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 こんなことになる前の、さっきまでのことを思い返してみよう。


 今日は、学校が終わるとタマが迎えに来てくれた。


「おかえり」


 学校の前なので、ねこじゃなく、おじさんの姿をしている。


「あ、しっぽ」


 小さな声で言うと、ひゅっ、と、引っ込んでいった。


「さようなら」

「さようなら」


 学校の周りは、迎えにきた人たちでいっぱいだ。


「気を付けてね」

「また明日」


 ここのところ、町内で人がいなくなる事件が続いていた。前ぶれなく、ふっ、と姿が見えなくなるのだ。

 事件なのか、事故なのか、家出なのか、わからない。

 そうするうちに昨日、クリーニング屋さんがいなくなった。

 すると誰かが言い出したのだ。


〈小学校の近くで、見かけない黒い服の人がいた〉


 そのひとことで不安は広がり、たちまち話がまとまった。

 これから数日、登下校は大人が見守ることになった。


 お母さんが、朝の見送りはできるけど今日は夜勤でお迎えはどうしようかと困っていたけれど、タマがいてくれて助かった。


「晩ごはん、シチューとメンチカツだよ」


 シチューはお母さんが作ってくれた。メンチカツはいつものお肉屋さんで、さっきタマが買ってきてくれたんだって。


「じゃあ、キャベツ切るね」


 ぼくはこのごろ包丁が上手になった。


「むう。タマもキャベツ切ってみたいなあ」

「じゃあ、教えるね」


 そうしてもうすぐ家に着くっていう、そのときだった。


「タマさん!」


 どうして、お肉屋さんの又吉おじさんがそこに飛び出してきたのか、すぐにはわからなかった。


「とんでもないやつですよ、早くお家に隠れ……あっ!」


 そこまで言うと、おじさんはひざからくずれ落ちた。


「おじさん!」


 ぼくの目の前でおじさんは。


「おじさん?」


 どんどん小さくなって、丸くなって、……


「みゃあ」


 白に黒ぶちの子ねこの姿に変わってしまった。


「かくして」


 タマがあわてて言うので、ぼくも急いで子ねこになったおじさんを両手で包み、パーカーのポケットにそっと入れた。


「たいへんだ」


 タマはちいさくつぶやいた。


「やっぱり、あいつはいたんだねえ……」

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