Ep.07 ほーんと感謝だよー、グラッツェだね!
いつものように、教室で水筒のなかの水とともにデパスちゃんを2錠飲んで(先日は3錠だったけどね!)。そして夕ぐれの中で目を覚ます。
そんないつもの変わらない日常の中に、知らない誰かが混じりあっていた。
異物感のようなものはなくて。
それは、あまりにも自然に溶け込んでいたものだから。
ううん……。後になって思うと、似た者同士だったのかもしれない。
そんなこと、いまのわたしは知らないのだけど。
正直、朝にそのカレは何か言ってたみたいだったけどあまりわたしもなんて返事を返したかは覚えてなくて。
目が覚めてからカレ……俊也くんと話をすることでなんとなくだけど状況はつかめてきた。
俊也くんは痴漢さんじゃないということ。
第二ボタンは勝手に飛んでいったということ。
制服のサイズが合わなくなっているということ。
――わたしと俊也くんは付き合っているということ。(テンポラリーで)
「送ってくれて、ありがとね」
「いいって、ホントの痴漢にでも会ったら大変だろ」
「ふふ、心配してくれるんだねー、わたし結構失礼なこと言っちゃってるのに」
「いちおー、カレシだからな」
家の前まで着いたところで、俊也くんは、それじゃあ。と素っ気なく帰ろうとするものだから。
おもわずその腕をとってしまった。
「……うぉ、なんだ?」
頭に浮かんだのは、さっきの俊也くんとの会話で、キスをしたがっていたように思えたから――
誰が? ふふ、わたし自身が。
正直言うと、わたしはそこまでの生娘ではないし。別に、それくらいって思う気持ちもあって。
カレがもし、寝ているわたしに何かしていたとしても、それはわたしにはわからないことで。キスだって、それ以上だって。
眠っている間にしてくれちゃって、かまわないくらいには思ってる。
「……寝てるときに、しようって思わなかったの?」
「いや、えっと、なにを?」
「キス……とか」
「いやいやいや、そんなことしねーって。それにしてたら、俺わざわざ残って起きるまで待ったりしないだろ。後ろめたくて顔なんて見れねーよ」
「後ろめたい……ものなの?」
「そりゃそうだろ……キスしたいのは事実だしさ」
なにこの純粋なひと。
純粋すぎてちょっと困るなー。
困っちゃうよ。
たぶん、わたしは彼に言えないくらいに
ううん、いまも、してる。
「……3組の斎藤くんってわかる?」
「あー、あの眼鏡かけた小太りの。って言うと悪口みたいか? 知ってるよ」
ちなみにわたし達は2組。
斎藤くんと知り合ったのは保健室の隣り合うベッドと薄い仕切り越しでだった。
いわゆる保健室登校仲間だったわけ。
薬が効いてたから、そのときの斎藤くんの印象はあまりないけど。
「一年のときのことだけどね。彼、けっこーわたしが寝てる保健室覗いてたらしいの……たぶんキスくらいされたんじゃないかな」
「……ッ! それってマジなのか」
「わたし、あまり記憶にないけど。クラスの女子が見たって言ってたから」
(だから……。そんなものだから。わたしのキスをそんなに重いものと思わないでほしいんだよね)
ほら、困った顔してるよ……ね……、え?
(なんで、手を頭のうえに置くの――?)
「……嫌だっただろ? そういうこと。これからはないように、俺がついてるから」
「べつに……もっとひどいことされたこともあるし……。ち、痴漢にあったりもしてるし」
「それ、全部嫌だったことなんだろ? なら、俺で良ければ話聞くよ。過去を変えることはできないけど、これからは俺がいるから、させないから」
ペットじゃないんだけどな、わたし。
そんな風に撫でられても……。優しくされても逆に困るんだけど。
「口直し……いまさらだけど」
「いいの、か?」
わたしは少しだけつま先で立って、カレとの背丈の差を埋めるようにして……。
僅かばかり突き出した唇で、俊也くんを待つ。
「……んっ」
軽い、ほんとに触れるくらいのキスだったけど。
(やばいくらい……恥ずかしいんですけど)
「ありがと。口直しできた、と思う。なんか、いろいろ良い日だね今日。ハッピーがいっぱいで――」
「そ、そうか?」
「うん! 俊也くんには、ほーんと感謝だよー、グラッツェだね!」
ほんとはわかってる。
優しくて、ふつーなカレに。わたしみたいな地雷系女子は、絶対カレには似合わないのに。
「じゃあ、俺はそろそろ」
「うん。ほんとありがとね。今晩、連絡待ってる。いろいろ……話してくれると嬉しいな」
カレに教えたのはわたしのディスコードのID。
それが一番わたしが自由に喋れる空間だから。
これから夜は益々深くなるけど、皆が寝静まるくらいになって、やっと、わたしはわたしらしくいられる。
そんなわたしのことを全部話そう。
そして、キミとの3日が経ったら――
終わりにするつもり。この恋とxxxxを。
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