視線の先には、いつも君がいた

maris

第1話

「ちっ!またおまえかよ!」

「仕方ないだろ!!名簿順なんだからさ」

 緑が丘中学1年D組の教室の前後の席

 僕、五十嵐圭と小学校からの親友上野卓也は同じクラスになった。


 3つの小学校から集まっていた為、

 知っているのは、その1/3、いや同じ小学校の人全て知っている訳ではないので、実際はもっと少なかった。

 顔馴染みの友人達でさえ、制服を着ると大人びて見え、近寄り難く思えていたので、見知らぬクラスメートには警戒心を覚えた。

 だから、卓也と同じクラスになれたことは、本当に嬉しかった。

 内向的で穏やかな彼といるとホッと出来る

 いい奴なんだ。



 そんな僕達の不安をよそに、授業は着々と進み小テストも多かった。

 そんな中、担任の教科科目、社会でいつも100点を取る女の子がいた。

 山口みなみ、肩までのセミロングをした

 どこにでもいそうな子だった。

 最初の席替えで、その子が僕の前に座る事になった時は、正直嫌だった。

 いつも高得点を取っているからか、オネェキャラの中年オヤジ担任のお気に入りで、

 優等生が嫌いな僕にとっては、ムカつく人でしかないから。

 だから、つい嫌な態度で接してしまうので、相手も嫌な態度で接してきた。

 犬猿の中だといえる。



 なのに、ある日卓也がとんでもない事を言いだした。

「ねぇ圭、聞いて、僕、好きな女の子が出来ちやった……山口みなみちゃん」

 はっ!?何故よりによってアイツなの?

 訊く所に依れば、先週、図書室での授業中、見つけられない本を図書委員の山口さんが、一緒に探してくれたんだとさ。



 馬っ鹿じゃねーの!!

 そんな事、図書委員なら当たり前だろ!!

 という僕に

「わかってるよ、そんな事!!でもさ、何て言うか、山口さんの話し方とか、声や雰囲気が良くって、いいな~って思って……」

「ふーん、僕にはわかんないけど、良かったじゃん、好きな女の子出来て」

「うん」と答えた卓也の顔は、少しだけ赤く見えた。

 それから、僕は山口さんに嫌な態度で接すことはなくなった。理由は、卓也に悪い気がして……。



 そして数日後、僕は大失態をおかしてしまった。

 前の席の山口さんに

「卓……じゃなくて上野君がこの前本を探してくれて喜んでたよ!!」

 ただ、卓也を応援したくて言っただけなのに、側にいた奴に訊かれて……

「エッー!!上野は、山口さんが好きなんだ!!」って叫ばれてしまった。

 2人にみんなの視線が集まった。

 山口さんは、困った様な顔をして、卓也は真っ赤な顔で恥ずかしそうに下を向いていた。




 慌てて卓也の席まで行って、両手を拝むよ様に合わせ小声で言った。

「ごめん……本を探してもらって卓也が喜んでたと伝えただけなんだ。……本当にごめん、余計なこと言って……」




「大丈夫だよ。恥ずかしかったけど、気にしなくていいから!!」

 たまには、怒れよ!!やさしすぎだろ!!




 それから、山口さんと卓也が少しでも接近しようものなら、みんなは、2人をからかった。

 そんな時山口さんは、いつも、「知~らない!!」「私関係ないも~ん!!」と言ってプイっそっぽを向いて何処へ行っちゃうんだ。



 

 卓也いい奴なんだけどなー

 他に好きな人いるのかな?



 その山口さんの事が、少しわかるようになったのは、2学期の中程に、彼女が虐めに合うよになってからだ。

 山口さんが、虐められるようになった理由は、何となく想像出来た。

 彼女の所属していた10人グループで、行われていた虐めにあったのは、山口さんの前にも2人(各々別々に虐めを受けた)いた。

 無視してはじかれているのは、何となく皆気付いていた。

 何故そんな事をするのか、良くわからない。中学校という新たな環境に対する不安や制服姿の新しい友人達との関わり方に不安を抱き、誰かを虐めることで一体感が生まれ、安心出来るのだろうか?



 最初の2人の事情はよく知らないけれど、元のグループに戻してもらおうと必死で、謝って回っていた。

 そんな事をしても受け入れてはくれなかったようだけど。

 みんなが無視する中、山口さんはいつもと変わりなく2人に接していた。



 多分それが原因だと思う。

 一緒に無視する側にいないのが、気にくわないとか。

 そして、山口さんはみんなに謝ってまわることもせず、普段通りでもなく、凛としていてカッコ良かった。

 でも、それは、新たな反感をかってしまったのか虐め期間を長引かせてしまったようだった。



 決して強く見えない山口さんは、

 本当は強い人なんだと思った。

 だけど、実際はどうだかわからない。

 何も出来なかった僕は、心配になり

「大丈夫?」って声をかけたんだ。

 そうしたら、山口さんは、一瞬驚いたけど、その後、笑顔で

「大丈夫!!有難う!!」って元気に答えた。

 やっぱり、無理してる。

 ……そんな気がした。



 年が明け、2月の後半になると、

 グループのリーダー格の織田さんがターゲットとなったことで、山口さんに対する虐めは終わった。

 織田さんは、別の意味で強かった!!

 行き場をなくして山口さんの側にいるようになった時、「絶対に、許さない!!必ず仕返ししてやる!」って話ているのを偶然聞いてしまった。

 それから驚いたのは、山口さんの前に虐められていた2人が、ちゃっかり元のさやに収まって、虐める側に立っていたことだ。



 その後どーなったかわからないまま1年生は終了した。




 2年になると、クラス替えがあり

 僕と山口さんは、B 組、卓也はE 組になった。

 卓也は、最初の内は、休み時間に僕のところに来ることが、多かったものの、相変わらず山口さんの事をひやかされるので、ほとんど来る事はなくなった。

 多分その頃には、学年のみんなが知っていたんだと思う。




 卓也に1度訊いた事がある。

 山口さんに告白しないのかと。

「今更?もう、バレバレなんだから、言う必要ないでしょ!!それに断られて諦めるのも嫌だし……このままでいいというより、このままがいい!!」

 恋をしたことがない僕には、やっぱり良く分からなかった。

 まぁ、本人がそう云うんだから、まぁいっか。



 一方の山口さんは、休み時間仲良しのいる

 A組に行くことが増えていた。

 そして、放課後、窓際の席に座って、外を見ている姿を時々見かけた。

 窓から見える校庭では、いつもの様に野球部が練習をしていた。



 もしかしたら、野球部の誰かが好きなのかな?




 ある日の放課後、

 山口さんとその後ろの席の鈴木君を数人の男女が囲み、わちゃわちゃしていた。

 2人は、恥ずかしそうにしていて、周りはお祝いムード。



 あー、今日は、確かバレンタインデーか。

 ということは、山口さんが鈴木君にチョコを渡したってこと?

 お祝いムードって両想い?

 でも、鈴木って確か、帰宅部だったよな?

 それに、2人が話している姿をあんまり見た記憶がない。

 それでも、席が前後だから、話すか。

 謎だけど、僕には関係無い……ってこともないか。

 卓也がショックを受けるだろうな……

 可哀想に……

 僕も何故か胸がチクリと傷んだ。

 知らせるべきか?そのうち耳に入るかな?



 僕からは、とても言えない、ゴメン!!



 数日後、山口さんと仲良しのA 組の子が同じクラスの木村君と付き合い始めた事を噂で聞いた。

 木村君って確か野球部だったっけ?

 山口さんの好きな人って!?

 ん??あれ??鈴木君は??……

 どういうこと!?意味不明。




 クラス替えがないまま3年生になってすぐ、

 山口さんと鈴木君は、付き合うのを止めたらしいとこれも噂で聞いた。



 結局、卓也は失恋したことも、復活出来た事も知らず、相変わらずたまに山口さんを遠目でみるだけで幸せを感じていた。

 別にアイドルでもないのに……



 山口さんが休み時間に、隣のA組に行くことはなくなったが、放課後は、相変わらず窓の外を見ていた。

 それは、3年の部活が終了するまで、続いていた……



 今でも好きなのかな?




 普段、山口さんは男女8人のグループのメンバーだったけれど、八方美人なところもあり誰とでも仲良くしていた。

 僕とも3年目の付き合いなので、普通に話していたし、僕自身も自然体で素直な自分でいられた。

 入学当初は想像も出来なかったな……

 今は、可愛らしく見えるし、くるくる変わる表情は面白くて、話をしていて楽しいと思えるのだから、不思議。

 卓也がB組になれば良かったのにとつくづく思った。



 その後も特別なことは何もなく、

 僕達は中学を卒業した──────




 卒業後

 この先山口さんに会えなくなると思うと急に淋しくなった。

 やっぱり、僕も山口さんの事が好きだったんだと思う。


 いつからかな?

 卓也が山口さんを好きだと言ったあの日から、山口さんが気になって、知らず知らず目で追っていた。

 その後もずっと、毎日当たり前のように、無意識に……

 もう、そうすることが出来なくなって初めて気付いたんだ。


 彼女以上に気になる人は、いなかったって。



 今更、山口さんには、言えない……



 ましてや卓也にも言えない……

 先に好きになったのは、卓也だから。

 どっちが先に好きになるとかなんて

 本当は関係ないのかもしれない。

 でも、には先に言った方が優先されるべきだと思うんだ。



 だから、誰にも言えない恋でいい。




 そして、山口さんだって、

 誰にも言えない恋をしていたのかもしれないのだから、同じって事で。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 あれから何年も経った今でも

 山口さんの事を思い出すことがある。

 それは、僕の初恋の人だったからなのかもしれない。





 ──何もなかったような日々は─────

 ─────特別な日々だった──────


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