忍者って誰が何と言おうとチート!!

時間:2019年秋


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 僕こと加原かばら はじめはクラス単位で異世界召喚され淫魔王と呼ばれる存在となった。

 チートで無双し、そのたびに嫁が増えていった。

 チーレム大勝利のはずなのだがちっともそんな感じではない。

 僕の異世界チーレム生活はどこかおかしい。



 風姉かざねえは僕の2番目の嫁。

 遥か昔に異世界召喚された忍者の末裔だ。


「弟君、たまには戦闘訓練しないと腕が鈍るよー」


 いつもの間延びした口調で強引に戦闘訓練に連れ出される。

 異世界チートインフレ状態のこの僕に勝てる相手なんてそうはいない。

 【飛翔】で空を駆け、【イージス】を展開し【エネルギーボルト】を雨あられと降らせる僕は人間砲台だ。

 つまり魔法の矢を人の届かない上空から無限に放ち続ける戦闘スタイル。

 この世界は魔法があっても空を飛べる人間はほぼいない。

 たとえどんなに接近戦が強くても僕はその間合いには入らない。

 ひたすら相手の範囲外から【エネルギーボルト】を発射する。

 相手から卑怯だと言われても絶対間合いには入らない。

 だって、僕はチキンだからね!

 …いや、魔王だから卑怯な戦いが許されるのだ。


「じゃあいつも通りに10数えるからー」


「風姉、ちゃんと目を閉じないと負けだからね」


 僕らはサザンクロスの街から南へ30㎞程のひたすら森が広がる場所へ【転移】した。

 僕らの戦闘訓練は見られないように気を使っている。

 なぜなら見られるとドン引きされるからだ。


「いーち、にー、さーん…」


 ゆっくりと数を数え始める風姉。

 僕は【飛翔】を使い全力で空を逃げる。

 風姉の天啓職は【鬼女】。

 忍者系天啓職【マスターくノ一】からクラスチェンジしている。

 ネトゲをした事のある人なら常識(?)だが忍者の装備武器は双剣、つまり『二刀流』だ。

 日本にいた頃プレイしていたネトゲ『光の戦記』でも双剣。

 この世界で何人か忍者に出会ったが基本武器は双剣だった。

 忍者は近接戦闘職で、攻撃力が低いが手数でDPSを叩き出すジョブだ。

 この世界でもこのイメージで攻撃を繰り出す。


「きゅー、じゅう!!」


 風姉が数を数え終え、目を開ける。

 顔は笑っているが目は本気だ。

 夜の戦闘は僕を激甘やかしてくれるがリアルの戦闘訓練ではガチだ。


「【イージス】一斉掃射!」


 【イージス】は僕の固有武装で、簡単に 言うと『ファンネル』だ。

 ファンネルとはガンダムに登場する架空のオールレンジ攻撃用兵器。

 僕の父さんは属に言うファースト世代だ。

 僕は子守歌代わりにビデオを見せられた影響で物事をガンダム基準で考えてしまう癖がある。

 高さ18ⅿのガンダムと比べて大きいか、とか。

 父さんが毎晩ガンプラを肴に晩酌するから自然と覚えてしまったのだ。

 当然ガンダムの知識はこの世界ではまったく役に立たない。

 【イージス】はアメリカ軍の『イージスシステム』に由来する。

 東側ミサイルの飽和攻撃に対応するために開発されたものだ。

 ギリシア神話のアテナが持つ盾(防具)アイギスの英語呼称がイージスだ。


「弾幕薄いよ!!」


 僕は魔法を無詠唱で発動出来る。

 言葉にしたのは自分自身を鼓舞するためのものだ。

 【イージス】の12枚の羽から放たれる【エネルギーボルト】の有効射程は約200ⅿ。

 だが僕は風姉との距離をそれ以上確保した上で【ブリッツボール】を発射する。

 それこそ雨あられと打ち込む。

 雷由来の【エネルギーボルト】である【ブリッツボール】はヒットすれば相手を『スタン』させられる。

 ゲームをしない人のために説明するとスタンは『相手を一定時間行動不能にする』効果。

 僕が風姉に勝つにはこの『お願いスタン作戦』以外にない。


「どうだ!?」


 雨あられと降らせた【ブリッツボール】を全弾回避するなんて普通無理だ。

 だがそれをやすやすとさばいてしまう風姉は最強お姉ちゃん間違いなし。

 ノーダメージ。


「そんなのねぇってばよ!!」


 もうこのセリフが風姉相手の戦闘ではデフォルトだ。

 これでも自分はまだまだだと言っている風姉はどこを目差しているのだろう。

 もうギブしたいところだが負けると筋トレさせられるから勘弁だ。

 足腰立たなくなるまでやるとか帰宅部もやしに異世界筋トレきつ過ぎる。


「いくよー!」


 ブンブン手を振りながら開始を宣言。

 風姉は100ⅿを3秒、時速120㎞で走る。

 デンジマンと並走出来る風姉は忍者の末裔ではなくデンジ星人の末裔が正解かもしれない。

 …現実逃避している場合じゃない。

 風姉との距離は約300ⅿという事は動かないと9秒で接触する。

 ガチ近接戦闘職と接近戦とか勘弁だ。

 後ろに高速移動しながら【ブリッツボール】を連射する。

 だが風姉は【ブリッツボール】をあっさり切った。

 魔法の矢である【エネルギーボルト】は切る事が出来る。

 その先端に魔法を制御する魔法陣があるからだ。

 だけど高速で飛んでいる【エネルギーボルト】の一点を正確に切る動体視力と技能が必要。

 さらに言えば武器はミスリルなどの魔法金属で作られた物でないといけない。

 風姉の持っている双剣は『ミスリルの忍者刀』だ。

 これで鋼鉄の扉をバターのように切ったのを見た事がある。

 この刀の銘は『斬鉄剣』が正解だよね??


「ひっ!」


 もう風姉がミスって【ブリッツボール】が当たる以外に勝ち目はない。

 風姉は僕に向かって一直線で向かってくる。

 前傾姿勢で左右の腕を後方へ伸ばす忍者独特の『忍者走り』で文字通り空を駆けてくる。

 必要な時だけ両手の双剣で【ブリッツボール】を切る。

 ネトゲ『光の戦記』の過去ナンバリングでは忍者はDPSながら唯一タンクの代わりが出来た。

 タンクは盾職とも言われる通り盾などで防御力をUPさせ敵の攻撃を一身に受ける。

 だが忍者はその高い回避能力を活かしタンクとしての役割を果たす事が可能。

 それは『回避盾』と言われている。

 何を言いたいのかというと…。

 忍者っていうのはチート!

 誰が何と言おうとチート!!

 異世界召喚された僕を圧倒するチート、それが忍者。


「もっともっと頑張ろうよー!」


 接触する寸前に空中で停止。

 わざと僕に距離をとらせる。

 明らかに遊ばれている。

 そんな事を10回ほど繰り返されてもう心も体も限界。


「まだだ、まだ終わらんよ!」


 このままだとジリ貧であっと言う間に負けてしまう。

 負けたあとの筋トレは嫌だ!

 だから賭けに出る。

 僕の天啓職は【ペロリストZ】。

 ロングレンジ戦闘職じゃない。

 夜の近接戦闘特化、つまりエロジョブだ。

 迫りくる風姉に向かって空中でタックル。

 そのまま手を伸ばしお尻をナデナデする。


【ヒップタッチ】…レベル50で習得。

 異性、または特殊な同性の尻に触る事で相手の総HPの10%をドレインする。

 またバフ・デバフを付与する。

 特記:相手の残HPを10以下にする事は出来ない。


 これが僕の戦闘スタイルだ!

 相手のお尻をなでる事で相手のHPをドレインする現代日本ならセクハラ通報確実な魔法(スキル)だ。

 だがここは異世界、そして淫魔王の僕なら許される。

 加えて【色欲】というデバフを付与する。

 デバフ【色欲】は最大9スタックが可能で、【絶頂】というデバフを付与する抽選がその都度発生する。

 つまり性的にイカせる事で戦闘不能に追い込むのだ!

 …うん、下種な戦闘スタイルだよね。

 最初の頃は悩んだけどもう吹っ切れたよ。

 もうこのままペロペロするのだって出来るんだからね!!


「弟君、カブトムシみたい…」


 風姉の腰にタックルしたはずなのになぜか背後で声が聞こえる。

 ちょっと引き気味の声。

 腕の中にいるはずの風姉を確認してみる。

 切り株。

 忍者の『変わり身の術』でよく使われるアレだ。

 攻撃を受ける瞬間に【アイテムボックス】からこれを出し、僕に掴ませたのだ。


「風姉にしてはゴツゴツだし、鉛筆みたいな味がするって思った」


 木の味なんて小1の時に興味本位で鉛筆なめなめして以来だよ。


「ところで風姉。

 目の前の風姉が本物かどうか確認するためにお尻なでさせてくれる?

 おぱーいモミモミでもいいけど?」


 風姉は笑顔を崩さないまま往復ビンタ。


「戦闘訓練を真面目にやらないとお姉ちゃん…ぶつよ?」


 殴ってから言うのはやめて。

 このまま叡智な行為に持ち込んで戦闘訓練をうやむやにしようという作戦はあっさり失敗した。

 風姉にはお見通しだったようだ。


 敗北した僕はいつも以上にハードな筋トレをさせられた。

 文字通り足腰立たないまでしごかれた。

 その後の夜の戦闘訓練もマウントを取られて一方的に攻められたのだった。

 本人曰く『御奉仕だよー』と言っていたが疑問が残る。

 風姉の本質は『S』だと僕は確信している。



◇◇◇ 後書き ◇◇◇


 主人公は時々訓練に連れ出されてボコられています。

 その経験から相手の間合いには絶対立ち入らない戦闘スタイルを確立しました。

 卑怯と言われても絶対近づきません。


【KAC20221】ブクマ:0 PV:12 ☆9 ♡5


【 閲覧ありがとうございました 】

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