タマは、おねがいされていた。(後編)

1

 ぼくは集まって来た子ねこたちのために、空き箱とひざ掛けを用意した。

 空き箱が好きな子は空き箱に入って、ひざ掛けが好きな子はひざ掛けにじゃれた。


「どうしていたのかねえ?」


 タマがみんなにたずねてみると、それぞれにゃあみゃあと、これまでのことを話しはじめた。……みたいだ。


「あのね、」


 みんなの話。

 だいたいこうだった、と、タマが教えてくれた。


「いつものように、お仕事をそれぞれしていたんだねえ」


 商店街の仕事をしている化けねこが多いので、店先ですぐに大猫又姫に見つかってしまったらしい。


「大猫又姫は、一匹一匹近づいて、化けねこの力を次々に食べていったんだって」


 こわい話だ。


「又吉さんは、食べられて子ねこになりかかっていたのに、力をふりしぼってしらせに来てくれたんだねえ。ありがとう」

「にゃん(タマさんが少し前、ご心配されていたことを思い出しましてね)」


 やっぱり又吉さんは、いいおじさんだなあ。


「ありがとう」


 ぼくからもお礼を言った。


「そうだ。

 こんなことになってしまったんだから、タマもこうしてはいられないよ。このことをほかの町にも伝えなきゃ」

「にゃん」


 灰色のシマシマ子ねこが、タマに話しかけた。


「あ、そうか」


 タマは人間の姿になって、お母さんのノートパソコンをひらいた。


「おシマさん、おねがいします」


 キーボードの前にちょこんと座らせて。


「にゃん」


 すると、おシマさんと呼ばれた子ねこは、タッチパッドを上手に使って、ホームページを呼び出した。


〈化けねこ集会電脳版〉


 なんかゲームみたいなトップページだなあ。

 と思えばそれはカモフラージュと言われた。


「ゲームもできるけど、この特別会員の交流部屋が、化けねこ限定の秘密のチャット部屋なんだよ。ほんとはそのためのページ」


 ゲームもできるけど?

 というかゲームなの?


「町内の仲間とアイテムを集めて、ひなたぼっこをしたり、おやつを食べたり、けんかを仲裁したりして楽しい集会をするゲームだよ。

 課金アイテムもあって、それは化けねこ活動や保護ねこのために使う資金になるんだ。ねこが好きな人間もたくさん登録しているよ」


 いつの間にそんなことまで。

 興味はあるけど、課金するゲームはお母さんに相談することになっている。


「にゃっ?」


 チャット部屋をひらいて、おシマさんは声を上げた。


「たいへんだ」


 タマもあわてるなんて。

 だけど画面を見たらぼくもぞっとした。


〈たすけて〉

〈みんな、子ねこになっちゃった〉

〈今は隠れて無事だけど、きっとそのうち見つかってしまう。どこに逃げよう?〉


 あちらこちらからの助けを求める書き込みで、画面はいっぱいだったのだ。

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