第2話 スケルトン行進 前編
50人の冒険者を前に、ミアは声を上げた。
「まずは五人グループを作りなさい!」
顔を見合わせる冒険者に、ミアは腕を組みながら更に声を上げる。
「冒険者仲間、友人は避けてチームを組むの! さぁはやくはやく! 急いで!」
いきなりそんなことを言われ慌て仲間を組み始める冒険者たちに、ミアは声を上げ続ける。
「仲間? 友情? 遊びじゃないの! あなたたちはプロよ! 目的のために、金のため、自分の命のために他者を利用するの! 冒険者なんてクズとカスの集まり、1年後何人が生き残れるかしらね! 物語の英雄のような希望を捨てる事ね!」
当たり前だがなかなか時間がかかっている。しかし、中には素早くチームを組んだ者もいた。
「欠員が出るものだと思っていなさい! 魔術師と僧侶は数が少ないんだから別のチームに援軍として駆り出されるわ! もちろん冒険者を辞める人もいるし、死亡して欠員が出る場合もある! 困った時はお互い様、協力し合いましょ、なんてふざけたこと言ってたら足をすくわれるわ! 慣れ合いは命に係わる! チームを組み終えたのならテントを張って今日はお終いよ! 明日に備えて食事と睡眠をとっておくこと!」
戦士同士や魔術師が3人というバランスが取れていないチームも多い。コミュニケーションが不得意でとりあえずチームを組んだ者たちもいる。
ミアは全員チームを組み終えたのを見届けて、後方の砦に入った。歪んだ剣や盾などが飾られている中、玄関ロビーでくつろぐ8人の男たちに近づく。
「いいご身分ね」
「お疲れさん」
ミアも空いた席に腰掛けた。すぐにワインが差し出され、それを一気に飲み干した。
「何か問題でもあったか?」
「19人ね」
19人の冒険者は、威圧的な態度に不満を持ち離れていった。
「おいおい、やり方が悪かったんじゃねぇか? “組木屋”さんよぉ」
「ええ、そうね」
ミアはやれやれと首を振った。
「人数を半分ぐらいにしたかったんだけど、わたしもまだまだよね」
3人の粗暴な男たちは声を上げて笑った。しかし5人の男たちは不愉快そうに顔をしかめる。
「数が減りゃ取り分が増えるしな!」
「微々たる量だけど、うま味ってのは知ってもらわないとね」
「いつもこんな感じなのか?」
生真面目そうな5人の男たちの一人が不満そうに声をかけてきた。容姿端麗で、ぴっしりとした髪型、貴族が着るような小奇麗な服を着ている。
「いけすかねぇ商人や貴族どもの靴を舐めなきゃいけねぇのが俺たちの仕事だぜ? 仕事の失敗は冒険者酒場、冒険者ギルドの失敗だ。はっ、新人の跳ねっ返りどもはさっそくボスに大目玉ってわけだ!」
「昔のお前のようにな!」
「参ったぜ、しばらく下水掃除の仕事しか回してもらえなかったからなぁ」
ぎゃーはははっ! 下品な3人は声を上げて笑い、「そういうものか」と生真面目そうな5人は唸っていた。
ここは貴族御用達ホテル“いにしえ”。古代ドラゴニア文明の遺跡をホテルに改築し、保養地として有名な場所だ。山の頂上にあり、周囲が森に囲まれた静かな場所だ。年に一度、動物や魔物の退治をするのが恒例になっている。という事で、新人研修として冒険者酒場が利用しているわけだ。
“光のツバメ”亭は騎士団や傭兵だった者たちが多く所属している。
生真面目な5人は、アレックスがリーダーの実力派冒険者だ。僧侶に魔術師、前衛3人のちゃんとした組み合わせだ。詳しくは知らないが、きっと彼らは騎士だったのだろう。なんで冒険者なんてやっているのかわからないぐらい立派な5人だ。
そして“吊るされた藁人形”亭は、盗賊や犯罪者のような身を崩した連中が集まる冒険者酒場だ。
ガラの悪い3人組はそろって戦士で、特にリーダーは決めていないらしいがずんぐりむっくりで頬に大きな傷のある男、オルが代表のような立場だ。
「で、そっちは?」
「来ましたよと言ったら、よろしくお願いしますで終わりだ」
豪華な椅子に寄りかかり、笑いながらオルが言ってくる。ミアは聞こえるように舌打ちした。
「手間のかかる仕事を一人のわたしに押し付けてんじゃねぇよ」
「すまない。この仕事は初めてで勝手がわからなかったんだ」
「アレックスは黙って」
オルは笑いながらワインを、エールを飲むように豪快に流し込む。
「いいんだよ。役割分担って奴だ。“組木屋”が1人しか寄こさねぇ方が悪い」
「知ってんのよ、あんたらがわたしを指名したの」
下卑た笑いを浮かべる“吊るされた藁人形”亭の連中にため息をついた。
まだ“組木屋”では新人だった頃、この仕事に参加したのだが、この不良冒険者に目を付けられてしまったのだ・・・
オルはにやりと笑みを浮かべた。
「一人なんだ、5人分働くのが筋ってもんだろ?」
「だったらあんたらも5人分働いてもらうわよ」
それから酒を飲みながら悪口の応酬。アレックス達はただただ戸惑い見守ることしかできなかった。
次の日、日が昇りすぐに動物駆除が始まった。
残った新人冒険者グループ6グループを冒険者酒場の3で割り2グループを監督することになった。
“光のツバメ”のアレックス達はミアの負担が重いので変わろうと言って来た。
「“組木屋”を侮辱するつもり?」
「そんなつもりはない。その方が効率的だ」
「非効率だから“組木屋”はしゃしゃり出るな、と?」
困るアレックスに、ミアは何とも言えない表情を浮かべる。
「とても紳士的で、乙女のミアちゃんは胸キュンよ。だけど冒険者“組木屋”のミアからすると侮辱でしかないわ。わたしとあんたたちは対等。面子の問題よ。冒険者は舐められたらお終い、気を付けた方がいいわよ」
「あ、ああ。すまなかった」
さすがは“光のツバメ”だ、人としてはなくしてほしくない美徳を持ち合わせてるなぁと思うのだった。
ミアは一人で2つのグループを連れて森へ入った。特に指示をするまでもなく進んでいく新人たち。別に軍隊というわけじゃないのだ、見落としがあれば注意するぐらいだ。
彼らはなかなか優秀だ。はぐれ狼や巨大スパイダー、血吸い植物など手際よく処分していた。新人とはいえ中にはミアより年上の男性もいるのに、小娘に監督されることに癇癪も起こさず、淡々と仕事をこなしている。間違いなく出世するなと感心していた。
突然だった。
大地が揺れ、激しい爆発音が聞こえた。
「集合!!」
逆らうことなく彼らは集まってきた。
「状況が分からないわ。だからホテルに戻るわよ」
彼らは静かに頷き、行動に移った。そんな彼らの前に、無数の敵が出現した。
金色の、骸骨だった。
盾と剣を持ち、白い箇所は金色でキラキラと輝いていた。盾と剣も、立派な彫刻がされ、武器というより美術品のように見える。そのような骸骨が、5匹、10匹と増えていく。
「盾持ちは外周! 魔術師と僧侶は中心! 棍棒のような打撃武器を持つ者は攻撃して道を開いて!」
「応っ!!」
運がいい事に、新人たちの武器のほとんどが打撃武器だ。スケルトンやゴーレムのように切る肉がない場合、打撃で攻撃する方がいい。
「おお、すげぇ・・・」
誰かが呟いた。
ミアは剣を収め、鉄の籠手で殴りつける。
「剣で切らないように! 刃こぼれするだけ損よ!」
武器を持つ上腕骨を砕き、胸骨を砕く。
武器の値段は、鉄の量で変わる。鉄の剣のようなお金のない新人が持っているわけもなく、鉄の球体が先についたモーニングスターや、木の棍棒ばかりだった。
おかげで苦戦はしているようだが、スケルトンと戦えている。その様子を見ながら、スケルトンを5体打ち砕いた。
「こんなもんは慣れよ。わたしでもできるんだから、みんなだってすぐできるようになるわ」
砕けた骨は、防具と共に砂になり崩れた。
亡霊のスケルトンではなく、魔術で作られたスケルトン型のゴーレムなのだろう。たいした強さではないが、数が多い。
「進むぞ! ついてこい!」
正面で戦っていた戦士が声を上げた。
最後尾はミアが受け持ち、何とかホテルに戻ることができた。
どうにかホテル“いにしえ”に帰ってきたが、そこは地獄のような状況だった。
木々の陰から、数百、数千もの金色スケルトンの姿を見せていたからだ。
アレックスが新人冒険者たちとホテル周りで襲い掛かるスケルトンと戦っていた。
「ミア! 大丈夫か!」
「問題ないわ!」
「中に入って仲間の指示に従ってくれ!」
アレックス達は外に出していた冒険者たちのテントを回収しているようだ。
玄関ロビーでは立派なテーブルなどが破壊され、そのまま窓などを封鎖する材料として使われていた。指揮をしていたアレックスの仲間に新人たちを預け、ミアはホテルのオーナーに会いに行った。
そこでは従業員たちが集まり、オルがオーナー達に話をしていた。
従業員たちは貴族たちを迎えるだけあって清潔感があり、礼儀正しい姿だ。そんな彼らの目に、ホテルを破壊してまわる冒険者たちの姿がどう映っているのか。オルは汗を流しながら理解を求めているが、今にも不満が爆発しそうだ。
ミアは割って入る。
「失礼、オル。わたしが変わるわ」
「お、おお! お前ちゃんと生きてたか!」
「失礼ね。オーナー、この野蛮人に代わり補償金の話をいたしましょう」
弱り果てたオーナーの目がキラリと輝いた。
オーナーは冒険者に対してとても友好的だが、破壊されていく我が城を見て心穏やかになれるはずがない。
ミアは事務的に、丁寧に説明した。依頼によって想定外の被害が出た場合、冒険者ギルトと国から報奨金が出る事を伝えた。小さな村が無くなる程度のことだと無理だが、貴族御用達のホテルに損害が出たのなら十分補償されると淀みなく答えた。
更には古代ドラゴニア文明の発見は国からかなりの報酬が支給される事を教えた。
「生き残れさえすれば、大儲けです。手続きのサポートは“組木屋”亭のミアことわたしがさせてもらいます」
それを立ち話で聞いていたオーナーはもちろん、従業員たちも安堵の表情を浮かべた。ミアはビジネススマイルを向けた。
「安心してください。こういう時のための冒険者ギルドです。こういう時のための国家です。このために税金を払っているんですからね」
「随分お詳しいのですね」
「元が裏方、冒険者酒場で受付をしていました。毎日のように書類を持って酒場とギルドを行き来していましたよ」
ミアは“組木屋”亭では重鎮のようにふんぞり返っているが、その理由がそれだ。実力はそんなにないが、立ち回りが冒険者ギルドの模範なのだ。
冒険者は運営側でさえ野盗と変わらず、15の娘に重要書類の処理をさせられていたものだ。賢者の国と呼ばれる場所でさえそうだったのだ、帝都は更にひどいものだった。
「少し時間を頂けますか? 国と魔術師ギルドからの報酬の仕組みについてもう少し詳しく話をします。そうだ、貴族の方で仲の良い方はいらっしゃいますか? その方に協力していただければ更にお金が貰えるかもしれません」
「え、ええ! ほら、お前たちは冒険者の皆さんに手伝えることはないか聞いてきなさい。我々が生き残れるかは彼らにかかっているんですよ!」
「はい!」
さすがは訓練された従業員は素早く動き始めた。オーナーもお金が貰えると聞くと実に協力的になった。
ホテルを自由に使ってもいいと口約束だが取り決め、玄関ロビーに戻る。すでに扉や窓は家具や木材などで塞がれ、すっかりホテルは砦へと立ち戻っていた。
戦士と魔術師、そして僧侶の3班に別れているようだ。新人冒険者たちは、すっかりアレックスの兵士として取り込まれてしまった。
ミアはアレックスに近づき、“組木屋”亭は“光のツバメ”亭の指揮下に加わることを伝えた。
「いいのか?」
「指揮系統を増やして乱す愚行は避けたい。で、この状況を取りまとめることができるのは“光のツバメ”亭しかいないわ」
「おーう、そうだな! “吊るされた藁人形”も全面的に協力するぜっ」
オル達“吊るされた藁人形”の3人が鹿の死骸を抱えて2階から降りてきた。
「面白いように取れたぜ! 動物も慌てふためいて走り回って疲れたんだろうよ、骸骨の中で何もせず座って動かねぇでやんの。こんなのは初めてだぜ!」
窓や正面玄関を塞いでいるので2階の窓から紐を下ろし出入りしている。オル達が持ってきたのは三頭の鹿に一頭の猪、そして鳥を五羽捕まえてきた。料理人たちはそれを受け取り、厨房へ持って行った。
ホテル側はそれなりに食料を蓄えていたが、籠城するなら心もとなかった。オル達が捕まえてきた獲物はなんとも心強い。
「このアレックス、この任しかと承った。必ず皆を生きて帰らせることを誓う」
冒険者の言葉など何とも薄っぺらいものだが、アレックスの言葉はとても心強く思えた。
それからミアたちだけで情報をすり合わせた。
オルはスケルトンが出現するおおよその場所を発見し、アレックスは丘下に黒煙が上がっている場所を見つけていた。ミアは生き残れさえすれば追加報酬が見込める事を伝えた。
「これだからお前と組むのが好きなんだよ!」
「ケツの毛まで毟ってやるわよ」
うえっへっへっと笑う二人を前に、アレックスは苦笑する。
「今回のことは、ドラゴニアン遺跡だと考えるべき、だよな?」
「そうじゃないと追加はなしよ」
「そりゃ困るな」
このホテルはドラゴニアンの遺跡だから、スケルトンもドラゴニアン関連だと勝手に思っている。
「帝国最強の魔術師マリアーシですらこれほどの大量にスケルトンを生み出すことはできない。ドラゴニアン関連で問題ないとは思うが」
「できりゃ戦争で大活躍だな」
古代ドラゴニア遺跡から多くの技術を得ていた。魔術全般、学問に建築、娯楽や食事に至るまでドラゴニアンの文明が深くかかわっている。
かつては人類を、この世界を支配していた謎の存在ドラゴニアン。現在よりもはるかに進んだ文明を持っていたが、突如姿を消した。その古代遺跡は人類にとって何物にも代えがたい知識が詰まっているのだ。
「ドラゴニアンからの攻撃、いつまで耐えられそう?」
「その気になれば、今この瞬間崩壊するよ」
アレックスは諦めたように微笑む。
数百匹で壁を叩けば穴が開く。穴が開けば、死を恐れぬ数百匹昼夜問わず侵入される。そうなればもう、どうしようもない。
アレックスの話を聞き、ミアたちはどうしようもないと頷き返すしかなかった。
「砦は残ってんだ、スケルトンはこちらを攻撃してこないって可能性はないか?」
「研究しつくされてホテルにされたって、知ってるわよね。内部で激しい戦いの跡が見つかってるわ。ホテルの案内人に剣によってつけられた傷跡を見せてもらったわ」
「・・・スケルトンじゃねぇ可能性だってあるだろ。実際に砦には何もしてこねぇじゃねぇか」
スケルトンは何故か取り囲むだけで砦に何もしてこない。まるでホテルが砦になるまで見守ってくれているかのように。
「あー、救援はいつ来る?」
「最長で半年、最短で30日ぐらいかしら?」
ミアの言葉に、2人は頷いた。
「異変に気が付き数日、様子を見に来る冒険者が決めるのに数日。救援隊が組織され、最悪30日ぐらいか。騎士団が動くから冒険者は何もするなと言われたら、半年は来ないだろうな。どう思うアレックス」
「有能な人なら10日ぐらいで何とかしてくれるはずだ。最良の状況も考えておくべきだ。いざという時動けないからな」
「おっと、助けてくれる人が有能である可能性を失念していたわ」
オルとアレックスは何とも言えない表情で頷いた。そんな可能性、冒険者や騎士団が有能である可能性など万に一つもないだろう。
「もちろん、スケルトンが攻め込んでこないなら老衰するまでここで生きていける」
「わかった、俺が悪かったよ! 助けが来る前にここに居座ってたら全滅! そういう事だな!」
オルはうんざりしながら吐き出した。
「危険を承知で山を下りる。黒煙の元を調べに行って問題そのものを解決する、だけか」
「砦を徹底的に強化するという方法もある。外に出て石を積み上げ、堀を掘る。別の場所に砦を作るという方法もある。スケルトンそのものは強敵ではないからな」
「全部する」
ミアがまとめると、男たちは仕方ないと頷いた。
「楽はできんなぁ」
オルはうんざりと吐き出した。
ミアは拳、オルは鉄の棍棒でスケルトンゴーレムを破壊していく。
馬車で使う道には、まばらにスケルトンゴーレムが姿を見せる。それがもし軍隊のように隊列を組んでいたのなら、この道は進められなかったろう。
「ったくよぉ! どんだけ出てきやがる」
「ひーひー、サボれると思ったのによぉ」
オル達“吊るされた藁人形”亭の面々は弱音を吐きながら、覇気迫る攻撃は敵を容赦なく打ち砕いていく。
ゆっくりと日が沈み始め、魔力で光を放つランタンを取り出した。
「はぁ、はぁ、参ったわね。まさか一日仕事とは思わなかったわ」
「だな、腹減ってしょうがねぇぜ」
“組木屋”と“吊るされた藁人形”との共闘することとなった。
ミッションは山を下り、街まで続く道のどこまでスケルトンが現れるかの偵察だ。
スケルトンだけなら、山から下りることはできる。ただ逃亡を阻止する何かしらがある、ミアたちはそう考えていた。故に戦力の“吊るされた藁人形”亭、身軽な“組木屋”亭が協力しているのだ。
ミア一行は馬車が通る舗装された道を進んでいた。かなり遠回りになるのだが、逃亡するとなると大人数になるので広い道を進んでいたのだが、徒歩とはいえすぐに降りられるものだと思っていた。ところが、戦いながらだとひどく時間がかかってしまった。
「いったん引くべきかしら?」
「冗談じゃねぇぜ、めんどくせぇ。またここまで来るのか? 勘弁してくれよ」
「だな」
無理を通すためのチームなのだ、これが責任者の辛いところだ。
山を下り切った時には、すっかり日が沈んでしまった。闇の中戦わなければいけないのかとうんざりしていると、何故かスケルトンゴーレムが出現しなくなった。
「抜けたのか?」
「待て」
草が擦れる音がした。
地面を蹴る音がする。
しかし、広い道に姿はない。
「ミアっ!」
オルが走り手を差し出した。
ミアの前で、オルの掌に穴が開いた。
「クソったれ!!」
ミアは汚い言葉を吐きながら剣を抜き、虚空に切りつけた。
しかし、空を切る。
オルは左腕で鉄棒を振り回すと、何かが衝突する。
「当たった!! 肉がある! 剣で切れ!」
オルが出血した手を払うと、虚空に血が張り付いた。
ミアは迷わず剣を振るった。
手に肉を切り裂く感触を確かに感じた。
「っら!」
感覚的に頭だろう場所に剣を振り下ろした。
どこからか悲鳴のような声が上がった。
頭が割られた緑色の痩せた裸の男が虚空から出現し、力なく倒れた。手には鉤爪、口から触手が無数に出て蠢く花のようだ。目はすべてが黒目で紫色の血を流す物が人間と言っていいかはわからないが。
瞬間、冒険者たちは選択を迫られた。
無数の迫りくる足音。素早い足音はスケルトンゴーレムとは違う。しかし、今この瞬間だけはこの空間に誰もいない。
調査結果は出た。
やはり何かしらは存在した。もはや先に進む必要はない。すぐに来た道を後戻りして、この情報を届けなければいけない。
しかし今、この瞬間なら逃げられる。
地獄のような牢獄から救われる。冒険者は生き延びてこそ、清く正しい騎士でもなし文句言われる筋合いはない。
冒険者は、無言で行動を起こした。
「おいおい、全員こっちに来たのかよ」
「誰か一人ぐらい助けを呼びに行ってもらわないといけないんだけど?」
4人とも逃亡せず、仲間たちの元へ戻る選択肢を選んでしまった。
再び姿を見せ始めたスケルトンゴーレムを倒しながら、急いで頂上へと向かう。透明の化け物が追ってくるかもしれず、ミアたちは急ぎ足だ。
「かー、嫌だねぇ! 人の好さってのが出ちまったぜ!」
「そろいもそろって、金持ちにはなれそうにねぇな!」
「悲しいこと言わないでくれない!?」
一日食事もせず戦いっぱなしだったが、そろいもそろって元気よくグチグチ言いながらがら帰っていった。
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