第30話 召喚魔術VS劣等生①
降魔はその後も順調に駒を進め、遂に予選最終戦、第5戦目が始まった。
降魔の落ちこぼれという知名度は凄まじく、第4回戦まで1度も召喚魔術どころか普通の魔術も身体強化魔術以外使われることはなかった。
まぁ裏を返せばそれ程降魔は年下にも同級生にも舐められまくっていたというわけだが。
しかし今回ばかりはそれが降魔を有利に進める要因となった。
(どんな悪い噂でも本人がなんとも思っていなければ、役に立つこともあるんだな)
そんな馬鹿なことを考えてしまう降魔だったが、そう考えなければならないほど焦っていた。
次は準々決勝に出れるかと言う大事な試合。
出れたか出れなかったで大きく今後の人生が変わってくる。
そのためこれからは流石に油断なんてしてくれないだろう。
完全に実力で勝ち上がらないといけなくなり、当たり前のように召喚魔術だけでなく他の魔術も多用してくるようになるだろう。
(――そうなると不利になるのは間違いなく俺だ。それほど召喚魔術は大切だからな)
しかしそんな不利な状況でも降魔は勝たないといけない。
そのためには常に本気で挑まないといけなくなるだろう。
(……進路変更だ。これからは―――)
「…………出し惜しみ無しで行く―――」
―――降魔は遂に落ちこぼれを少し脱却することを決意した。
~~~~~
「続きまして予選第5回戦第2試合!! 今回の対戦選手は、1回戦で敗退すると誰しもが考えていた学園一の劣等生! いや、最早劣等生とも言えないかも知れない、八条降魔ああああ!!」
そう呼ばれた降魔は、ゆっくりと舞台へ上がっていく。
しかしその余裕のある歩みとは別に、顔を真剣な表情になっており、適度な緊張感を持っている最適な状態となっている。
降魔が舞台に着くと、今度は対戦相手が登場した。
「そんなラッキーボーイ、八条降魔選手と対戦するのは、前大会で召喚魔術と身体強化魔術のみで、準々決勝まで進んだ、富樫明彦おおおおお!!」
そう言われて出てきたのは、降魔のよく知っている奴だった。
「よう、負け犬! お前はラッキーでここに来たらしいが、それも終わりだ! この俺がお前をぶっ倒すからな!」
そう降魔に言う奴は、降魔がこの学園に来て1年目の時の同級生で、降魔に暴力を振るっていた、昴と同じく所謂いじめっ子という奴だ。
その時の傷はないが、当時はまだそこまで強くなかった降魔はなす術なくボコボコにされて、毎回パシリにされたりして虐められていた。
「…………富樫……」
降魔は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
正直言えば今でも関わりたくなかったと思う生徒の1人だった。
だがひさしぶりにあった奴は、降魔が昔感じていた恐怖感や圧倒的な力の差と言うのを微塵も感じない。
「こんな奴に俺は良いようにされていたのか……」
「ああ!?」
そんな自分が情けないと感じた降魔は、過去の決別も兼ねて、明彦に不敵な笑みを浮かべて言う。
「よう、久しぶりだな。俺がいなくなってまた違う誰を虐めているのか? もしそうなら成長していないなお前」
「……調子に乗るなよ。お前は俺の奴隷だろうが!」
「俺がいつそんなことを言った? 生憎それはお前の都合のいい妄想だ。この歳まで妄想を現実に持ってくるなよ」
降魔が煽るようにそう言うと、顔を真っ赤にして怒りに震えながら降魔を睨む明彦。
しかしそんな明彦とは反対に、降魔は物凄くスッキリしていた。
(昔は何も言うことができずにやられるだけだったが、今の俺は昔とは違う)
「さぁあまり話してないで始めようじゃないか」
降魔はそう笑顔で明彦に言うと、明彦が更に怒り狂う。
そんな2人の険悪さを感じ取った司会者は、急いで開始の合図を言った。
「そ、それでは試合スタート!!」
そう言ったと同時に動いたのは明彦。
「絶対にぶっ殺してやる……! 《我、富樫明彦が契約獣に命じる。我が現し世へ顕現せよ―――》【
そう言うと魔術式が黒く染まり、そこから影が生まれる。
そしてその影が徐々に狼のようにやっていき、ほんの数秒で真っ黒な狼が現れた。
降魔も何度も見たことがある、上級召喚獣のシャドウ・ウルフ。
単純な戦闘力なら上級下位だが、影を移動して攻撃したり、影になることで物理攻撃を無効化するなどと言った特殊な能力のお陰で、総合評価は上級上位に位置する。
そんな化け物を目の前にした、降魔はと言うと……
「……何で笑っている……!」
明彦が言った通り、不敵な笑みを崩さない降魔の姿があった。
降魔は魔導バングルを起動させ、詠唱を開始する。
「《我が身を強化せよ―――》【身体強化】」
降魔は普段歴戦の猛者の幻影と戦う時よりも少し弱く身体強化を発動させる。
それでもその輝きは強く、明彦はその魔術式を見て驚愕していた。
「な、何なんだその輝きは……! そ、そんなはずない! ―――やれ、シャドウ・ウルフ!!」
「ガウッ!!」
明彦の命令にシャドウ・ウルフが降魔に向けて飛びかかる。
それと同時に降魔も地を蹴って自らシャドウ・ウルフに突撃した。
「さぁ、かかってこい。犬ころは人間様に勝てないことを教えてやるよ」
いつもより口の悪くなった降魔は不敵な笑みを深めた。
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