Ep.02 せめて、ボタンくらいゆっくり外せばいいのに  

――わたしは、登校して最初にデパスちゃんを2粒飲むことにしている。


 デパスちゃんは、抗不安薬で、睡眠導入剤のことなんだけど。眠剤って良くいわれるやつね。

 プチODだけど、誰も注意しないし。

 海外から取り寄せれば、いくらでも安くて手に入るから。

 

 でも、今朝はよくなかった。反省してる。

 

――さすがに3錠はりすぎだった。


 夜中に寝れないのはいつものことだけど、不安感と眩暈に襲われたままで朝を迎えたのはさすがに困った。

 それが幻覚なのか、妄想なのかはわからないけど。

 

 ずっと誰かの声がするんだよね。

 大抵はわたしを責め立てる声なのだけど。


 もう一度言うね。

 誰に? わたしに。

 だってこれはわたしのモノローグで。

 わたしだけの、心のなかだから!


――だからって、3錠は摂りすぎました。


 おかげで、目が覚めたときはもう夜中で、自室のベッドの上だった。

 最後にある記憶は、朝礼前の朝の教室だったんだけどね。


「あれ……ああ、久々にやっちゃった」


 睡眠導入剤による夢遊症状のまま、記憶にないうちに学校から家まで戻っているみたいだった。

 玄関先じゃなくて今日はベッドまでたどり着いただけ偉いよ、わたし。


「……あれ? あ。服……」


 、制服のシャツがはだけてる。


 ん? ……あれ? あれれ。

 指を胸元に這わせて……。あれ……どこにもない。

 あるはずのところに何度も手を持って行っても、すかすかと空振りする。


 ボタンがないっ!


 そこでやっと本格的に、覚醒したのだけど。

 わたしなりに集めた可愛いものを寄せ集めた部屋のなかを見渡す。

 

 ……あった。デスクの上に。


 ピンクの色で揃えたPCデスク周り、アニメのフィギュアとか、ヘッドセットとか、一通りそろえてるのだけど。

 

 マウスパッドの上に、そっと置かれている制服の第二ボタン。


(あ……そういえば)


 なんか誰かに抱きかかえられてた気がするけど、あまり思い出せない。

 

 きっととても、その誰かに迷惑をかけたのだと思うけど。

――その人もたちが悪いと思うの。


 べつに薬が効いている間に悪戯をされたのは1度や2度じゃないし。帰りの電車のなかで知らない痴漢に触られたりね。


 だから、今日もそういう痴漢さんのひとり。なんだと思う。


 は、――体液とかそのたぐいがついていないだけ、マシなくらい。


「マシなくらいではあるんだけど……ね」


 裁縫とか得意じゃないし、できれば乱暴にはシテほしくないといいますか。


 寝ている間なら、好きにしていいのに――。 

 どうせ覚えてもないんだから。


 せめて、ボタンくらいゆっくり外せばいいのに、って思っちゃった。


 ピンク色のゲーミングチェアに腰かけて、マウスに手を伸ばす。

 頭さえ覚醒すれば、大抵の時間はこの椅子の上で過ごしてる。


 ネットサーフィンとか、SNSのタイムラインをチェックしたりとか。

 えっちな声を録ったりとか?

 まー、思春期ならだれでもやってるようなネットの使い方をしてるわけで。

 

 二枚のゲーミングモニターの正面は横向きで、右側に縦置きしてる。

 縦置きのほうがディスコード画面が見やすいから。


 マウスを動かすと、連動してスリープしていたPCが解除される。

 同時にモニターが青白い光が目に眩しい。


 眩しいほどに、覚醒する意識が、私のテンションをあげまくって、すごくすごくポジティブにしてくれるの。

 

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