タマは、おねがいされていた。(前編)

1

 秋の少し冷たい風に吹かれながら、ぼくと、おじさん姿のタマは家へ帰った。お母さんは今日は夜勤だから、今夜うちはぼくらだけで過ごす。


 晩ごはんの前に、ぼくたちは少し話した。

 紅茶を飲んで、また話した。

 そのうちタイムスイッチを入れていた炊飯器のごはんが炊けて、話をいったん切り上げようということになった。


   * *


「こんなことになっていたんだ」


 ごはんの後でそう言ったぼくの声は疲れていたみたい。


「ごめんね」


 タマがしゅんとした。


「それはいいんだよ」


 そのときパーカーの右ポケットから小さく、


「にゃあ」


 と聞こえてきた。

 白に黒ぶちの子ねこ。

 じつは、あのコロッケのおいしいお肉屋のおじさん、又吉さんだ。

 ねこ用のミルクをあげて、飲み終わったら僕のポケットで遊びはじめたんだ。


「まさか、おじさんがこんなことになるなんて」


 それに。

 知らない間に商店街が化けねこだらけだったなんて。


「ごめんね」


 タマは、ぼくたちに対して秘密があったことをすまなく思っているみたい。


「でも、ねこにはねこの世界があるから、人間の知らない秘密はあると思ってたよ」


 それに、お肉屋のおじさんが子ねこになってしまったことからもわかったんだ。


 タマも町内の化けねこたちも知らなかったことが、ひそかに進んでいたことを。

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