変わり者の天才・夢野真璃亜の研究レポート

文月ゆら

プロローグ

「マリア、もうこんなの分かるのか……」

 父が床に座る娘にそう声を掛ける。

「これは……なんて書いてるのか分かるか?」

「……ぞう。ぞうとはりくじょうどうぶつさいだいのいきもので……」

 娘は図鑑に書かれている文字をよどみなく読み上げる。

 そんな娘を父は誇らしく思い、母は……訝しげな目で見ていた。

「マリアはやっぱり天才だよ」

「そりゃ天才に決まってるじゃない……彼女は私たちが……」

 母は持っていたお盆を投げ置き、エプロンを外しながら部屋を出る。

 そんな両親を、マリアはじっと見ていた。


 あれから十三年後、両親は事件に巻き込まれこの世を去った。

 両親がもういない。なのに、なぜかマリアは“悲しい”が分からず、ただそこに立っていた。

「君がマリアちゃんだよね?おじさんは日本の警察に勤めている崎田と言うんだ。君のこと、ご両親から聞いているよ。日本に来ないかい?」

「私は、イギリスでこのまま生活します。高校や大学のこともあるし、日本は……私には合わなさそうだから」

「でも君は日本人でしょう?いずれ日本に来るのなら、早めのほうが……」

「四歳の時に一年だけ日本に住んでましたが、住みにくいところでした……大人になって、日本へ行きたいと思ったらその時に行きますから……私は一人でも大丈夫なんで」

 マリアはそういって、規制線の中にある自分の家へと入っていく。

「変わった子だな……やはり、普通じゃないからか……」

 崎田は手紙を残し、日本へ帰国した。


 家の中ではマリアが佇む。

How I will live myわたしはこれから life in the futureどう生きていこうか……」

 彼女は荷物をまとめ、家を出る。

 向かった先は、ある研究施設だった。

「Professor, I'm alone now教授、私一人になった……」

You can rest assured君には私がついているから that you have me with you.安心しなさい

 マリアはその男性に微笑む。



「日本か……なんか昔とは違うな~」

 マリアは大人になった。

 イギリスの大学を飛び級で卒業し、その後は研究機関に所属し研究に明け暮れるも、教授が他界したことによって、人間関係を円滑に進めるための潤滑油がいなくなった。

 人間関係が悪化し、居心地が悪くなり、仕方なく研究施設を退職。

 十五歳の時に出会った崎田と言う男に会うために、マリアは日本へやってきたのだ。

「相手が私のことを覚えてるかは分からないけど、まあ、会うだけあってみるか」

 キャリーケースを転がしながら、マリアは目の前にそびえたつ警視庁へと入っていく。

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