ペロリスト SS置き場
玄武堂 孝
灼熱のハロウィン
時間:2020年秋のハロウィン
(2年目のハロィン)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ハロウィンの起源は古代ケルトの祭りとされている。
古代ケルトでは11月1日が新年とされ、10月31日の夜に先祖の霊が戻ってくると考えられていた。
その時に一緒に悪霊もやってくるのだという。
その悪霊が現世の人間に悪さをするので身を守るために仲間と思わせる仮装をした。
西洋の風習なのでキリスト教の行事と勘違いする日本人が多いが実は宗教行事ではない。
日本では僕が産まれた頃から取り入れられ、最近は渋谷での仮装が盛り上がっている。
地方人の僕はそれをニュースで観ながらソシャゲのハロウィン限定キャラゲットのためリアルマネーを突っ込むか悩んで過ごす事が多かった。
そんな子供時代のハロウィンと異なり、大人の僕は家族サービスに勤しむのであった。
「ハジメ君…いや、カバラ侯爵。
本日はお招きありがとうございます」
「いやー、こどもの頃からの知り合いに侯爵とか言われると照れます。
勘弁してください」
今日は家族サービス兼接待である。
当領地、いや当箱庭のシステムを依頼している父さんの会社の社員&御家族を異世界に御招待。
当然異世界の事は内緒でお願いしている。
インスタなどにアップも御遠慮してもらう。
バレたら面倒な事になる。
具体的には箱庭地球を征服させられる。
箱庭地球の管理者である冒険王に『いい加減管理権を受け取ってください』と押し付けられる可能性がある。
そんな冒険王とのぞみん母子を連れてサザンクロスのハロウィンに繰り出した僕だった。
「まさかハジメ君に接待してもらう日がくるとはね。
飲み会に連れてこられても端っこで携帯ゲームをしていた君が…」
社長さん、僕の黒歴史を暴露するのはやめてください。
積んでいるゲームを崩すのに一生懸命だっただけです。
子供の頃から何度か父さんの会社の飲み会に連れられて行った。
IT関係の会社だが地方の小さな会社で意外とアットホームだ。
…というかいつも人が少なくてヒーヒー言っている。
得意先の無茶ぶりに振り回され、納期直前は徹夜続きでピヨりながら仕事をしている印象だ。
これが年初からの新型コロナの影響で受注していたシステム開発が延期、あるいは中止となって暇になった。
…というか倒産の危機。
父さんの会社が倒産するというピンチに息子が立ち上がります。
なんという事でしょう!
倒産寸前だった会社の収支がV字回復!
しかもブラック体質だった会社も健全になったのです!!
仕事の依頼内容は箱庭地球の物資の窓口になっている『総合商社カバラ』のシステム。
まずは流通システムの構築。
以前別会社に納入した在庫管理のシステムをカスタマイズして運用している。
流通量こそ多いものの仕事内容はシンプルなので問題なく機能していた。
いずれは完全オリジナルのシステムと入れ替えるつもりだ。
それから僕の箱庭に導入するシステムの構築。
アヌンナキは全知全能と言って過言のない科学力を持っている。
それは箱庭地球の人類が数千年経ても到達出来るかわからない。
だがアヌンナキ発展の過程で非効率と切り捨てた物も多い。
例えば味覚。
栄養に関しての知識は計り知れないが味に関してはド素人だ。
それと同様に幼い社会で機能するシステムに関しては理解が難しい。
非効率なプログラミングを人の認知出来る時間を越えて起動する量子コンピュータを作れてもなぜこういった仕様が必要なのか理解出来ない。
徹底した効率の弊害といえた。
だから現状にあった箱庭運営のシステムを現場を見せながら構築してもらっている。
「助かります。
外出自粛やら自宅でリモート学習やらで孫もまいっていましたから」
社長は会社の中で珍しく早く結婚してすでに孫がいる。
ほぼ同い年の社員は独身だったり、晩婚で子供が小さかったりが多い。
華やかなIT企業なんて一部の例外で、実際はブラックでギリギリで回っている会社がほとんど。
忙しくて婚期を逃した社員も多い。
そんな彼らにはそっと『SQB49無料招待券』を手渡した。
そっちは店長であるジャージマンが接待している。
現在ほかのみんなはハロウィンのコスプレ衣装を試着中。
それを社長と雑談して待っている。
日本では新型コロナ関連で大騒ぎらしい。
本来東京オリンピックが開催されていたはずなのに延期。
しかも来年に開催出来るかも怪しい。
新型コロナはワクチン接種が完了するまで収束はないと言われているようだ。
日本ではいまだ接種は始まっていない。
これに関して僕はアヌンナキに泣きついた。
この箱庭に蔓延するのは絶対回避しなければならなかったからだ。
すでにこの手のウイルスを駆逐していたアヌンナキにワクチンの代わりに数年だけ活動するナノマシーンを作ってもらう。
ついでに『天然痘』『マラリヤ』などの抗体も作られる仕様。
それをお菓子や飲料などの経口摂取が出来るようにしてもらった。
移動する人間だけでなく広く無償で箱庭内に提供して対応している…中に何が入っているかは秘密で。
同時に入り口となる『転送門』で人体スキャンも実施している。
いつも通り対価として僕が僕自身を使ってお支払いさせられた。
アヌンナキが侵されている『不妊の戒め』に対する対応が発見され僕以外からも子供が産まれるようになった。
だが僕の宇宙の種馬生活は継続中だ。
…継続中だ。
「兄さんが好きだという魔法少女だそうです。
いかがですか?」
最初に現れたのは声からすると冒険王だ。
確かに『おジャ魔女』っぽい派手なカラーリングの魔女のコスプレ。
白いアヌンナキに紫の魔女コスが良い感じだが…。
「兄さんのように仮面をつけてみました」
「それ仮面じゃなく被り物な」
なぜか頭はパンプキンヘッドだ。
冒険王ってたまに天然。
今晩『お菓子をあげるから悪戯させろ!』とお誘いするのもやぶさかではない。
「…ぐへへ」
そんな妄想をしていたせいで涎が出てしまった。
社長がジト目で僕を見る。
「うん、妹嫁はいいよね」
さすがに父さんの会社の社長だけあってヲタク的思考が出来るようだ。
一般人に『妹嫁』という発想はない。
この前父さんに連れられて会社の飲み会に参加した。
お爺ちゃんにべったりののぞみんに呆れながら冒険王が保護者としてついてきた。
そこで会社のみんなに冒険王を妹嫁だと紹介したのだ。
みんなが驚いたが箱庭地球の管理者だと紹介するよりはましだったので作り笑顔で頷いておいた。
「待たせたな」
次に登場したのは父さん。
男の魔法使い『ウォーロック』だ。
アーサー王の物語に登場する魔術師『マーリン』がそのイメージに最も近い。
余談だがウォーロックというTRPG専門誌が日本のRPG黎明期に発刊されていた。
当時まだ無名に近かった『ロードス島戦記』のキャラを使ったリプレイなんて企画があった。
父さんは押し入れコレクションにあったその雑誌の魔法使い丸パクリ衣装でドヤ顔。
「えっ、ハンサム!?」
子供の頃から何度となく聞かされた誉め言葉を要求するセリフ。
僕と社長は頬をヒクつかせて『あーハンサム、ハンサム』と褒める。
どうやら会社でもこれを使っているらしい。
「息子よ、今こそ我が真の名を教えよう!
我が名はアレイスター・クロウリー!
マスター・セリオンと呼ぶが良い!!」
アレイスター・クロウリーは近代英国に実在した魔術師。
セリオンと呼ばれる獣(別解釈あり)を使役したとされ、ジョブ的には召喚士に近い。
ちなみに地元にセリオンという展望台・公演を併設した道の駅があり、最近のぞみんを遊びに連れて行っているためマスター・セリオンを自称しているようだ。
祖父としてのスペックは高い。
「父さんが言うとラスボス感が半端ないね」
我が父ながら声優でラスボス役とかさせたら実にキマる。
歌も半端なく上手くて歌のお兄さんとかでもイケたと思う。
なぜ田舎でSEなんてしているのか謎でしかない。
「メガスマーッシュ!!」
叫びながら両腕を突き出す。
それ、アレイスター・クロウリーじゃなくてジョン・クローリーな。
僕が生まれる前のマイナー格ゲーキャラのネタをドヤ顔でやるのはやめてね。
「パパ…」
そんな父さんの後ろに隠れてモジモジのぞみんが顔を出す。
どんな衣装を着ても僕の娘なのだから最高に決まっている。
文句があるなら魔王である僕が相手になろう。
世界を滅ぼしてでものぞみんの可愛さを証明して見せる!
「おお、ミイラ男だね」
女の子なのでミイラ女?
のぞみんならどんな大人になっても許容するが出来れば包帯の中身は腐らないで欲しい。
腐女子になってパパを使ってのリアルBLは絶対やめてね。
そうなったら色々な意味でパパは泣くからね。
どうせなら綾波の次を追う包帯属性になって欲しい。
冷静に見ると全身包帯だから裸包帯?
くっ、わずか2歳にして男を惑わすとかのぞみん恐ろしい
いや、よく見ると白いタイツっぽいなにかを着ているようだ。
確かハロウィンのマミー仮装用全身タイツっていうのがあったはず。
幼稚園のお遊戯用っぽくって可愛い。
「のぞみん。可愛いね」
僕の言葉にはにかみながらのぞみんが下を向いた。
ん、どうしたんだ?
「のぞみん?…違うぞ。
それは我の真の名ではない」
え?
「我の芯の名はリリス!
いずれこの世界に君臨する夜の女王である!!」
ドヤ顔ののぞみん。
手をピースにして自分の目を指差す。
有名な美少女戦士のポーズ。
だがネットの某知恵袋によるとその起源は『フリーメイソン』にあるらしい。
信じるか信じないかは貴方次第。
…さて、ここで父親としてどう言うのが正解か?
期待を込めた眼差しで見ている娘。
返答次第では将来盗んだバイクで走りだす可能性さえある。
『選べ!
A:2歳にして中二病(14歳)は早過ぎだと泣いて戻ってくるように懇願する。
B:中二病は遺伝であってDNA的にいずれ発病するのだからスルー』
いつものように脳内選択肢のナレーションはフィレモン牧師だ。
僕は南十字教に高額献金しているから脳内選択肢が無料出演でも問題ない。
ってかこの選択肢は簡単だ。
B。
目の前で褒められるのを待っているのぞみんを泣かせる事など出来ない。
僕がちょっと考え込んだだけで涙目になっている。
「可愛い!さすがパパの子供だ」
その言葉でのぞみんの顔に花丸笑顔が咲き誇る。
いつも逃げ回って抱っこさせてくれないのぞみんが珍しく両手を伸ばしてくる。
勿論抱き上げて心ゆくまでちゅっちゅする。
「パパ、やめてー」
そう言いながらのぞみんは嬉しそうだ。
将来中二病が完治して黒歴史に悶絶してもアヌンナキチートがあればなかった事に出来る。
いや、黒歴史に悶絶する娘をドアの隙間から除くのもありだ。
「今日はパパが家族サービスしちゃうからね!」
そんな父親の宣言をなぜかのぞみん改めリリスが微妙な顔で首を振った。
その視線は僕の後ろを見つめていた。
…まさかハロウィンの悪霊??
怖くて振り返れないチキンの僕の肩が誰かにつかまれる。
「トリックオアトリート!
弟君、お菓子をくれても悪戯しちゃうからね!!」
にっこりと笑う
その後ろには子供のお祭りハロウィンのTPOをわきまえない叡智なコスの悪霊達。
ハロウィンというよりはサンバ衣装。
お嫁さんばチームの皆さん。
ここは社長からいただいたお菓子をそっと差し出してみよう。
社長が静岡出身という事で子供の頃からもらうお菓子は『うなぎパイ』。
そう、『夜のお菓子』と言われるアレだ。
子供の頃からの社長のネタが長い間塩漬けになっていたが今日回収された。
「パパ、がんばってー!」
リリスがお爺ちゃんに抱っこされて手を振った。
社長も微妙な顔で手を振っている。
接待中なのにすいません。
フォローは父さんがしてくれるだろう。
後日この事件を僕は『灼熱のハロウィン』と名付けた。
真っ昼間から叡智な悪霊達に引きずられていく光景はまさしく百鬼夜行だった。
どこに連れられて行ったかは言わずもがなだ。
その後はひたすら叡智な悪霊と熱いバトルを繰り広げた僕はハロウィン見物をする事が出来なかった。
しかも後日不機嫌なフィレモン牧師に呼び出されて注意された。
子供のお祭りに過激すぎる衣装はそぐわない、と。
デスヨネー。
ハロウィンで叡智な衣装禁止をお嫁さんばチームに伝えると不満が上がる。
夏に『サンバカーニバル』を開催する事で決着となった。
何故こうなったかは覚えていない。
◇◇◇ 後書き ◇◇◇
去年物語とリンクしてハロウィンイベントを考えていたのですが更新がずれ込んでさらっとしか書けませんでした。
今年はセーフ…ですよね??
SSには今までに書いた物語などを再編集して随時UPする予定です。
【 閲覧ありがとうございました 】
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