第37話 劣等生VS元主席

 降魔はリングに立ち、大きく息を吐く。

 戦闘では先に興奮した方が負けだと降魔は気付いていたからだ。


 ———時に感情は視野を狭くする。


 様々な魔術本にも書いてあるその言葉は、魔術だけでなく、その他の戦闘全てで言える。

 その為降魔は先程の怒りを鎮めるために息を吐いたのだ。


(そのお陰で視野が広がった。コンディションもバッチリ。過去1の実力が出せるかもな)


 降魔は軽い準備運動をしながらそんな事を思う。

 すると昴もリングにやって来た。


「降魔……よく逃げなかったね? てっきり怖気付いて逃げ出すかと思っていたよ」


 やって来るなりいきなり笑顔で降魔をディスる昴。

 しかし降魔は先ほどとは違い、完全に意識が戦闘に移っていたため、何とも思っていなかった。

 それどころか笑みを浮かべて言い返す始末。


「俺に逃げて欲しかったのか? もしかして……そんなに俺が怖いのか? いや……俺に惨敗するのが怖いのか」

「なっ!? お、お前……こ、この僕にそんな事をい、言って良いと……お、思っているのかい?」


 顔をヒクヒクさせながら明らかにキレている様子で問いかける昴に降魔がトドメを指す。


「五月蝿いぞ雑魚が。俺はお前なんか眼中にねぇんだ」


(俺はまだ恥ずかしい事だが年下の双葉に勝てないからな)


 降魔は自分を応援してくれているライバルであり友達の双葉のため、本気の体勢に入る。

 既に身体強化魔術も探知魔術の自己改良版——【見切り魔術】を発動させていつでも戦闘を始められる様にする。

 手には剣を握っており、その剣は結界魔術を剣型に改良した降魔のこれまた自己改良版だ。


 そんな降魔に対し、昴は体全体を震わせ、顔は憤怒の表情に染まっている。

 そして降魔と同じく剣を抜き、身体強化魔術も発動させた。


 そんな2人の戦意を感じ取った司会者はしどろもどろになりながらも開始の合図をする。


『け、決勝戦す、スタートですっっ!!』


 その瞬間に2人は殆ど同時に接近する。

 先に仕掛けたのは昴。

 学生離れした卓越した剣技で降魔の頭に剣を振り下ろす。


「1発で終わりだッッ!!」

「———そいつはどうかな?」


 一見決まったと思われた昴の剣は、降魔の結界剣にあっさりと受け止められていた。

 昴は両手で振り下ろしたにも関わらず、降魔は片手で尚且つ下からの斬り上げと言う明らかに不利な状態なはずなのにだ。


「な、なっ……お、お前……ど、どう言う事だ……」


 速度、魔術の質、精神、技量。

 その全てが降魔の方が圧倒的に上だった。


 その余りの差に昴は理解ができないといった風に困惑に顔を染めていた。

 しかし降魔はこれを試合ではなく戦闘だと思っているため息つく間もなく斬撃を繰り出す。

 その鋭く重い一撃を何とか受け止める昴だったが、その手はブルブルと震えていた。


 手が痺れたのだ。

 そんな昴をチラッと見た降魔だが、その後も正確無二な剣撃を繰り出し続ける。

 しかもギリギリ相手が死なない程度に加減されて。


 しかし昴はそんなことなど気づかない。

 そんな事を意識する余裕がなかったからだ。


 変わって観客席や司会の席は、寝静まった真夜中の様に静まり返っていた。

 それは勿論降魔の圧倒的な力に誰しもが空いた口が閉まらないほど驚いているからだ。

 まぁ一部の部屋ではキャーキャー言っている者も数名いるが。


 しかしそんな事には全く気付いていない降魔は目の前の昴を見ながら心の中でため息を吐く。


(……やはり体術は皆んなこんなもんか……まぁ俺が異常すぎるだけだとは思うけどな。でもこのままだとコイツが文句言うかもしれないし……)


 降魔はそこまで考えて剣戟の合間に昴を蹴り飛ばし、一旦距離を取って言う。


「もう終わりか? ん? 降参するか? ——早く召喚魔術を使ってこい。コテンパンにしてやる」


 降魔は更に身体強化魔術を重ね掛けし、更にはいつでも結界を発動できる様にしておく。

 

 そしてそんな自身より格下だと信じて疑わなかった相手にボコボコにされた昴はその言葉に更に憤怒する。


「少し勝ったくらいで調子に乗るなッ! 良いだろう! お前がそこまで言うならお望み通り使ってやる!」


 その瞬間に周りのマナが昴の魔道バングルに集まっていく。

 降魔はそれを見て、遂に本当の戦闘の始まりを感じていた。


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 是非みてみてください。

『チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜』

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