第36話 決勝戦開幕
降魔はあれから真夜中になって双葉が呼びに来るまで永遠と魔法について調べていた。
その後に双葉と領の管理人に怒られたのは言うまでも無いだろう。
降魔は説教が終わると、自分の部屋に戻って明日の為の準備をした後にベッドに着く。
(必ず勝って見せる……。そして必ずあの魔法を完成させる……)
降魔はそう誓った後、双葉の顔が頭をよぎる。
(…………どうやら俺は相当彼女に入れ込んでしまっているようだ……。何だか他人事に思えてしまうのは、こんな気持ちが初めてだからだろうか)
この学園に来て彼女に出会うまで降魔は、出会う全ての人に負の感情を抱かれていた。
ある時は罵られ、それを見ていた第三者が悪意を持って笑い倒し、それに口答えすれば暴力。
学園生内での暴力沙汰は厳しく罰せられると分かっていた降魔は何もやり返さなかった。
その為にどんどんすり減っていく心。
しかし彼女——双葉だけは降魔に負の感情を抱かなかった。
それどころか自ら関わってこようとする始末。
始めは最悪だと思っていた降魔だったが、双葉と一緒にいるにつれてその関係が心地よいと思ってしまっていた。
(我ながらチョロい。初めて優しくしてくれた異性だから気になるとか……。だが、それ程までに俺はやられていたのもまた事実。今年もダメだったら本当にやめようかと思っていたほどだったからな)
しかし双葉のお陰で新たな魔術を開発しようとなっただけでなく、魔法の存在まで確認できた。
何から何まで双葉のお陰だ。
(まぁそのせいで色々と面倒ごとが舞い込んできたのもまた事実だが)
降魔は数々の嫌がらせを思い出す。
しかしその程度なら降魔にとってそれ程のことでは無い。
自身が強くなる道を見つけたのだから。
それにそれも全て降魔が何かをする前に双葉が秘密裏に対処していたのを降魔は知っていた。
(今まで何から何までしてもらってばかり。なら———今度は此方が頑張る番だ)
降魔は明日の決勝戦へ全力を注ぐことを誓った。
~~~~~
次の日の8時ごろ。
降魔は既に今回の決勝戦の開催場所である第一練習場に到着しており、座禅を組んでいた。
周りにはまだ誰も来ていない。
それもそうだろう。
本来決勝戦が始まるのは午前11時頃。
まだ後3時間もあるのに、降魔は控え室に到着していたのだ。
降魔はそれから何十分か座禅をした後、突如立ち上がって魔術陣を描き始めた。
手には何十枚もの紙を持ち、シャープペンでどんどん描いていく。
その速度は1枚に約1分も掛かっていない。
「やっぱり手書きで魔術陣を描くのは時間がかかるな」
そんな頭おかしいことを宣う降魔である。
もしそんなことを本業の人に言ったらボコボコにされるだろう。
降魔が全ての魔術陣を描き終えると、そこに昴が入ってきた。
「ははっ、もう居るのか? もしかして緊張で早く来てしまったのか?」
入室僅か3秒で降魔を煽り出す昴。
(こいつ……人前じゃ無いと性格めっちゃ変わるな。まぁ俺は元からこんなのだってのは知っているが)
「……確かに緊張はしているかもな」
降魔は特に怒るようなことなどせず、冷静に返す。
その姿にチッと舌打ちをする昴だったが、それきり何も言うことはなかった。
無言の時間が30分続いたかと思うと、外からとうとう司会者の声が聞こえてきた。
昴は降魔を1度見たかと思うと、近づいてきてボソッと一言呟く。
「双葉さんは後少しで僕の奴隷になるんだ。彼女には屈辱を味わせてじわじわと精神を壊していくとするよ」
「———ッッ!? お前……」
降魔は殺気を撒き散らして昴を睨むが、昴は一瞬だけ動きが止まったかと思うと、すぐに余裕の笑みを浮かべて控え室を出て行った。
1人取り残された降魔は殺気を隠すことなく撒き散らしながらボソッと呟く。
「——————」
その声は今まで誰も聞いたことがないような地獄から這い上がってきた鬼の様にどす黒く暗い感情を持って口から吐き出された。
そして———遂に決勝戦が始まる。
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是非みてみてください。
『チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜』
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