野菜嫌いのハンバーグ

「どうしたの、石田さん。私に相談なんて」

 とある昼下がりのカフェに私はいた。

 ママ友である石田いしださんから、「子供のことで相談ある」という連絡があり、カフェに赴いた。

 どうやら石田さんの表情を見るに、そこまで重大な相談ではなさそうだが……?

「それがね、白川しらかわさん。子供がね、全然野菜を食べてくれなくて……」

「あー、それは面倒ね」

 子供が野菜を食べない、よくあるが主婦にとっては面倒で重要な問題だ。

 健康や成長のためには、野菜が重要。

 しかし、それを食べない。

 このままずるずると食べない状態を続けていくと、大人になっても食べない、なんてことになり兼ねない。

「細かく刻んで食べさせるのはやった?」

「やったけど、それでもなかなかねぇ……」

 なるほど、筋金入りの野菜嫌いだ。

 ならば……。

「石田さん。今度、石田さんのお子さんにご飯を作らせてもらっても?」


「はーい、りょう君。ハンバーグだよー」

「白川のおばさん、ありがとー!」

 おばさん、という響きが若干気になるが、素直に喜んでくれるのはうれしい。

 週末のこと。私は、石田さんのお家に我が子とお邪魔していた。

 いただきまーす、という子供たちの声が響く。

「おばさん、このハンバーグ、野菜は入ってないよね?」

 ……、来たか。まずは第一試験。

「ええ、もちろん」

「ダウト。ここにほら……、玉ねぎが」

 見破られたか。

 でも、ここまでは想定通り。

「そうね、亮君。確かにそのハンバーグには、玉ねぎが入っている。でも、ただ無意味に入れているわけじゃないわ」

「へぇ?」

「玉ねぎが入っていることでね……、甘くなるのよ」

「なん……だと……?」

「ねぇ、光喜こうき。美味しいでしょう?」

「うん! いつもよりジューシーだし、甘みもあって美味しい」

 我が子よ。ナイスアシスト。

 亮君は、ごくりとのどを鳴らす。

 そして、恐る恐るハンバーグを一口食べる。

「美味い……、だと!?」

「これが、野菜の力。これが、野菜の美味しさよ」

 私の決め台詞に、亮君は崩れ落ちた。

 これが、主婦の力よ!

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