね~。和颯かずさ、スイカ切るの手伝ってくれる~」

「は~い」


 彼女の名前は、『日乃平ひのひら 和颯かずさ』。

 僕のいとこだ。


 兄弟のいない僕にとっては、まるでお姉さんのよう。

 だから、いつも僕は彼女のことを『かずねえ』と呼んでいた。


「は~い、ボクちゃん、スイカ持って来たよ~」

「あ、ありがとう……」


 顔をニコちゃんマークのようにしたかず姉が、嬉しそうにお盆を手にスイカを持って来てくれた。

 僕は縁側に座り、そのかず姉の持って来た大きなスイカにかぶり付く。


「お祖母ちゃんも一緒にボクちゃんとスイカ食べよう~」

「ああ~、ボクちゃん。久しぶりだねぇ~。元気だったかい?」


 部屋の奥から、白髪の腰の曲がったお祖母ちゃんが、ゆっくりとこちらへ歩いて来て、顔をクシャクシャにしながら、僕にそう言った。


「うん、元気だよ」

「そうかい。それは良かった」


 暑い日差しと、澄んだ青空。

 涼しい風が吹く、この山里の実家に、また今年もやってきた。


 この小さな夏休みは、やけにセミの大合唱が耳の奥に響き渡る。



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