先生VS生徒

 授業の終わりをげるチャイムが鳴る。

「よーし、今日はこれで終わりなー。もうすぐテストだから、しっかり勉強しておけよ」

 教師として指導する立場になって、早数年。

 授業のやり方などもなんとか様になってきた。生徒ともなんだかんだ上手くやれている。

 さて、テストの問題はどうするか、ぼんやりと考えながら教室を後にする。

「あ、先生。こんちは!」

「おう、こんにちは」

 職員室を目指す最中、一人の生徒とあいさつを交わす。

伊藤いとう。お前、今度のテスト、大丈夫だろうな?」

「う……、大丈夫すっよ!」

 伊藤京介きょうすけ。元気がいっぱいで、運動がかなり得意な素直な生徒だ。人への思いやりもできるいい生徒なのだが、如何いかんせん勉強ができない。いろいろと手を尽くしているのだが、それでもなかなか改善されない。何より食べるのが大好きで、給食が出るのに弁当を持参している。

 勉強が全てと言うつもりはないが、それでも5教科合計で200点超えるかどうかギリギリというのは、流石に問題だ。

 ふむ、試しに聞いてみるか。

「伊藤。塩化ナトリウムの分子式は?」

「EN!」

「よし、今日お前、補習な」

「えー!? 今日は、駅前のデカ盛りに挑戦する予定だったのに!」

 こいつ、食べ物しか頭にないのか?

 いや、待てよ……?

「まぁ、放課後俺のところに来い。ちゃんといいものも用意しておくから」


 放課後。

 空き教室で、俺は伊藤と向き合っていた。

「じゃあ、伊藤。今から元素記号の小テストを行う。正解したら……、これをやろう」

「それは……、あの店のコロッケ!」

 俺が、対伊藤として用意したのは、ここらで噂の店のコロッケだった。

 食べ物で釣るのはどうかと思ったが、これでやる気を出すならいいだろう。

「じゃあいくぞ、伊藤! 時間は10分! はじめ!」

 10分後。

「なんで、全部の問題にコロッケって書いてるんだよ!?」

「いや、コロッケ以外の単語が出てこなくなっちゃって」

 想像以上の食欲モンスターだった。

 この勝負、俺の負け。

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