第20話 劣等生と虐めていた元同級生の邂逅

 結局その日は朝の魔術大会のせいでクラスの雰囲気は終始暗かった。

 しかし対称的に降魔は珍しくやる気に満ち溢れていた。


喪失魔術ロスト・マジックの記された文献が賞品……なんてタイミングの良い……。これは神が俺に新たな魔術を作れと言っているみたいだな)


 と考えてしまうほどには浮かれており、周りのことなど全く気にしていない。


 降魔は取り敢えず今後のことを話すために森の中の聖域に双葉を呼び出す。

 するとほんの数分で双葉が息を切らしながらも急いでやってきた。

 その表情は笑顔で喜びに染まっており、双葉は降魔が何かを話すよりも先に話し始める。


「降魔!! 今日魔術大会のこと聞いたんでしょ!? これは最高のタイミングね!!」

「お前も聞いたか双葉。そうだ、しかも1冊1冊違う魔術が書いてあるらしいぞ。俺と双葉が違う分野で優勝すれば2冊ゲットだ!」


 今更ながら、降魔と双葉が下の名前で呼び合っている。

 これは魔術の開発の途中でお互い呼びにくいという事でお互いに下の名前で呼び合うこととなった。

 流石に誰かがいる前では呼び方は変えるが。


「そう言えば双葉は何に出るんだ?」


 降魔は自身の出場する分野を決めるために双葉に聞く。


「私は……召喚魔術かなぁ……」

「まぁそれが1番確率が高いだろうな。何せ超級召喚獣を使役しているんだろ?」 

「そうね、正直違う分野でも勝てるかもしれないけど、今回は本気で勝ちに行くために召喚魔術部門にするわ」


 双葉は胸の前で拳を握り、『絶対に勝って空間魔術の文献を手に入れて見せるわ!』と意気込んでいる。

 どうやら空間魔術は自分でも使いたいらしい。

 降魔はそんな双葉を見ながら『じゃあ俺は』と言って、


「俺は身体強化魔術部門に出るか。こんなんでも召喚魔術以外は自信があるからな」

「んーそうね。降魔は他の魔術も高水準だけど、身体強化魔術は飛び抜けているものね。それに体格も……」


 双葉は降魔の腕やお腹、胸を見ながら少し頬を染める。

 実は双葉は男が嫌いな癖に筋肉フェチなのだ。


 降魔が脱いだら凄いと言うのに気付いたのは2人で格闘技の特訓をしていた時だった。

 その時は6月にしては暑く、2人とも汗をめちゃくちゃかいていたため、双葉は無理にしても降魔は男。

 別に体を見られても減るものはないと言うことで降魔が汗で濡れたシャツを脱ぎ、上半身裸になると……


『んなぁ!? や、やばい……これは予想していなかった……』


 突然双葉が変な声を上げてぶっ倒れたのだ。

 降魔は始め熱中症かと思い、シャツを着るのを忘れて近くの水源で水を汲んで看病していたら、双葉はすぐに目を覚ますが……


『ふわっ筋肉っ!? きゅぅぅ……』


 降魔の筋肉を見て再び気絶してしまった。

 その後降魔に筋肉フェチだと知られた時は顔を真っ赤にして死にそうになっていたが、どうやら開き直ったようだ。

 

 降魔は双葉の視線に気付けながらも別に触ろうとしていないので無視して言う。


「俺は……その内決めることにするか。どんな魔術があるのかいまいち分からんし」

「私も喪失魔術はあまり知らないのよね……。知っているのは空間魔術と追跡魔術だけだし……。叔父さんやお父さんなら知っていると思うけど……」

「やっぱり見てから決めることにする。絶対に」


 降魔は双葉から過保護な両親だと聞いているので、自分が言ったらヤバいことしか起きないと感じていたのだ。

 それに気づかない双葉は『……? まぁいいわ』と意味がわからないと言った感じだった。


「まぁ取り敢えずこれからは魔術大会に向けて特訓するしかないわね。私の召喚獣はここでは召喚できないから、一緒に第1練習場に来てくれないかしら……?」


 双葉は恐る恐ると言った様子で聞く。

 

「ん? ああ、それは俺にもありがたい提案だ。一度双葉の召喚魔術と召喚獣は見てみたかったからな」

「ほんと? なら速く行きましょ! 私がプロ顔負けの召喚魔術を見せてあげるわ!」


 そう言って降魔の手を取って走り出す双葉。

 降魔は危ないから離せ、と言おうとしたが、その表情が嬉しそうにしていたので何も言わずに引っ張られることにした。


(こんなに喜んでんだし、ここは年上としての器のデカさを発揮してやるか)


 2人は第1練習場を使う許可を貰うために学園へと戻っていった。





~~~





「それじゃあ私の召喚魔術を見せてあげるわ!」

「おおー! 前回いなかったから見てみたかったんだ!」


 2人は第1練習場に移動して召喚魔術を使おうとしていた。

 まだ2人が森から戻ってきて10分も経っていない。

 それなのに学園でも随一の設備を誇る第1練習場が借りられているのは、ひとえに双葉のお陰だ。


 双葉が名家の出身というのもあるが、何せ日本初の最高適合率保持者と言うことが大きい。

 まぁ多少降魔がマナ適合率100%と言うのもあるが。


 そんな第1練習場で、双葉は自身の召喚魔術を見せられることに気分が良くなっている。


 しかしそれを上回るほどにテンションの高い奴がいた。 

 勿論降魔だ。

 降魔は前回見られなかったため、いつものキャラが崩れてしまうほどに興奮していた。


「マジで楽しみだ……。超級召喚獣……人生で一度見られるか見られないかと思っていたものが目の前に……」

「それじゃあ行くわ! 《我、契約を願う者。我が召喚に———」

「——ちょっと待った!」


 双葉が魔術を発動するための言葉を紡いでいた時、突然第1練習場の扉が開き、待ったをかける者がいた。

 双葉は何事かと振り返えろうとして、降魔の表情を見て固まってしまう。

 

 普段召喚魔術以外で滅多に顔に感情を出さない降魔が、今まで見た事ないくらいに顔を憤怒に歪ませていた。

 しかしそんな降魔に相手はニヤニヤしながら近づいて来る。


「やぁやぁ誰かと思えば僕の元同級生じゃないか! 学園の落ちこぼれがどうして学園一の優等生である双葉さんと一緒にいるのかな?」

「……なんでもいいだろう。お前には関係ない事だ」


 降魔は冷静に返すが相手の男は更に笑みを深めて言う。


「関係あるさ。君は彼女に相応しくない! 彼女には僕こそが相応しいのだ! この荒木昴あらきすばるがね!」


 荒木昴。

 奴は降魔と同じ年に入学した当時の学年首席で、降魔が落ちこぼれだと全学年に広めた張本人であり、降魔が1度は学園を止めようとする原因となったイジメの主犯でもある。


 そんな降魔にとって最も会いたくない男——荒木昴はそう言って双葉の手を取ってしまった。


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 ではではまた次話で。

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