第31話 召喚魔術VS劣等生②
降魔は物凄いスピードでシャドウ・ウルフに接近すると、勢いの乗った蹴りを放つ。
しかしその蹴りはシャドウ・ウルフが影になることで回避した。
そして今はシャドウ・ウルフには物理攻撃は効かない。
しかし降魔は止まらない。
「はァァァァ!!」
「グルァ!?」
気合の声と共に地面を蹴って空中に飛び、そのままシャドウ・ウルフが影から戻った所でかかと落としを喰らわせる。
完全な不意打ち攻撃だったが、流石敏捷性特化の狼型召喚獣。
驚きながらもギリギリの所で降魔のかかと落としを避ける。
そして降魔が空中から降りてきた瞬間を狙って体当たり。
しかし降魔はそれをバク転の要領で避け、それ以上は危険と感じたのか、お互いに少し離れる。
「わ、私が目にしているのは、げ、現実なのでしょうか……。落ちこぼれと呼び名の高い降魔選手が上級召喚獣であるシャドウ・ウルフと互角に戦っています……」
呆然、と言った感じで実況をする司会者。
しかしそれも致し方ないことだろう。
シャドウ・ウルフは上級召喚獣であり、降魔はまだプロでもない生徒で、それも学年で一番弱いと思われていた生徒だ。
そんな彼が身体強化魔術のみで互角の近接戦闘を行っているとなれば、たとえそれがプロであろうと驚きに目を見開くだろう。
その証拠に司会者だけでなく観客や、絶賛試合中である明彦すらも呆然と降魔とシャドウ・ウルフの戦闘を見ていた。
あいも変わらず1人の少女はテンション爆上がりで応援していたが。
そんな見物人たちを他所に、1人と1頭の戦闘は続く。
シャドウ・ウルフが【影走り】と呼ばれる能力を使って、一瞬の内に降魔の影へと移って後ろから噛みつこうとする。
「ガウッッ!!」
「犬ころは攻撃のレパートリーが少ないな。こんなの何年も前に腐るほど見たぞ」
降魔はそう言いながら避けるのと同時にシャドウ・ウルフに回し蹴り。
流石に攻撃の最中だったシャドウ・ウルフは避けることが出来ずに被弾。
それと共に大きく後ろへ飛ばされる。
シャドウ・ウルフが蹴り飛ばされたことで明彦がハッとして降魔へと罵声を浴びせる。
「お、お前、一体何をしたんだ!! 絶対何かズルをしているんだろうが!!」
「何を言っているんだバカが。そんな事を追求するより、さっさと降参するなり泣いて謝るなり何とかしろ」
降魔は明彦の罵倒を冷たくあしらうと同時に思いっ切り煽る。
そんなことを言われて、それも降魔と言う自分よりもしたと思っている奴に言われたのだ。
勿論黙っている明彦ではない。
「ふざけるなッッ!! 誰がお前なんかに謝るかッッ!! 《我が身を強化せよ———》【身体強化】!!」
身体強化魔術を使用した明彦がシャドウ・ウルフと同時に攻撃に加わる。
流石契約している関係だと感じるほどに息の合った攻撃だった。
シャドウ・ウルフが顔に攻撃しようとすれば、明彦は足払いを掛けてくる。
その時はその場で降魔は横向きに回転しながら避けると言う離れ技でなんとかやり過ごしたが、その後から降魔は終始防戦となってしまった。
どんどんと苦しくなっていく攻防に降魔は顔を曇らせる。
そして降魔は自身がつい感情に任せて煽りすぎていたことを少し後悔していた。
(やばいぞ……こいつら普通に強い……)
降魔は必死に攻撃を捌きながらそう思っていた。
既に降魔の体には幾つもの切り傷や擦り傷がついている。
そして息もだんだん上がり始めていた。
明彦が拳を降魔の肩めがけて振り抜く。
降魔はそれを後ろに下げることで避けようとするが、足が動かない。
「——チッ……くそッ……」
後ろからはシャドウ・ウルフが【影縛り】と言う、相手の影を縛って体を動かさないようにする能力で降魔の体を縛っていた。
そのため降魔は動けないので当たると確信していた明彦だったが、その顔は驚愕に染まることとなる。
「なっ———!? バカなッッ!? どうしてあれを避けれる!?」
明彦の言う通り、降魔はギリギリのところで避けていた。
降魔はあの瞬間に一瞬だけ幻影魔術を発動したのだ。
掛けたのは相手に幻聴を効かせるという魔術だけ。
それも明彦ではなくシャドウ・ウルフにこう聞かせた。
『【影縛り】をやめろ』
と、明彦の声で。
効果は的面だった。
ギリギリの所でシャドウ・ウルフは解除した。
その後同時に発動していた身体強化魔術の一部である、【反射神経強化】で一瞬だけ反射神経を上げて肩を下げ、ギリギリで回避したというわけだ。
しかし降魔は避けたにもかかわらずその表情は苦々しいものだった。
それは明彦の戦い方にある。
明彦の戦い方は、モンスターに有効かと聞かれれば、そこまでだと言えるが、それが対人だとなると変わってくる。
人間はモンスターと違って弱点が多い。
例えば先程降魔が大志や壮馬にやったように顎を掠れさせれば、大抵の人間は脳を揺らされると脳震盪を引き起こして倒れてしまう。
その他にも出血が多すぎれば失血多量で人間は死んでしまうし、足を折れば動けなくなる。
動きに問題のない怪我でも、痛ければそれ程動きも鈍ってしまう。
そう考えると、チマチマとしているが、確実にダメージを与える明彦の戦い方は合理的だと言えるだろう。
格闘技術が高い降魔が現在こうして追い込まれているのが何よりの証拠だ。
しかしタダでやられているわけでなく、それと同時に降魔はこの戦いの弱点に気が付いた。
それも致命的な弱点だ。
だがその弱点を突こうにも今は攻撃を捌くので手一杯のため実践できない。
降魔は1度仕切り直すために、腹への明彦の蹴りと、後ろのシャドウ・ウルフの振り上げた前足を無理やり掴み、明彦は毎度おなじみの足を引っ張ってずっこけさせる。
そしてシャドウ・ウルフには何もせずに手を離して一気に明彦ペアから距離を取った。
「はぁはぁはぁ……」
「はっ、俺をこかした所でお前の負けは確定しているんだ! 先程お前が言ったことをそっくりそのまま返してやるよ! 早く降参するんだな!」
そう言って煽ってくる明彦だったが、降魔には全く聴こえていなかった。
降魔は明彦とシャドウ・ウルフを見逃さないように見ている。
(本当に戦闘では感情がどうしても邪魔になるな……。だが起きたことはもうしょうがない。それは後で反省だ。これからは短期決戦で一気に決める……! それに関する全ての出し惜しみはしない……!)
「———確実に仕留めてやるさ……」
降魔はある魔術を使った。
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