第73話 兄様と住む、私のお家

 後日、無事に帰還した史郎を立ち合い人に、無事に借地契約が結ばれた。


「・・・と、いうわけで住居の確保ができましたので、長々とお世話になりました。」

「あらまぁ。寂しいわ。ご飯だけでも食べに来てね。なんななら私が作りに行くわよ!」

「寂しいですけど、同じ町の中ですからね。また一緒にお茶会しましょう。今度は瑠衣さんの家で。」


 家を借り受ける事を話すと、宿琉球の女将さんや風鈴が悲しんでくれた。

 長期に居座る客なんて迷惑だったろうに、そんな気を一切見せず接してくれた、温かい人達だった。

 

 簡単な料理のレシピをきいたり、おすすめの商店を教えてもらう。

 困ったことが在ればいつでも頼って良いと言ってくれる女将さんは頼もしかった。




 宿琉球を出て、翔と共に住居へと向かう。

 街はずれから更に細道を抜けたところに、その屋敷はあった。


「・・・でかいな。」

「・・・大きいですね。」


 明日花は小さな別宅だといっていたけれど、玄関に広い台所。

 居間の他に部屋が3部屋。さらに中庭と温泉もある。


 事前に聞いては居たものの、実際に目の前に広く開けた敷地と、そこに立つ立派なお屋敷は、どう見ても身分不相応。


「あ、来ましたわね。瑠衣。」

「お待ちしておりました。」


 やっぱり何かの間違いじゃ・・・? と、

 瑠衣がオロオロしていると、奥の部屋から明日花と萌生が登場した。


「あ、お邪魔してます。」

「何言ってるの、ここ、あなたの家ですわ。瑠衣。」

「いやいやいや。こんな凄い所、棲んだらバチがあたりますって。」

「棲まない方がバチあたりますわ。」


 何言ってるの? と、呆れる明日花の隣で、萌生がクスクスと笑っていた。

 きっと、瑠衣のリアクションが想像通りだったんだろう。


「一応、一通り掃除と点検はしたのですが、気になる場所など在りましたら何でも言ってくださいね。すぐに手配しますので。」

「ありがとうございます。」

「それから、当面の食材などを差し入れてあります。しばらくは慣れないことも多いでしょうから、私が小まめに覗きに来ます。困った事などいくらでも相談してください。それから、生活必需品は全て台所の方へ運んでおきましたので、後で一緒に確認くださいますか?」

「何から何まですみません。」


 萌生の口調も相まって、『コンシェルジュ付の別荘か何かかしら?』とも思ったけれど、確かに流浪人が突然に家を持つなら勝手が分からないものかもしれない。


 台所の小道具や、掃除用具など、細かいものまで手配してくれているのはありがたかった。

 前世の知識はあったけれど、なんせ温泉付きの家なんて住んでいないので、手入れや留意点をしっかり聞いておいた。


 一通り使い方や説明を受けて、一段落すると明日花と萌生は帰って行く。


 せっかくなので、居間にある囲炉裏で湯を沸かしてお茶でも入れてみる事にした。


 倭ノ国では、囲炉裏自体は珍しくはないけれど、宿生活の場合は、宿の方が起こした火を利用するので、囲炉裏の火起こしは瑠衣にとって初めての経験。

 まぁ、野宿生活で、似たような事はいくらでもしていたけれど。


 囲炉裏でお湯を沸かすのには、なんだか昔から憧れがあった。

 これぞ家族団らんの象徴というか、そんな気がしていたから。


『夜はここで鍋でもしようかな・・・差し入れの野菜が駄目になる前に食べないと・・・。』


 台所に置かれた大量の野菜達。

 外出がちな翔と、基本帰ってこない史郎、そして、そこまで食が太くない瑠衣では一向に減らない気がする。


『冷凍庫欲しいなぁ・・・』


 そんなことを考えながらお茶を入れると、屋敷全体の安全面を確認しに行っていた翔が現れた。


「いかがでしたか?」

「流石、領主家の別宅だけあって、考えられている屋敷だ。これなら瑠衣が一人で留守番しても危険は少ない。」

「それは、良かったです。でしたら、休憩しませんか? お湯を沸かしてみたんですけど、お茶でもいかがですか?」

「あぁ。もらおう。」


 囲炉裏を囲んで2人でくつろぐ。

 なんて幸せな時間なんだろう、としみじみ思ってしまう。

 でも、これで良かったのだろうか?


「・・・こんな家に住んでいいのでしょうか・・・」

「お前がした事の結果だ。ありがたく受け取ったらいい。」

「・・・嫌じゃなかったですか? 家・・・。」

「瑠衣が居るところに俺は帰る。家が在ろうと無かろうと、それは変わらない。・・・が、ここは町外れで静かな場所だ。いくらでも鍛錬はできるし温泉まである。何に不満を持つことがある? 瑠衣には感謝しかない。」

「よかった。」

「せっかく宿代が浮くんだ。瑠衣も仕事なんてせずにゆっくりしたらいい。」

「それは・・・考えておきます。潮は良い人ばかりなので、お仕事も楽しいですから。」

「全く・・・無理するなよ?」


 相変わらず、瑠衣に優しい翔。

 

 そうだ。

 明日はまた、露天をだしに行こう。

 帰りに甘味処菓宝堂にいって、奮発してパンケーキを食べよう。

 エネの家に行くのもいい。

 そして、日が暮れたら家に帰ろう。


『兄様と棲む、私の家に。』


 それはなんだか、とても素敵なことな気がした。






 ――――――――――――― 3章完


 お読み戴きありがとうございました。

 本話で3章、鐘鳴り島編が終わりになります。

(この後に2話程、おまけの小話を予定しておりますが)

 翔の出自を中心に、色々な事が暴かれ始めた3章、いかがだったでしょうか?


 面白かった、このキャラ好き! この展開はっ!! などありましたら

 ★・フォロー・感想・応援コメント等でアクション頂けると凄く励みになります♪


 次回4章は、いよいよ瑠衣って何なの?

 という、物語の確信に触れるような内容になる予定です。

 是非、瑠衣ちゃんに会いに来てください。

 

 それでは次話でお会しましょう。

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