「揚げ足取られちゃったから、ゲソ天おまけしてあげるね」


 いいなあ、と思う。何気ないやり取りが、楽しい。

 おばあさんの手で揚げられていく天ぷらたちも、パチパチという音を立て、私の退職を拍手で祝ってくれている。

 今日あいさつをして職場のみんなから貰った拍手よりも、天ぷらの拍手の方がよっぽど温かい。

 おめでとう、おめでとうって聞こえる。

 拍手に包まれて、静かに流れる待ち時間が心地よい。


「はい、おまちどおさま」

 天井の蓋からはゲソ天がはみ出している。今にも飛び出しそうだ。


 でも今日はもう少し、さくさくとした衣がしっとりと蒸されるのを待ちたいと思う。

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天井の蛙(てんせいのあ) 橘 静樹 @s-tachibana

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