【 褐色 】

 ふと、窓の外を見ると、いつの間にか外は雨が降っており、傘をさしている人の姿も見られる。

 通り雨だろうか、先ほどまで顔を出していた西欧の陽気で眩しい太陽が、いつの間にか恥ずかしそうに隠れてしまったようだ。


 私は左手で頬杖ほおづえをつきながら、右手でカップに入った紅茶をスプーンでクルクルっと回した。

 すると、カップの底にわずかに残っていたものが、スプーンと一緒に褐色の中で回る。それと同時に、あの懐かしいほのかに甘い香りが、白いカップから漂ってきた。


「もう、私のことは忘れちゃったのかな……」


 客が私以外誰もいなくなった店内で、とても小さなひとりごとが、思わず口から漏れた。

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