第5話

「ゴブリンねぇ。好きにはなれなさそうだな。」


 あの子供達を探しに大人がやってくると思っていたのだが、それよりも先に外の魔物の群れが侵入してきた。

 先述の通り、ゴブリンだ。入口に居座っている。一、二体ならば兎も角、群れともなればそこらの村人では対処も難しいだろう。

 私としては悪くない展開ではあるが、ゴブリン共の所為でダンジョンが発見される危険性が高くなった。一長一短と言ったところか。

 奴らはオスしか産まれず、他種族を孕ませて繁殖する。その癖雌雄の見分けが付かないのだから質が悪い。アクアゴーレムを突破されるとは考えづらいが、流石にゴブリンの相手はしたくない。人間も嫌だけど。


「まぁ、入口だけなら問題無いかな。……え? なんで一匹だけこっち来てるの? あっ、あー……。いつか仇は取ってあげますよ……。」


 先日一人になってしまった少女なのだが、何故か一匹で探索しているゴブリンに見付かって、犯されてしまっていた。流石に死ぬまで苗床にされるのは可哀想だから早く楽にしてあげたいところだ。けれど、私には直接下せる手が無いのだ。ミストフライ達を向かわせているが、期待は薄い。あれは気付かれにくい代わりに毒などの効果は微弱。その場に留まっていてくれれば良いのだが。

 やはりと言うべきか、結局のところ間に合わずお持ち帰りされてしまったわけだが、あのゴブリンは何なのだろう。割と奥の方まで来ていたのに、一切迷わずに来た道を戻っていった。まさか完全に構造を把握、もしくは記憶しているのか。あの一匹だけならまだ良いが、ゴブリン全てがそう言った能力を持っているとすれば、近い内に迷路を突破されそうだ。

 やはり駆除するべきか、しかし手が足りない。少女から得ている迷宮力も大した量ではないし、贅沢は控えるべきだっただろうか。


「おや? 良いね、これは実に良い。」


 何が良いかと言えば、それは私の運が良いという事だ。別の魔物が乱入してきたのだ。

 ゴブリンと縄張り争いを始めたのは(ダンジョン内は全て私の領域なので、奴等のもの扱いというのはちょっと嫌な気分だ。)ワイルドウルフ、狼型の魔物だ。こちらもまた群れで行動する。数ではゴブリンに軍配     が上がるが、ウルフは動きが素早く的確に致命傷を狙うため、単純な強さで言えば普通のゴブリンでは決して勝てないだろう。

 どちらが勝っても私は得をするのは間違いない。多少減るとしても、ダンジョンは迷宮力を得る事になる。迷宮力への変換効率が一番高いのは命とか魂とか、そういうもの。次点で血肉だ。言うなれば、ダンジョンとは他者の生命力を糧として成長している。だからこそダンジョン内で死者が出れば、それだけで私の扱える力は強くなるのだ。

 出来ればゴブリンにはここで全滅して貰いたい。先程の事さえ無ければ放置していたのだが、やはりあの一匹だけであろうとも空間認識能力に長けているとなれば死んで欲しい。ついでにウルフ側も大きな損害を被ってくれれば御の字だ。

 侵入者達の死を願いながら食事を摂る。ゴブリンとワイルドウルフの殺し合いは続き、その命が迷宮力へ変換されていく。腹が満たされるのを感じながら、まるで私が奴等の命を直接食べている様に思えた。私こそがダンジョンなのだから、間違いとは言わないけれど。

 ゴブリンとワイルドウルフを闘争は続き、双方がかなり数を減らしたところで、更なる勢力が乱入してきた。


「うわ。人間まで来ちゃった。……駄目だね、あれは絶対に殺しておかないと。」


 あの子供達が暮らしていた村だか町だかから来たのだろう。壮年の男性二人が長剣を手に魔物達と戦い出した。これが意外と強く、ほとんど傷を負わずに立ち回っている。元冒険者か、元兵士か。戦いを生業としていたであろう事は容易に窺える。

 ゴブリンもワイルドウルフも所謂雑魚に分類される魔物であるが、低ランクの――駆け出しの冒険者にとっては厳しい相手と言える。群れで行動するため数で不利になりがち、らしい。以前世話になった、本当に世話になった冒険者達から聞いた。もしも彼等がこのダンジョンに来たら絶対に殺したい。

 兎に角、あの二人組はそこそこの実力があると言う事。外の魔物を全滅させるのは構わないが、彼等を取り逃すのは避けたい。応援を呼ばれたりしたら堪ったものではない。

 ならば、どうすれば良いか。簡単な事だ、手を増やせば良い。三つ巴のお陰で、迷宮力は潤沢だ。

 彼女も殺してあげよう。最後の慈悲を与えてやるくらいの同情心はある。もっとも、それは私には与えられなかったけれど。そう思うと、苛立ちを感じる。


「あの子、ちょっと嫌いだな。」

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