第4話
初の侵入者は人間の子供だった。歳は十二、三と言ったところだろうか。まあ、私もそこまで変わらないか。
三人で入って来て、二人は死んだ。あんな見え見えの罠に見事引っ掛かってくれた。あの麦藁をこちらで吸収しておいたのも功を奏し、取り逃してしまう可能性をかなり減らせた。
しかし、何と言うべきか。腹の奥が熱い様な、頬に熱が篭っている様な。
「……羨ましい。」
思わず口からこぼれていたのは、そんな言葉だった。
羨ましい、確かに羨ましい。私は見たのだ、彼等の絆というものを。命を落とした仲間を穢さぬ様を。自らの命を懸けて活路を切り開こうとする様を。
私には手に入れられなかったものだ。だからこそ、死んで欲しい。
私の心は羨望以上に、怒りだとか嫉妬だとか、そう言った物で占められていた。
「最後のあなた。無事に戻れると良いですね?」
残された少女に、届かないと解っていながら言い捨てた。どうせこちらからは手を出せないので、飢える苦しみや孤独の辛さを少しでも理解してから死んでくれたら良いなと思った。
さて、子供二人をダンジョンに吸収した事で使える迷宮力が25000程に増えた。最初が3500だった事を考えると、利益はかなり大きい。
持ち物は手元まで回収したが、ろくな物が無い。何だ、麦藁だの木剣だの。服は合いそうにないし、血塗れになった物は流石に着たくない。すぐ帰るつもりだったのか食料の類も持っていない。大した迷宮力には出来ないが、全て吸収させてしまった。
この迷宮力で何をするべきかなのは決まっている。ダンジョンの強化だ。が、その前に。
「美味い! 何これ、本当にミルクなの?」
生み出したのはダイゴミルクが湧き出る器、と言う宝。このダイゴミルクが何の動物から採れるのかは知らないが、途轍もなく美味い。甘味と酸味が――おや、これではエルペと同じ感想になってしまう。まあ、風味がまるで違うし、良いだろう。見た目はプディングみたいだ。あれは食べた事無いけれど。
そしてもう一つ。
「うーん、やっぱり服が欲しい。」
やはりまともな服と言うのは人間として生きるのに必要だと思うのだ。あまり無駄遣いは出来ないので、一着で済む様な物を選んだ。そよ風のワンピースは、常に僅かな風を発している。下の方がはためきがちなのが少し気になるが、心地良い風を感じるのは悪くない。
ついでに下着も、浄化のドロワーズなる物を作った。名称通り汚れ知らずな様で、これさえあれば他に下着は要らないかもしれない。まあ、目覚めてからは汚す様な事も起きていないのだが。
迷宮力はあと22000程有る。最初の改造に使用した迷宮力と同じくらい使っていると思うと、少し贅沢し過ぎたかもしれない。いいや、すぐに無くなる様な物でもないし、きっと大丈夫だろう。
気を取り直して強化を行う。このダンジョンに必要なもの、それは兵力だ。罠しか無いのであれば、全て突破された時点で終了。私一人では抵抗も出来ずに殺され、コアも破壊されてしまうだろう。
だから魔物を生み出す。造るべきなのは強大な魔物を一体と、数を用意出来る死ににくい魔物。そして条件がもう一つ、あまり生物らしくない魔物が良い。絶対に有り得ないと理解しているが、裏切られそうで嫌だからだ。喋る奴は論外。
まずは強い魔物、このダンジョンの守護者となる魔物だ。これには水で出来たアクアゴーレムを選んだ。ゴーレムではあるが、その実態はスライム系統の魔物に近い。身体を自由に変型出来る上、岩や金属と違って傷付かない。例え蒸発させられても水を足してやれば回復する。弱点を狙われやすいという欠点もあるが、必要な迷宮力12000程度でお手軽に強い魔物と言える。
更に盤石にするため、新しい部屋を最深部の前に造り、噴水を設置した。これでアクアゴーレムはいつでも回復出来るし、最初くらいは不意打ち出来るだろう。
残り8500の迷宮力でミストフライと言う魔物を三十体生み出した。6000の消費で済んだけれど、中々大きいものだ。それでも利用価値は高い。羽虫型の魔物であり、飛び回ると鱗粉の様に霧を撒き散らす。この霧がなかなか厄介なもので、弱くはあるものの毒や麻痺と言った症状を引き起こすのだ。しかも無味無臭、本体のサイズは極小で見付かりにくい。これを迷路にばら撒かない理由は無い。故に三種類を十体ずつ生み出したのだ。
ここまでしても余ってしまった迷宮力は、このまま残しておく。多少は余裕がある方が機転が効くだろう。緊急事態に備えるという意味ならば、むしろ足りないかもしれないけれど。
「足りない……。うん、まだまだ足りない物が多いね。次はベッドが欲しいな。王様のベッドくらい、フカフカなのが良い。」
人間の欲は深い。宝に目が眩んだ彼等も。そして、私も。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます