2
こんなことになる前の、さっきまでのことを思い返してみよう。
今日は、学校が終わるとタマが迎えに来てくれた。
「おかえり」
学校の前なので、ねこじゃなく、おじさんの姿をしている。
「あ、しっぽ」
小さな声で言うと、ひゅっ、と、引っ込んでいった。
「さようなら」
「さようなら」
学校の周りは、迎えにきた人たちでいっぱいだ。
「気を付けてね」
「また明日」
ここのところ、町内で人がいなくなる事件が続いていた。前ぶれなく、ふっ、と姿が見えなくなるのだ。
事件なのか、事故なのか、家出なのか、わからない。
そうするうちに昨日、クリーニング屋さんがいなくなった。
すると誰かが言い出したのだ。
〈小学校の近くで、見かけない黒い服の人がいた〉
そのひとことで不安は広がり、たちまち話がまとまった。
これから数日、登下校は大人が見守ることになった。
お母さんが、朝の見送りはできるけど今日は夜勤でお迎えはどうしようかと困っていたけれど、タマがいてくれて助かった。
「晩ごはん、シチューとメンチカツだよ」
シチューはお母さんが作ってくれた。メンチカツはいつものお肉屋さんで、さっきタマが買ってきてくれたんだって。
「じゃあ、キャベツ切るね」
ぼくはこのごろ包丁が上手になった。
「むう。タマもキャベツ切ってみたいなあ」
「じゃあ、教えるね」
そうしてもうすぐ家に着くっていう、そのときだった。
「タマさん!」
どうして、お肉屋さんの又吉おじさんがそこに飛び出してきたのか、すぐにはわからなかった。
「とんでもないやつですよ、早くお家に隠れ……あっ!」
そこまで言うと、おじさんはひざからくずれ落ちた。
「おじさん!」
ぼくの目の前でおじさんは。
「おじさん?」
どんどん小さくなって、丸くなって、……
「みゃあ」
白に黒ぶちの子ねこの姿に変わってしまった。
「かくして」
タマがあわてて言うので、ぼくも急いで子ねこになったおじさんを両手で包み、パーカーのポケットにそっと入れた。
「たいへんだ」
タマはちいさくつぶやいた。
「やっぱり、あいつはいたんだねえ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます