第6話 劣等生と優等生の望まぬ邂逅と……
それは一時間目の最中に起こった。
降魔の教室の扉が荒々しく開けられ、不良っぽい男子生徒、神風炎児が入ってくる。
「先生少し邪魔するぞ」
「……はぁ……次からは必ず一言事前に言っておいてくれ」
「確かにそうだな。すまねぇ」
炎児が朝倉にそう言うと朝倉はため息をつきながらなんの用か聞く。
「このクラスに居るらしい八条降魔は誰だ?」
炎児がそう聞くと同時に教室に双葉が入ってきた。
それと同時にザワつく生徒達。
普段は間近で見れないSrankの生徒に皆興味津々のようだ。
「ちょっと炎児! 今は授業中よ!」
「そう言うお前こそ五月蝿い」
「あー龍川、取り敢えず静かにしてくれ」
「す、すみません……」
双葉は朝倉に注意されて誤りながら炎児を睨む。
しかしそれを無視して朝倉に聞く。
「それでどいつが八条紅魔って奴なんだ?」
「……今は居ない。と言うか大体授業中は居ないぞ」
「何? ずっと授業をサボっているのか?」
「まぁあいつに教えることはもう無いしな」
そう言って肩をすくめる朝倉に眉をひそめる炎児。
しかし直ぐに炎児は『チッ……邪魔したな』とだけ言い教室から出ていった。
取り残された双葉は申し訳無さそうにしながら朝倉に聞く。
「授業を邪魔して申し訳ないのですけど、八条降魔が何処にいるかって分かったりしますか……?」
その質問に教室が湧く。
そして口々に2人は一体どういう関係なのか囁き合う。
すると加恋が代表として双葉に質問する。
「双葉さーん、八条降魔とはどう言う関係なんですかー」
「え? えっと……」
質問された双葉は言葉を濁す。
(え? これどう言った風に説明すればいいのかしら? 炎児が気になったから? いやでも元々彼のことを出したのは私だし……)
難しい顔をして中々答えない双葉の様子で、クラスが更にざわざわし出す。
これは何かあると全ての人が思ったからだ。
これ以上の沈黙は不味いと感じた双葉は、言葉を紡ぐ。
「えっと……今気になっている人かしら……?」
「「「「「なっ!?」」」」」
「そんなバカな……」
「この学園一の天才が……」
「学園一の落ちこぼれに……」
「「「「「気があるだとおおお!?」」」」」
「「「「「キャーー!!」」」」」
「まさかの真反対カップルよ!」
「双葉さんってダメ人間が好きなのかしら?」
「確かに自分と同じ完璧な人だと疲れそうだもんね!」
双葉の言葉を聞いた男子はショックで崩れ落ち、女子は恋バナに盛り上がる。
双葉はその盛り上がり具合に内心穏やかではない。
(どうしようどうしようやってしまったわ……。私は彼のマナ操作に興味があるのだけど、舌足らずだったわ。確かに『今気になっている人』って言ったら完全に私が彼に気があると思われても仕方がないわよね!? どうしよう……よし、これは逃げるのが勝ちね)
「し、失礼しました!」
双葉は大慌てで朝倉とクラスメイトに礼をし、教室から出ていった。
教室に残っている生徒はその慌てっぷりに更に盛り上がっていたが、朝倉は別のことを考えていた。
(降魔……取り敢えず今日は教室に帰らない方がいいかもしれんぞ……)
朝倉は降魔にこれから起きることを考えて1人合掌をしていたが、ふとあることを思い出した。
「あっ、そう言えば何処にいるか教える前に出ていったな」
朝倉のそんな呟きを聞いて生徒達は少し悪いことをしたかもと思い、いつもより教室が静かになった。
~~~
そんな名家の2人に追いかけられ、教室では1番の話題となり、朝倉に合掌されていた降魔は、現在屋上でレジャーシートを敷いてその上で寝ていた。
降魔の近くには乱雑に脱ぎ捨てられた汗まみれの服とそれを拭いたであろうタオル。
そして壊れた魔導バングルが置いてあった。
降魔にとって屋上は1つの聖域であり、誰も来ないため重宝している。
今日も昼頃までは屋上にいる予定だ。
しかしそんな聖域に侵入者が来た。
先に見つけたのは炎児だ。
炎児はレジャーシートの上で寝ている降魔を見て眉を顰める。
「あいつが八条降魔って奴か……? 授業サボって寝てんのか?」
炎児はこう見えて名家の出身であり、将来を期待されている1人だ。
勿論小さな頃からたくさんの訓練を積み必死に頑張ってきた。
そんな見た目と口調だけ不良な炎児は降魔の姿を見て怒りを覚える。
イラつきながら降魔のもとに近寄る炎児。
「……おい、起きろ」
「…………」
声をかけるが一向に起きる気配のない降魔。
気持ちよさそうに寝返りを打っている。
その姿を見て更にイラッとした炎児は、声にマナを込め―――
「――起きろ、八条降魔!!」
「―――ッッ!?」
あまりの声量に飛び起きる降魔だが、頭には『?』が浮かんでおり、何がなんだかまだ把握できていないようだ。
しかし目の前の人間が自分を起こしたことは分かった。
降魔は眠そうな瞳を炎児に向けて、
「おはよう、俺の眠りを妨げた誰かさん」
初っ端から煽りを入れる。
しかし降魔を責めてはならない。
元はと言えば炎児が降魔の眠りを妨げたのが原因なのだから。
今降魔は少しキレている。
(誰だよコイツ。俺が折角気持ちよく寝てたっていうのに邪魔しやがって……。まぁ授業サボって寝ている奴が悪いと言われればそれまでだが、コイツも授業サボっているわけだから相手の方が悪いよな)
降魔は一応何のようなのか聞く。
「それでお前は誰で何のために俺を起こしたんだ? 答えてくれないなら俺はここから離れるが……」
降魔はそこまで言って目の前の男子生徒の顔がめちゃくちゃ赤くなっていることに気付く。
そして炎児が吠える。
「お前落ちこぼれのくせに調子に乗るなよ!! 俺はSrankの神風炎児だ! お前に決闘を申し込む!!」
「…………は? 一体何言って―――」
降魔がそこまで言った時、屋上の扉が開き1人の少女が入ってきた。
しかしその少女の顔を見て降魔も炎児も顔をしかめる。
(なんで―――ってそうか、コイツがSrankの生徒なら当然ここに来る可能性はあったというわけか……)
降魔は冷静に2人に告げる。
「それで神風炎児と龍川双葉。どちらも名家出身のSrank様たちが落ちこぼれの俺に何のようだ? この神風は底辺の俺に決闘を申し込むとか言うおかしなことを言ってくるし」
「はあぁ? 炎児、あんた何てこと言ってるの? 彼に決闘を挑む意味が全く分からないのだけど?」
降魔はそんな双葉の言葉に首を傾げる。
(どう言うことだ? 龍川が知らないとなると一体龍川はなんで来たんだ?)
全く状況についていけない降魔を置いて二人の口論が始まってしまった。
「お前は黙ってみていればいいだろうが。わざわざ首を突っ込んでくるな!」
「貴方が人様に迷惑かけようとしているからでしょうが!」
「(既にお前たちがここで口論している時点で迷惑なんだが?)」
降魔は2人に聞こえないようにボソッと呟く。
ここが静かで誰も来ないから降魔はいつもいるのに、今は人はいるし五月蝿い。
降魔が余計苛立っていると、
「お前がコイツのマナ操作が俺より上手いとほざくから、俺直々に試してやるんだ―――よッ!!」
「なッッ!? やめなさい!!」
双葉の静止も聞かず炎児は無詠唱で【身体強化】を発動させる。
炎児の体に一瞬魔術式が浮かび上がったと思ったら体の中に入り込んで消えてしまった。
しかしそれと同時に一気に駆ける速度が上がり、一直線に降魔の元へと向かう。
降魔はいきなり自分が攻撃されることに驚くがすぐに冷静になり、魔導バングルを起動させて言葉を紡ぐ。
「《詠唱破棄―――》【身体強化】!! ―――ッッ!! チッ―――らッッ!!」
「ッッ……おおっ!」
降魔は自身が発動できる最速で【身体強化】を発動し炎児の拳を受け止める。
しかし降魔は予想以上の炎児の攻撃の重さに声が漏れるが、何とか腕をふるって炎児を弾き飛ばす。
「一体何のつもりだ! いきなり攻撃しやがって……」
降魔は拳を受け止めた左手を抑えながら言う。
しかしそれに答えることなく獰猛に笑う炎児。
「お前……中々やるじゃないか! 確かに普通の奴よりは出来るようだがその程度では俺より上とは言えないぞ!!」
(誰がお前より上だと言ったんだよ! くそッ、これだから化け物ぞろいのやつとは会いたくも視界にも入りたくないんだよ! だがそんな事を今は言っている時間はない。どうにかしてこの状況を打破しなくては……)
降魔はこの状況をどう対処するか必死に考えを巡らしていた。
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