第79話 ヴァンパイアとの女子会2
「―――でも、人間って、
「・・・兄様は確かに強面ですが、人相悪くはないです。優しさと強さが滲み出てますから。控えめに言って、格好いいです。」
「そうかしら?」
「そうですよ。それに、人は外見だけじゃないです。兄様は、とっても優しくて、いつも私の事を一番に想ってくれていて、本当に素敵な人なんですから。」
「そういうものなの?」
「人の好みは様々なのよ、ローズ。ヴァンパイアみたいな容姿端麗なのにつられて首筋差し出しちゃうアホの居れば、見え見えのキュルキュルさに悶絶しちゃうようなアホもいる。」
「つまり、エネは人間を総じてアホだと思っている。と。」
「えー、酷いエネ! 私の事もアホだと思ってるの?」
「いや・・・あんたはもう、アホ通り越してるでしょう。自分の行い振り返ってみなさいよ。」
「翔が好きだからって、なんの保証もないのに死にに来たんだっけ? すごい行動力よね。」
「ゔ・・・」
ローズとエネと瑠衣と、3人での女子会。
女子会らしく、話は恋愛話に発展した。
と言っても、ローズもエネも、恋などとは無関係だから、問答無用で瑠衣と翔の話になったけれど、この2人には別段隠す話もないので、普段はできない普通の恋愛トークが出来て、瑠衣はとても楽しい時間を過ごした。
そんな穏やかな時間が過ぎて、「さてと」とローズが場を区切る。
「そろそろ瑠衣の質問に答えてあげましょうかね。」
そうだった。
元々瑠衣は、知りたいことがあってやってきたのだ。
少しシンと静まった空気の中、エネが我関せずと視線を外してお茶を啜る。
その横で、微笑みを浮かべるローズと目を合わせると、ローズは言葉をつづけた。
「まず、私は人間の心なんて読めないわよ。」
「え、でも」
「私たち上級妖魔はね、ダイレクトに心を読めなくても、あらゆる動作から感情みたいなのを読むのが得意なの。特に人間は
「エネから?」
「別に特別な事は何も話してないわよ。一応私も妖魔界でそれなりの地位に君臨しているから、何かあれば報告の義務があるだけ。お邪魔している世界が崩壊の危機だというなら、その動向は普通に気にするでしょ。その調査報告の中に、あんたが居たってだけ。」
確かに以前、妖狐界にも色々あると言ってた。
「そんな話をエネから聞いたすぐ後だったかしら? 突然翔が妖魔界の扉をこじ開けて入ってきたのよね。つい最近の話なの。何でかは知らないけど、私の心臓を持ってここを訪ねてきたのよ。で、開口一番「これはお前のか?」って。あの一瞬は時が止まったわね。ま、止まらなかったら勢いで殺してしまっていたけれど。」
「ローズ様の心臓って、薔薇の心臓ですよね? ヴァンパイアの力の根元であり、本物の薔薇と見間違うくらいに精巧で、妖艶な宝石って、記憶しているんですけど。」
「そうよ。予定では、そしてそれを奪いにそのうち死神がここにやってくるらしいわね。世界を救うためには、
ローズの言葉に驚いてエネを見る。
怪訝そうに目をそらしたエネはこの件について瑠衣と話をする気はないらしい。
「あの、どうして兄様がそれを? 物語通りなら、薔薇の心臓は千年ローズ様が持ち続けていたはずです。」
「それがね、前回のお茶会で盗まれたの。盗んだ奴は捕まえたんだけど、隠し場所を聞く前にうっかり種族ごと消しちゃってね。それからずっと行方不明。その程度でどうこうなる私ではないけれど、まさか人間界なんかにあったとは思わなかったわ。でも、翔がどうしてそれを手に入れて、どうして妖魔界の扉を開いたのかは知らないわ。私はこの手に
「兄様は何も言わなかったんですか?」
「えぇ。取引でも持ち出されるのかと思ったけど、翔は心臓置いてさっさと帰ろうとするものだから拍子抜けしちゃって。お礼をしようにも「恩を売りに来たわけじゃない」って断られるし。人間のくせに不気味じゃない? それで興味がわいちゃってさ、提案したのよ。
「それって兄様に危険はないんですか?」
「翔が狩ってるのはどうしようもなく落ちぶれた魔物だけよ。
「ですか・・・?」
少し腑に落ちないけれど、エネもそこは同意のようで頷いていた。
「翔は人間相手より魔物相手のが気は楽みたい。いい修行場だって。」
「兄様は、常に強さを求めていますから。それに、兄様のお仕事に関しては、私は関与しない決まりなので、そういう事でしたら、ローズ様、兄様をよろしくお願いします。」
「えぇ。もしも死んだら、ちゃんと骸は届けさせるからね。」
「それは・・・嫌です。」
「あら、要らないの? 放っておくと骨の髄まで食べられて消えちゃうけど、その方がいい?」
「そうではなくて・・・」
「ローズ、あんたいい加減にしなさいよ。」
「だって、瑠衣の困り顔可愛いくて。瑠衣ってつい意地悪したくなっちゃうタイプよね。ふふっ。」
産まれてこの方、いじられキャラだった事は無いはずなんだけれど、ローズに取ったら瑠衣は意地悪したい対象らしい。
それはそれで新鮮だし、構わないのだけれど、ローズが言うと冗談に聞こえないので困る。
「そんなわけで少しは瑠衣の疑問がはれたかしら?」
「はい。あ、でも、今更ですけどいいんですか? ここに私が居座って。兄様はともかく、私はローズ様に献上できるものなんて何も・・・」
「もう貰ったわ。傷を治した時にその血を少々。」
「・・・それ意味ありますか? 私、竜神族じゃないですよ?」
というか、あの時血を採取されていたのか。
「あら、十分すぎる対価だけど・・・瑠衣は本当に、自分の価値を知らなさすぎるわね。
「私の価値・・・?」
「そうよ。んー・・・ここにいる以上、自覚は必要よね? いいわ。特別に教えてあげるとね、あなたの血は控え目に言って、私の心臓と互角の力があるわ。」
「いや、冗談を。それは無いです。」
「それが、あるのよ。コレを元に私が
「・・・止めなさいよローズ? 世界の均衡が崩れる。それは」
「分かっているわよ。するつもりはない。ただ、持っているだけ。念のためにね。」
間に入ったエネは、珍しく焦った感じで不機嫌に瑠衣をジトっと見下ろす。
「あんた、何で怪我して来たわけ?」
「えっと・・・履き物履き忘れて?」
「・・・核爆弾のスイッチ持ってるようなもんよ?」
「え・・・私の血、コワ・・・」
エネの発言からローズの言っている事は嘘ではない事は分かる。
まぁ、でもそれはきっと、ローズ自身が最強のヴァンパイアであることも関係しているのだろうから、瑠衣の価値とやらは結局の所不明である。
ただ、念のためという理由で爆弾スイッチを握られてしまったら、もうだれもローズには勝てないのではなかろうか。
「そんなわけだから瑠衣、安心して好きなだけここにいらしゃいな。必要な物は、エネが揃えるから。」
と、ニコニコと微笑んでいるローズ。
『やっぱり・・・この人滅茶苦茶怖い人だ・・・』
背中にヒンヤリと冷たい物が通っていくのを感じながら、ローズを怒らせないようにしようと、瑠衣は心に誓うのだった。
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