第21話 挑まれる劣等生

 双葉の手を取った昴は降魔を無視して双葉を見る。

 そしてそのニヤついた顔が一気に死人のように引き攣っていく。

 

 双葉の顔は全ての感情が抜け落ちており、その美貌から人間ではなく人形に感じてしまう。


「《詠唱省略》【身体強化】——死ね」


 双葉は昴の手を握り潰すと共に蹴りで奴の腹を穿とうとする。

 しかし結果的にそうはならなかった。


「——やめろ。それ以上やったらお前が危ない」


 降魔がいつの間にか双葉と昴の手を離し、双葉の蹴りを手で抑えていたからだ。

 双葉はそれで平常心を取り戻し、慌てて降魔を心配する。


「だ、大丈夫!? ご、ごめんなさいっ! 私は——」

「いや大丈夫だ。身体強化魔術と結界魔術を発動していたから俺はほぼノーダメージだ」


 降魔は自身の体に何も傷がない事を双葉に見せる。

 それでも双葉は自身のしでかそうとしていたことに後悔していた。


(わ、私……降魔が止めてくれなかったら……)


 双葉は自身を責めているが、降魔は双葉が悪いとは思っていない。

 しかし内心では、


(危なかった……俺、過去一早く魔術を発動したかもしれん……。まさか男子に触られるのにあそこまで拒否反応が出るとは…………ん? なら何で俺は大丈夫なんだ? まぁ今はそんなことどうでもいいか)


 結構ヒヤヒヤしていた。  

 まさかいきなり攻撃しようとするとは流石に思っていなかったからだ。

 

 だが、双葉が手を出そうとしたのも悪いと言えば悪いが、原因は間違いなく昴にある。

 降魔は後ろにいる昴に向き直り無表情で責める。


「お前は知らなかったのか?」

「な、何が……?」

「コイツは男に触られるのが何よりも嫌いらしいぞ。そんなことも知らずによく自分が相応しいなんて言葉が吐けたな? それに俺が抑えなかったら間違いなく重傷だったぞ?」


 降魔がそう言うと昴は自身に起きようとしていた事を想像したのか、一瞬ブルっと震えていた。

 しかしすぐに取り繕うように立ち上がり、降魔にビシッと指を差す。


「僕はお前が止めなくても自分で対応できていたさ! 僕は双葉さんと同じ名家の出身で神童とも呼ばれていたからね!」

「てことは双葉が生まれてから神童と呼ばれなくなったのか。——……無様だな」


 降魔は今までの腹いせも込めて皮肉を言う。

 するとどうやら炎児——いまいち分からないがすぐにキレることはない——や双葉のように器が広くないのか、ワナワナとし出し降魔に唾を飛ばしながら怒鳴る。


「お前……お前、僕を侮辱したな……! 庶民の分際で名家出身である僕のことを……!」

「お前には名家の威厳とやらを感じないぞ」


 降魔が追撃するように言うと、とうとう抑え切れなくなったのか、昴が逆に冷静になって笑顔で言ってきた。


「———対戦しよう」

「は?」


 降魔はいきなり言われたことの意味がわからず思わず聞き返す。

 すると昴は髪を靡かせながら、


「次の魔術大会で降魔、お前は総合戦に出なさい。そこで僕に勝てたら双葉さんといることを許そう。——だが! もし僕が勝てばお前には双葉さんの視界から金輪際消えてもらおう」


 とありえないくらい不公平な対戦を申し込んできた。

 これには先程までショックで黙っていた双葉も反抗する。


「ちょっと! それは不公平だわ! 総合って言ったら全ての魔術が使用可能な部門じゃない! そんなの召喚魔術を使えない降魔が不利になるのは目に見えてるわ! それに貴方が負けたら『許す』で降魔が負けたら『関わらない』ってあまりにも釣り合ってないじゃない!」

「お、おい、お前は俺を擁護しているのか……? それとも貶しているのか……?」

「え? 擁護しているに決まっているじゃない」

「…………」


 そんな純粋な目で見られた降魔は何も言えなくなった。

 それと同時に悪意なく言われるのが1番傷つくんだな……と降魔は思ってしまった。

 

「何を言っているのかな双葉さん? この庶民と僕が釣り合っているわけないじゃないか。コイツが不利なのは当たり前だよ」


 そんなことを宣う昴。

 そんな卑怯さに双葉は呆れ返っていた。


「はぁ……貴方怖いのね。私の攻撃を受けた彼が。だからわざと降魔が負けそうな総合部門で挑むことにしたのね」

「本当に何を言っているのかな、双葉さん?」


 そう言う昴だが、その笑顔には明らかに苛立ちが混じっている。

 そこで更に言おうとした双葉だが、降魔に止められてしまった。


「ちょっと、何で止めるのよっ!」

「まぁ、これは俺に言われてるんだし俺が言うさ」

「むぅ……降魔がいいなら良いんだけど……」


 双葉は渋々と言った感じで引き下がった。

 それに気を良くした昴が再び笑みを浮かべて言う。


「それでどうするんだい? まぁお前には決める権利などないけどね。……お前は総合部門でやれよ? 昔のようにいじめられたくなかったらな?」


 降魔と肩を組みながら耳元で言う昴。

 これさえ言えば降魔は必ず乗ってくると思ったのだろう。

 今までずっとそうだったから。

 しかし降魔はペシっと昴を跳ね除けて言った。


「……お断りだ」

「………………は?」

「何故俺がお前に従わないといけない? 召喚獣がいなければ落ちこぼれと蔑んできた俺よりも弱いお前に。それに双葉と連むことをお前にとやかく言われる筋合いはない。お前は双葉の何でもないんだからな」


 あっさりと否定する降魔。

 その瞳には怒りが篭っており、昴を睨んでいる。

 まさか自分が断られるとは思ってもいなかった昴は間抜けな顔を晒しており、降魔の後ろでケラケラ双葉が笑っていた。


「お、おま———」

「もう貴方どっか行きなさい。これから私たちはここで大会に向けて特訓するの。これから貴方の家に直々に抗議の文書を送るわ。『お宅の息子さんが娘とその友達に要らぬちょっかいを掛けてくるのでやめさせろ』とね」


 双葉はそれだけ言うと、どこかに電話をし出した。


「もしもし、紅葉? ちょっと邪魔な奴が入ってきたから追い出してちょうだい」


 双葉がそう言うとほんの10秒ほどでイカつい黒服の大男たちが現れた。


「な、何だお前たちはっ!」

「コクコク」


 昴の叫びに思わず同意してしまう降魔。

 すると顔に傷のある男が出てきて双葉に尋ねる。


「貴方が八条降魔様ですね? お話に聞いております。双葉お嬢様のお父上である総司様から伝言を預かっております。———『うちの双葉をよろしく頼む』と。そして———」


 いかつい男たちは昴を囲み、


「お前にはここから出て行ってもらうか。そしてお前が双葉お嬢様に近付かないよう我らが監視しておくからな。余計なことをしたらわかっているよなぁ!? ……やれ、お前たち」


 リーダーがそう言った瞬間に何も言わせることなく昴を何処かに連れて行ってしまった。


 そしてリーダーの男がこちらを向き、


「それではお2人で特訓頑張ってください」

「ありがとね、源次郎」

「お礼を言われるほどではありません。私は双葉お嬢様の護衛なので」


 『それでは失礼します』と言ってリーダーの男——源次郎は帰って行った。


「……………」


 降魔はあまりの展開の速さに呆然としており、そんな降魔の顔を見てクスッと笑った双葉は、


「遅くなったけど、これから私の召喚魔術を見せてあげるわ。期待しててね?」


 その笑顔はどこか懐かしく、安心する笑顔だった。


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 ではではまた次話で。

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