大事なご連絡の内容

 翌朝の9時に、返信があった。

 内容は「短編特別賞に内定した」というものだった。

 その内容を職場のトイレで見てしまったものだから、あのトイレは私にとって一生忘れることのできない場所となってしまった。

 人生で初の受賞である。その昔、地域のエッセイ部門で次点に取り上げていただいたことはあったが、最後まで残ったのは初めてである。ついにこの日が来たか、というのがまず最初の感想である。そして何事もやはり「諦めかけた頃に願ってたものはやってくる」と。だから大事なのは続けることだと。

 しかし、このメールの最後にはこのような内容が付け足されていた。

 

 なお、コンテストの結果は5月中にカクヨム上並びに他媒体にて発表予定です。

それまでは選考結果についてご口外なさらぬようお願い申しあげます。

※上記内容の転載や口外は、固く禁止させて頂いております。


 こんなに嬉しいことなのに、誰にも言ってはいけない。これほど辛いものがあるだろうか。このような一生に一度あるかないかの素晴らしい出来事があると、人は色々なことを考える。

 第一にこのまま死ぬんじゃないかと。もう人生が長くないことを憐れんだ神様が、最後にいい思いをさせてくれたんじゃないかと。

 そう考えるといてもたってもいられなくなった。なぜならこのまま交通事故で死んでしまった場合、誰も私の受賞を知らないことになる。であれば残さなければならない——こうしてこのエッセイの最初に戻ることになる。

 予約投稿でこのエッセイが投稿されていれば、私はなんらかの形でこの世にいない、もしくは操作ができない状況にある。そうでなければ通常通り、ということである。


 とはいえ、なんだかんだで書こうと思っていたこのエッセイも、後回しになっていた。しかし、それを後押しする大事件がもう一つ勃発したのだった。

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