それぞれの目指す道 〜 鈴の事情 I
私はすごく恵まれた環境に生まれてきた。お祖父ちゃんは実業家で、芸能界でも顔が広かった。お祖母ちゃんは外国の出身らしく、お父さんや私は日本人離れした容貌で、一層近寄りがたさを出してたんだと思う。
私の周りの大人は私をチヤホヤし、甘やかす人ばかりだったし、近づいてくる子供たちも私を特別扱いする事に変わりはなかった。
私はそのことに気づかず、それが普通だと思って育っていた。そのままだと、相当ヤバい事になったんじゃないかな。
その環境は二人の少年によって変わっていった。
私の大好きだったピアニストのみすずさんが自分の子供だとして紹介されたのがショウ。旦那さんはゴットさんという、みすずさんとは正反対の強面の人だったが、この二人は最初から私を普通の子供として接していた。
私は自分以上にキレイだと思う相手に始めて会った。何回か会って話すうちにそのキレイな笑顔をもっと見たくなっていった。
その後、良く写真を撮ってくれる龍野のオジサンから、ムスコと友達になって欲しいと言われた。連れて来た男の子はすごく元気で、顔全体で笑って怒って、でも嫌な感じはしないコだった。この子も私とショウの事を普通の友達として、接してくれた。
そのソラとショウと私。気がついたらいつも一緒に遊んでたと思う。
私の境遇を良く思ってなかったお祖父ちゃんが、こうなる事を仕組んだらしいと、気づいたのは随分と後だったが、今ではグッジョブと思っている。
「鈴ちゃん、す、好きです。つき…」
「ごめんなさい。」
小学校も高学年になると、皆色々な感情が芽生えて行動力も伴ってくる。以前に比べると親しみやすさが出た私には、こんな告白も増えてきた。もちろん即答でお断りするけど。
「あ!リン。どこ行ってたんだよ。ショウがさ…」
教室に戻ると早速、大声で話しかけられる。こいつの言動も私の高嶺の華感を減らしてる原因なのよね。まあ、今ではそれも悪くないと思ってはいるけど。
「リン。今度母さんが二人呼んで来たら?って言ってて。ピアノも弾いてくれるって。」
「え!行く行く!絶対行く。明日?」
「いや、明日学校だろ。食いつきすぎ。」
ショウのお母さん、みすずさんは昔、フランスを中心とした音楽活動を行っていた有名なピアニストだ。ゴットさんとの運命的な出会いと結婚、その後の出産で活動休止してるけど、私の大好きな、憧れの人だ。
「あー、でもリン、なんか裕太に呼び出されてたけど、そっちの用事はいいのか?」
「あ、ソラ…」
相変わらず成長しないソラはデリカシーも想像力も無い言葉で聞いてくる。ショウに変な心配させるでしょ、まったく。
「もう用は終わったわ。今後も特に関わりはないから大丈夫よ!」
「おおう、そうか。なら、いいな。」
私の剣幕に若干引き気味のソラだが、自業自得だ。もっと大人になりなさい。
◇◇◇
そんな事も忘れたある日、帰宅しようとした私に同じクラスの美佳が話しかけてきた。彼女とはそれほど仲が良いわけでもないのだけど、優しいが気が弱く、みんなの間に挟まれて良く困っている事があり、何回か手助けしているような関係だ。
私達の通っている猿田毘古学院は、芸術、芸能の支援が手厚い事もあって、芸能界関係者や目指している子も多く通っている。美佳も確かお母さんが元芸能人で整った顔をしている。将来は芸能関係を目指してるのかなと思っていた。
「御薗さん、えっと…、ちょっとお願いがあるの。」
美佳は今にも泣きそうな感じで話し始めた。
「今週末、前から申し込んでいたコンテストがあって、菜那子ちゃんと一緒に申し込んだんだけど、ちょっと、その、問題があって…」
話が見えないと思っていたら、後ろから菜那子が出て来て説明を補足していった。
「どうやら美佳があなたの写真を使って応募したらしいのよ。」
「え!?」
「ごめんなさいっ!!」
美佳がコンテストに送った応募書類には私の写真が使われていたらしく、それで書類審査を通過、今週末の本選出場になったらしい。しかも注目のイチオシ候補として。更には一緒に応募した菜那子と共に連絡が来て二人ともイチオシ候補として運営本部から注目していると言われたらしい。
すごく注目され、大きな期待を持たれてると聞いた美佳は事の大きさに怖気付いて、親とともに菜那子に謝って来たとのこと。しかし、その後、コンテスト運営本部に連絡、謝罪したが、内部でも期待の候補として写真が回っており、少し揉めているらしい。
(美佳ってそんな事する子だったっけ?)と、疑問に思っていると、続けて菜那子が言ってきた。
「応募本人で無くても良いので、写真の人に出て貰えないか?って運営側からしつこく言われて困ってるの。少しでも興味があったら助けると思って、出てもらえないかな?」
菜那子は美佳と同様に親が芸能人で、でも両親とも現役で有名な芸能人なんだけど、自身の容姿や育ちにプライド持っているタイプで今回のコンテストにも自信があるのだろう。どうしても出場したい雰囲気が伝わってきた。
「ごめんなさいっ、本当に嫌なら断って良いから…」
「(チッ)いいの?それで問題になるのはあなたよ、美佳。」
何だか美佳より菜那子の方が出場させたがってる?おかしな雰囲気を感じる。
「うーん、今週末か。予定があると言えばあるんだけど。」
結局、私は美佳の代理として出場する事にした。コンテストはお祖父ちゃんの会社とは関係ない主催者で、迷惑はかからないだろうって事と、美佳をほっとけない気がしたからだ。
「という事で、ゴメン。ショウん家にお伺いするのは来週以降にしたいんだけど、ダメかな。」
「大丈夫だよ。元々決まってたわけでもないし。急な話だったしね。」
相変わらずショウのエンジェルスマイルは強力だ。
「コンテスト、頑張ってね。応援しにいくよ。」
「えっ?来なくて良いよ。そんな張り切って出るわけでも無いんだから。」
ショウが爆弾発言を出してきた。何かちょっと気になるから出てみるか、と思っただけなのに、ショウが観に来るなら下手な対応できないじゃない。どうしよう。
「おうおう、リンは見た目だけなら完璧だから、イイとこ行けんじゃね?」
「…見た目だけ…言ったわね…。」
二人からの異なるエール(?)で本気を出さざるを得なくなってしまった。
「それでは第一回全国美少女コンテストのグランプリを発表します!」
先程まで色とりどりの衣装を纏った、それぞれ魅力的な各候補生が色々なパフォーマンスを披露した舞台の上には、決勝に勝ち残る事が出来た12名の少女が並んでいる。既に幾つかの賞は発表され、残るはグランプリを残すだけとなっていた。鈴はこの選ばれた12名に残っていた。幼馴染の二人が応援席に来てるからには、下手なものは見せられない、ということで出来る範囲での全力で歌に演技に、と取り組んでみた結果だ。
やや照明が落とされ、暗くなった舞台にピンスポットの光が左右にゆっくりと動き、受賞者を探している様な演出がなされていた。
「栄えある初回のグランプリに選ばれたのは…8番、御園鈴さんです!」
「わたし!?」
この12名には菜那子も残ってはいたのだが、残念ながらグランプリには選ばれなかった。ここまで残った事自体、持って生まれた才能に加え、日頃から努力して来ていたのだろう、更に自信があったのかすごく悔しそうな顔で見ている。
照明があたり、明るくなった客席を見ると、ソラが大騒ぎしてるのが見えた。まったく子供なんだから。隣には嬉しそうなショウ。いつもボイトレを一緒にやった効果があったかな。二人の喜ぶ姿を見て、やっと嬉しさが込み上げてきた。
ん?その少し後ろに居るのは裕太?来てたんだ?少し顔を赤くしてこっちを見てるけど、なんで来てるの?
「やったな、リン!日頃の地獄のトレーニングの成果が出て良かったな。」
「リン、おめでとう。一番素敵だったよ。」
「まあ、二人が見てるからね。恥ずかしく無い結果になってよかったかな。」
表彰式の後、舞台裏で三人で話していた。向こうでは親達も話しているが、喜んでるソラ達の親に比べて、ウチの親は困った顔をしてる。まさかグランプリ取れるとは思ってなかったようで、これから話し合いが大変?と言っているようだった。なんだろう。
「鈴ちゃん!さすが鈴ちゃんだね!グランプリ間違いなしって思ってたよ!」
突然、割り込んできた声が?って裕太?
後ろには菜那子も来てるし、どういう状況なの、これ。
「おう、裕太じゃん、お前も来てたんだ、珍しい。」
「あ、
はぁ、菜那子、一体何をしたかったのよ。後ろで恨めしそうに見てるけど、私関係ないからね。
「へえ、槇村に誘われたんだ。ふーん。そういえば槇村も決勝残ってたな、おめでとう。まあ、惜しかったな!」
「っ!あ、今回は審査員と合わなかったのよ、私の良さが伝わらなかったのねっ。」
「合わなかったねえ。まあ、また頑張れよ。」
後でソラに聞いたら、あのコンテスト主催が菜那子の親の事務所関連で、自分の受賞は確実だと思ってたみたい。それを裕太に見てもらおうと会場に呼び出して、あの状況になったと。菜那子は裕太の事が好きだったのかな。こうなると美佳の写真の件も怪しいわね。それにしてもソラは何処からこんな情報仕入れて来るんだろう?
グランプリ受賞後も揉め事は続いた。私の応募自体、無理やりねじ込んだような処理になっていたみたいで、お祖父ちゃんの事務所と運営本部で話し合いがあった。お母さんの困り顔はこのせいかな?結論としてグランプリ発表までのコンテストの報道までは対応するけど、その後の芸能活動やデビュー等はお祖父ちゃんの事務所が引き受ける、と。私も今すぐ芸能活動するつもりは無かったから良かったけど。よく考えたら初回のグランプリ受賞者が別事務所って大丈夫なの?
その後、菜那子の両親の仕事が減ったように見えるのは関連があるのだろうか、関わりたくないけども。
あ、それと美佳の母親が芸能界に復帰したみたい。いつの間にかお祖父ちゃんの事務所所属になってたけど。美佳も少しだけ強くなり、明るくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます