第7話 劣等生の目にも留まらぬ早技

 降魔は炎児をほんの少しでも見逃さないように観察する。

 炎児の体には濃密なマナが纏われており、プロの召喚術師と遜色ない程の力量を有している様に見えた。

 これには降魔も歯噛みする。


(これは不味いな……俺はプロと戦っているのと同義のことをしているのか。正直言ってこれ以上何かして余計なことが起きるのは避けたい)


 降魔は考える。この状況を潜り抜ける最善の方法を。


(多分純粋に肉弾戦でやるのなら、 。だが召喚獣を召喚されると多分大怪我は確定だろう。だから俺の勝利条件は、相手を倒すことなく自分も無傷で相手が興味を失ってくれることだな)


 しかしその条件はあまりにも厳しい。

 仮に肉弾戦に持ち込めたところで、圧倒してはいけないし、ボコボコにされれば自身が傷だらけになってしまう。

 最悪傷は負ってもいいとしても、召喚獣の召喚だけは何としてでも止めなければならない。


 それを可能にする方法は―――


(相手の魔導バングルを壊すことだッッ!)


 それしか道はない。

 例えどれだけ成功率が低くてもやるしかないのだ。

 降魔は呼吸を整えて、精神を落ち着かせる。


(炎児の魔導バングルは降魔と同じ量産型。量産型は特注品に比べて強度も何もかもが劣っている。そして何より学園のものであるから、弁償しなくて済む。……これなら壊しても問題ないな)


 今度は降魔が炎児に殴り掛かる。

 

「はぁああ!」

「おお、やる気になったか! なら俺も行くぞッ!」


 降魔がやる気になったと分かった炎児は降魔に向かって拳を繰り出す。


 衝撃音。


 そして拳と拳がぶつかった時に発生した風圧が屋上を突き抜ける。

 この攻勢で退いたのは降魔。勿論わざとだ。


 降魔は【身体強化】で強化する強度を出来るだけ下げていた。

 しかし降魔の腕にダメージは殆ど無い。

 拳がぶつかると同時に足に使っていたマナを腕に移動させて衝撃から身を守っていたからだ。

 しかしその代わりに足の身体強化は切れていたため退いてしまった。


 それを自身の力だと勘違いした炎児はそのまま降魔に追撃する。


「はっ! 落ちこぼれにしてはやる様だがこの程度だと俺には勝てねぇぞ!」


 そう言って降魔の顔面めがけて拳を繰り出す。

 だが―――


「……………え?」


 炎児は気が付けば屋上の床に仰向けに倒れていた。

 

「え、あ、は、え? ど、どうなっていやがる? 俺はいつの間に寝かされていた?」


 炎児が勢いよく起き上がり辺りを見渡すが、屋上には双葉しかいなかった。

 訳の分からない炎児は双葉に聞く。


「お、おい。俺は一体どうしてこうなったんだ?」

「…………コケたのよ」

「………………は?」

「だから! 貴方がコケたのよ!」


 炎児はそんな双葉の言葉にただ呆然とするしかなかった。

 それもしょうがないことだろう。

 今まで戦闘中にコケることなんて一度もなかったからだ。

 

 そして見ていた双葉も頭の中は疑問で一杯だった。


(本当に分からないわ……。一体どうやったの? 炎児が彼に近づいた瞬間に炎児がコケてそのまま起き上がらなかった……気絶したわけ? でもどうやって……顎に攻撃された跡はないし……)


 結局双葉と炎児はチャイムがなるまで何が起きたのか考えていた。

 そして2人が壊れている魔導バングルに気付くのはまだ先のことだ。





~~~






 一方で炎児との戦闘を終えた降魔は第2の聖域、裏山に来ていた。

 裏山は学園の校舎の後ろにある標高300m程の山で、木々が生い茂っており、さまざまな動物が生息している。


 そんな山の中で降魔は2年目の頃に開けた丘があるのを見つけた。

 その場所には草は生えているものの、樹木は勿論、低木すら生えておらず綺麗に円状に開けていた。

 

 そこには人が寄って来ず、野生の動物も寄って来ない。

 この丘を囲む木々には鳥やリスなどが生息しているが、丘には何も住んでいない。

 よってすぐに降魔の聖域第2号となった。


「ふぅ……ここはやっぱり1番落ち着くなぁ……」


 降魔は小鳥の囀りやリスの鳴き声、木々が揺れる音を聞きながらレジャーシートの上に寝そべる。

 ここは降魔の精神を休ませるのに丁度いい場所なのだ。


 降魔は寝そべりながら先程の戦闘を思い出す。


(それにしてもあの神風炎児とか言う奴は強かった……。まさか【身体強化】が切れても直ぐに対応して攻撃を仕掛けてくるとは……。あれが天賦の才と言うやつなのかもな)


 羨ましい限りだ、と降魔はあまり羨ましくなさそうにせず呟く。

  

 先程の戦闘で降魔がしたことは、最初と変わらず魔導バングルを破壊したのと炎児の頭を揺らしただけだ。

 当初は魔導バングルを壊した後は足を引っ掛ける予定だったのだが予想外の事態が発生してしまった。


 通常、【身体強化】後はどうしても体の感覚が狂ってしまう。

 マナで無理やり肉体の性能を飛躍的に上げているのだから当たり前と言えば当たり前のことだ。

 確かに歴戦の猛者達はその感覚の狂いに直ぐに対応することは可能だろう。


 しかしいくら才能があるとは言えまだ学生。

 それも自分の意志とは関係なく解除されるというプロでも動きに狂いが生じることをされたのだ。

 『動きに狂いが生じるのは当然。その間に壊してしまえば良い』と考えていた降魔だったが、炎児は全くと言っていいほど狂わなかった。

 よって降魔は気絶させる選択をした。


 まず向かってくる拳を右に避けている間に、魔導バングルを破壊。

 しかし隙が出来ないことに気付き、全身にまわしていたマナを足と腕に集中させて、一瞬で懐に入り頭を寸止めで殴る。

 そうすると拳圧が発生し、頭を思いっきりゆれたことにより脳震盪が起きたと言う訳だ。


 因みに双葉が見えていなかった理由は、眼を強化していなかったことと、降魔が速く動きすぎたことが原因だ。

 流石に双葉が【身体強化】を発動させていれば、降魔であろうとしっかりと動きを捉えられていただろう。


「ああ……これから更に面倒なことが起きる予感しかしないなぁ……」


 『まぁその時は未来の俺になんとかしてもらおう』と降魔は呟き、再び眠りにつく。

 今回は誰にも起こされることはなかった。

 しかしその代わりに起きると夜の12時になっており、急いで寮に帰った降魔だったが、バレて管理人にめちゃくちゃ怒られることとなった。

 

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